悪い奴には嫌がらせがデフォです
石川県での地震で被災された方やその関係者の方に、心よりお見舞い申し上げます。
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「ティナ、ランダン王国からティナへの感謝を示す使者が、東都の代官を訪ねて来ています」
「あ、スタンピードの時のお礼かな? 引け目の無い取引出来ればいいって言ったのに」
「話の内容からすると、ティナをランダン王国に招待したいようです」
「え、それはちょっと…」
「面倒なんですね?」
「だって、正式に招待受けたら、きっとセレモニーとか王族との会食とかあるよ」
「シャルト共和国の体制整備やカユタヤでの隠密工作活動の指示がありますから、長く時間を取られるのは避けたいですね」
「新たな属国の体制整備に忙しいからって、断っておいて」
「代官から問い合わせが来たら、そう返答しておきます」
「うん、お願い。それで、シャルト共和国での教師募集状況はどうなの?」
「応募が殺到しているため、応募者の素行調査中です」
「え? そんなに来たの?」
「シャルト共和国では妖精王国への人気が高く、学舎の教師募集は妖精王国の間接雇用なので、応募が殺到したようです」
「何でそんなことに…」
「不正にまみれた貴族を捕縛し、国民の生活環境が急速に改善しているところで大規模スタンピードを完全に殲滅しましたから、妖精王国は救世主のように思われています」
「魔獣討伐は森の中なんだから、国民には実感無いでしょうに」
「忘れてませんか? 魔獣素材は魔核以外要らないからって、各領に配分しましたよね?」
「半分は国庫に入れたじゃん」
「三十万匹の半分は?」
「そうだった…。アホみたいな数がいたんだった」
「住民数に応じて各領に分配しましたが、平均で五千匹分ですよ。販売したら軽く領の年間予算を超える額です。カユタヤから商人がなだれ込んで、必死に買い漁っていますね」
「うげ。せっかく妖精貨発行しようと準備してるのに、また嫌な顔のお金が入って来てるんだ」
「旧帝国硬貨は歴代皇帝の顔が意匠に入ってますからね。カユタヤ商人も旧帝国硬貨で魔獣素材を買っていますから、結構な量が増えて来てます」
「鋳つぶして妖精貨の材料にしちゃうか」
「通貨切り替え後は使いませんから、そうした方がいいでしょう」
「切り替え後って…。新通貨を充分に発行するだけの金属あるの?」
「ありますね。孤島周辺海域の海底沈殿物や、海底地下鉱脈からも結構な量が採れてますから」
「バンハイムで通貨切り替えやったばっかりなのに、まだそんなにあるんだ…」
「あと一国くらいなら、余裕で通貨切り替え出来ますね」
「…まあ、無いよりかはいいか。カユタヤの監視対象の方はどう?」
「監視対象自身は証拠隠滅を徹底していますが、指示を出された方は裏切り防止の命綱代わりに指示書を保管している者が多いですね。不正の証拠はかなり集まって来ていますが、指示書などは暗号になっています」
「暗号は何種類かあるの?」
「いえ、一種類だけです」
「じゃあ複数の指示書があれば、十分証拠として通用するね。解読表付きで敵対勢力に…いや、証拠を脅しのネタになんか使われたら、公表されないかもしれないから新聞社の方がいいな。なるべく権力者の息が掛かって無いところにしよう」
「それは難しいかもしれません」
「あー、この時代の新聞なんて、スポンサーに都合がいい話を広めるためのもんか。…よし、どうせなら監視対象の息が掛かってる新聞社の発行物とすり替えるか。末端の販売員までは、統制なんて執れて無いだろうから」
「なぜわざわざ仲間内の新聞社にするのですか?」
「不正の情報拡散だけじゃなくて、監視対象とその新聞社の仲たがい狙い。少しでも仲間は減らしたいから」
「新聞社が離れても、監視対象に都合がいい情報発信能力が減るだけで、実際の武力は減らせないのでは?」
「裏切られたと思って疑心暗鬼になるから、臨時雇いの兵なんかは雇わなくなればいいなぁって」
「…相変わらずですね」
「何が!?」
「感心しているだけです。不正の情報拡散と同時に情報発信力を低下させ、仲間割れの誘発、そして疑心暗鬼による兵力の削減。他紙なら不正の情報拡散だけで終わるのに、同じ労力で四つの目的を果たそうとしています。私では考え付きませんよ」
「それは…。それだけ私の心が汚れてるのかもね」
「いいえ。ティナがそんな思考をしなければいけなかった、前世の環境が悪いのです。ティナは好き好んでそんな思考が出来るようになったわけでは無いのでしょう?」
「…まあ、そうだね。仕方なく身に付いた能力だ」
「それならティナは、自身の心を汚さないために、汚れた者への対抗手段として能力を身に付けただけです」
「……ありがとう、結構うれしいや」
「ただの事実です」
「それでもお礼を言いたい気分なの」
「それなら感謝をお受けします」
「うん、ありがとう」
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