ウチの子に何してくれとんじゃワレェ!
シャルト共和国の首都ルーデで、同時多発的にデミ・ヒューマンの誘拐未遂事件が発生した。
その事件は、シャルト共和国の東隣ウベニアの南東にあるサウエチア教国の教徒によるものだった。
帝国ガイゼス教の教会上層部を不正告発で排除したティナは、冠婚葬祭の実務を担う担当者たちを残して、皇帝を亜神として崇めるような似非宗教を潰した。
だがその後は宗教選択の自由を尊重して、宗教関係には手を出していなかった。
アルも慢性的なドローン不足から、他国を挟んだ宗教国家の動向までは情報収集の対象に出来ていなかったため、襲撃の事前察知が出来なかったのだ。
実際サウエチア教徒によるシャルト共和国内での活動は、教会すら持たないマイナーな宗教だった。
そのためティナもアルも、サウエチア教徒の動向は注視していなかったのだ。
ティナは妖精王国が前面に出れば、いずれはこんな事が起こるだろうことを予測し、デミ・ヒューマンたちにはきっちりドローンによる護衛を付けていた。
幸いにしてドローンやデミ・ヒューマン自身の活躍で誘拐は未遂に終わったものの、デミ・ヒューマンと、同行していた数名も軽傷を負っていた。
「ティナ、誘拐未遂犯の脳内スキャン、終了しました」
「で、私のデミちゃんたちを襲った首謀者とその理由は?」
ティナは不機嫌な顔を取り繕うこともせず、無意識に『私のデミちゃん』と発言してしまうほど怒っていた。
デミ・ヒューマンたちの個性発現のためにデミ・ヒューマン全員に付き合っていたティナは、自分でも知らぬ間に、デミ・ヒューマンたちに母性に似た感情を持っていたのだ。
いわば『ウチの子に何してくれとんじゃワレェ!』状態である。
「目的は、妖精王国関係者を人質にして妖精の力を手に入れるため。命令者はサウエチア教国の教王です。教王が住む大聖堂の場所が判明しましたので、中距離ミサイルの発射許可を下さい」
アルも怒っていた。
アル自身の技術で生み出した生命体であるデミ・ヒューマンに対して、アルは庇護の責務を自身に課していたのだ。
ミサイル攻撃を要求してくるアルに、ティナはちょっとだけ冷静になった。あくまでちょっとだけだが。
「待って、それじゃあ無関係な人まで巻き込むから」
「他国の重鎮を誘拐するような教王を崇めて支える者たちです。決して無関係ではありません」
「子どもとかいたら?」
「…。では、どうするんですか?」
「スキャンで読み取った情報って、映像化出来る?」
「読み取り対象者のイメージですから、実際の出来事の忠実な再現とはいきませんが、可能ではあります」
「キャリー君にはつため君と出来たてのドローン、今回の実行犯も乗せて、サウエチア国内に移送。現地で人が来られない場所に秘密充電拠点建造。同時に首都の広場とかに実行犯縛って放置。そこで教王が誘拐を命じた場面の再現映像と誘拐の襲撃映像を流して、醜悪な姿をした多数の妖精が大聖堂の教王にレーザーで報復。当然街頭で実況中継。死なない程度に全身やけど負わせて、治りかけたらまたレーザーの繰り返し。インビジブルドローンで情報収集して、大きな不正してる上層部も同様の仕打ち。一方で、姿を現した機械妖精が、あちこちで庶民を救うの。あ、シャルト共和国からの謝罪要求と慰謝料請求の公式文書も、庶民に映像公開しながら大聖堂とかの高い天井に貼り付けよう」
「ふふふ。サウエチア教国の権威を失墜させ、妖精王国への敵対者には長期の苦しみを。そして庶民に国家運営陣への不信感を植え付け、機械妖精は庶民を助けて好感度アップですか。しかも誘拐実行犯は向こうで処分させる気ですね。ある意味ミサイルより、遥かにダメージが大きそうです。やりましょう!」
「また全部アル任せだけど、お願いね」
「了解です!」
アルフレート、実にいい笑顔で返答した。
ティナも悪女の笑顔を浮かべているつもりだが、なにせ外見は五歳児。単に可愛らしい笑顔にしか見えなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます