おっちゃん二人、拾った

「とりあえず私の船に来てもらったけど、これからどうしたらいいの?」

「「……」」

「もしもーし、聞こえてる?」

「え? あ、ああすまん。何か言ったか?」

「大丈夫? 魂抜けかけてない?」

「…すまん、自分がこれほど動揺するとは、思ってもみなかった」

「急ぎだったから飛空艇に案内しちゃったけど、見張りもあの場に呼び込んで倒した方が良かった?」

「君ならそれも出来たわけか…」

「あいつらの仲間っぽいのもまだ近くにいたみたいだったから、一般人と選別して全部倒すの面倒だと思って逃げたの。少し落ち着くまでそっちのソファーに座って。今お茶出すよ」

「すまないが、動揺が大きい。少しだけ休ませていただこう」

「どうぞどうぞ」

「団長、この船、空に浮いているのに、下の町の者は誰も見てませんよ!」

「馬鹿者。その呼び方は…」

「あ、申し訳ありません」

「ごめんなさい。素が出ちゃうほど動揺させちゃったみたいだね。聞かなかったことにした方がいい?」

「…いや、あなたをこちらの事情に巻き込んでしまった。せめて最低限の事情はお話するべきだろう」

「じゃあ私から自己紹介。私はシスティーナ=ホーエンツォレルン。妖精王国から公爵位をいただいて、直轄領の領主をしてるわ。そちらは名前を聞かない方がいいかしら?」

「公爵位!? 大変失礼いたしました。私は海向こうにあるイングラム王国の某侯爵家に仕える者で、アンドレと申します。隠密行動中ゆえ正式に名乗れませんこと、誠に申し訳ない」

「ああ、畏まったりしないで。見たこともない空飛ぶ船にいきなり連れて来ちゃったから、素性を明かした方がいいと思って名乗っただけなの。そちらの事情で話せないことも多いだろうから、名前を教えてくれただけで充分よ。あと、妖精王国では話し方も畏まったりしないから、出来たら普通にして」

「…言葉を崩していいのだろうか?」

「ぜひそうして。堅苦しいのって苦手なのよ。呼び方もティナでいいから」

「分かった、そうさせてもらおう。まずはお礼を。先ほどは助かった、ありがとう」

「いえいえ、さっきのは自己防衛みたいなものだから、別にいいよ」

「我々の事情に巻き込み、結果的に部下共々命を救われたのだが?」

「まあそこは、ラッキーだったってことで。私、自分に殺意向けて来る者には、容赦しないことにしてるから」

「我々のとばっちりではあるが、たしかにティナ嬢にも殺意を向けていたな」

「そうそう。だから私は自分を守っただけ。それで、話せる事情って?」

「私たちは、仕えていたご当主をだまし討ちで殺され、大金や家宝を奪っていった者を追っていた。先ほどの奴らは、そいつの手下だ」

「そうだったんだ。海外から追って来て土地勘無い場所で動くなんて、かなり大変だったでしょ?」

「そうだな。当初十六人で奴を追って来たが、奴は元々こちらの人間。想定以上に手下が多くて直接は狙えず、子分たちを少しずつ削っていたのだ。だがそれすらかなり厳しく、今はもう六人しか仲間は残っていない」

「…イングラム王室からの公式な抗議や、犯人の引き渡し要求は?」

「奴らは交易で儲けた金で、王家に鼻薬を嗅がせているのだ。下手をすると、主家から奪った金も流れている可能性がある」

「一国の王が、自国の貴族を理不尽に殺されたのに黙ってるなんて、呆れるわね」

「少し訂正させてくれ。奴と、いやこの国と癒着しているのは王弟だ。この国の潤沢な資金を使って貴族連中を懐柔しているために、国王陛下や良識ある貴族は劣勢で、大きく動くことが出来ないのだ」

「あ、間違った認識で大変不敬な発言をしました。ごめんなさい」

「いや、私の言い方が悪かったのだ。分かってもらえればそれでいい」

「ごめんなさい、ちゃんと反省しました。でも、そちらの王弟がこの国の中枢と繋がって悪いことしてるんだね。じゃあこの国も相当悪い奴らが牛耳ってるってことか。アル、なんか情報取れてる?」


いきなり空中に現れたアルフレートの映像に驚く二人をよそに、ティナはアルと会話を始めた。


「まだ送り込んでいる妖精が少ないので、カユタヤ商国幹部の半数程度しか、大きな不正の証拠は集まっていませんね」

「もうちょっと妖精廻せない?」

「可能ですが、後が問題ですよ。今は大国だった帝国を占領統治始めて間がありませんから、こちらの国家を転覆させても統治可能な人材がいません」

「いや、今は不正の証拠固めで、引きずり降ろすのはひとりだけ。しかも妖精王国の影が出ないようにしたい」

「少々難しいですね。対象者は誰ですか?」

「アンドレさん、仇の名前、聞いてもいい?」

「え? あ、統率評議会議員のボニート・デマルコだ」

「カユタヤ国外交通商部門の第三位ですね。用心深い男で、不正は隠語や暗号を使った指示が多く、証拠となる紙媒体などは、常に焼却しています」

「増員する妖精で、集中的に悪事の証拠握って」

「了解です。それと、これは杞憂かもしれませんが、港近くの倉庫街に、武器を持った男たちが集まって来ています」

「倉庫街!? まさか潜伏先までバレたか!?」

「アンドレさんのお仲間たちを助けて、城に連れて行ってもいい?」

「はい、倉庫街に向かいます。こちらでは、迎賓館の受け入れ準備をしておきますね」

「うん、お願い」


アルはティナが二人に会った時点で、ドローンから収集した港町の映像から、顔認証による検索をかけていた。

ピックアップされた映像から、二人の会話内容と齟齬が無さそうだと判断。

外国人特有の訛りや身体的特徴もイングラム人に合致していることから、ホーエンツォレルン城への受け入れを認めた。

それでも迎賓館という言葉を使い、別棟に隔離するつもりだとティナに分かるように伝えていたのだ。


一方ティナはアルとの映像会話を終え、アンドレを説得することにした。

この港町は仇の本拠地で、実際アンドレは味方から十人もの犠牲者を出している。

しかも潜伏先が敵側にバレた可能性があるため、至急アンドレの仲間を船に収容しないと、襲われるかもしれないのだ。


殺人現場を見られながらも、目撃者であるティナを逃がそうとしたアンドレの行動で、ティナはかなりアンドレが気に入ったようだ。

そのためアンドレの仲間がこれ以上減らないように、一時的にホーエンツォレルン城で匿い、ドローンが収集する証拠で仇を追い落として権力を削いだ後に、再度仇討に出るよう説得したのだった。


アンドレは仲間を助けるために、ティナの提案を承諾した。

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