変態親父に売るだと!?
シャルト共和国での大規模なスタンピード殲滅と武装蜂起集団の捕縛が終わり、ティナの忙しさも少し落ち着いた頃、ティナは隣国カユタヤの港に来ていた。
隣国港町のお忍び視察と言う名目だが、実はほとんど観光である。
お城でデミ・ヒューマンたちのお世話を受け入れたため、最近のティナにははずっと誰かが傍に控えていた。
別に嫌なわけでは無いが、たまにはひとりでぶらぶらしたいと、アルたちの反対を押し切りって出て来たのだ。
インビジブル状態のクール君で港町上空まで来て、同じく姿を消した警護ドローンに乗って目立たない裏路地に降り立った。
警護ドローン二機が付いてはいるが、インビジブル状態なので見た目は五歳幼女の独り歩きだ。
誘拐の対象になりやすいからとデミ・ヒューマンの共を付けようとするアルに、普段からお世話されることに慣れていないティナは、ひとりで自由に行動したいからと断った。
お世話されることにティナが若干のストレスを感じていると検知していたアルは、警護ドローン二機とティナの戦闘力を考慮し、しぶしぶ単独行動を認めた。
活気のある町中をふらふらぷらぷらと歩き、気になった物を買ったり、船の荷下ろしを見たり。
人込みでスリに狙われても、こっそり魔法で電撃をお見舞いしていた。
買い物である程度荷物が増えると、路地裏でインビジブル状態のドローンに手渡して手ぶらに戻る。
何度か同じことを繰り返し、そろそろ帰ろうとドローンに乗るための人気の無い場所を探していたティナは、路地裏のかなり奥まった場所で殺人現場を目撃してしまった。
三人の男が斬られて倒れ、犯人と思われる二人の男は、曲がり角からひょっこり顔を出したティナに気付いた。
「チッ、見られた。始末するしか無いです!」
「よせっ! 俺たちの目的は仇討だ。関係の無い子どもを巻き込むな!」
「ですが、子どもでも俺たちの人相くらいは伝えられますよ」
「お前は子どもを殺すような外道になりたいのか!? それじゃあこいつらと大差ないだろうが!」
「あの、私に気を使ってくれてるとこ悪いんだけど、多分これ罠だよ。あっちからもこっちからも、武器持った怖い顔のおじさんたちが、ぞろぞろやって来てるから」
「何ッ!?」
「あっちから六人、私が来た道からも六人。しかも、両方の道の入り口を通せんぼしてる人も八人いるよ」
誘拐を警戒していたティナは、警護ドローンの一機を上空に放って周囲を警戒しながら歩いていた。
警護ドローンからの映像を視覚レイヤーで見ていたティナは、状況からこの二人が嵌められたのだと判断した。
「クソッ! 誘い出されたのか!」
「へへへ、そういうこった。小娘がいるのは予定外だが、変態親父に高く売れそうななりじゃねえか。お前ら、小娘は売り払うから大きな傷付けるなよ」
「「おう!!」」
「こうなったら、この子だけでも逃がすぞ!」
「了解!」
「あの、後から来たおじさんたち。私が怖がってないの、おかしいと思わないの?」
「あ? 何だこのガキ? 頭おかしいのか?」
「頭おかしいのはおじさんたちの方だよ。小さい女の子を捕まえて変態親父に売ろうなんて、頭いかれてるよ」
「ブハッ、いいこと言うじゃないか!」
「クソガキが! こいつらと一緒にぶっ殺すぞ!!」
「出来ないこと言っちゃうと、後で恥ずかしいよ?」
「クソがっ! もういい、ガキも一緒に始末しろ!!」
「無理~♪ じゃあ、さようなら」
バリバリバリ! ドサドサドサ
「はい、おしまい」
「…………は?」
「な、何が起きたんだ……?」
「魔法で小さな雷作って当てただけだよ」
「……君は、天使か何かなのか?」
「いや、ただの子どもだけど?」
「…大の大人十二人を一瞬で倒しておいて、『ただの』は無理じゃないか?」
「うぐ…。でも、人間の子どもだもん!」
「『だもん』て…。愛らしい言動と先ほどの攻撃が、うまく結びつかんのだが…」
「えへへ」
「照れて頭を掻く仕草は、普通の子どもに見えるな…」
「そんなことより、これからどうするの? そのうち道の入り口見張ってた奴らも、こっち来るでしょ?」
「よく考えたら、なぜ見えない場所の状況まで分かるんだ?」
「えっとねぇ、妖精王国って聞いたことある?」
「あ? ああ、のさばってた悪の帝国を、一瞬で制圧して新しい国にしたって噂を聞いた」
「私、そこの関係者なの。だから妖精の力が使えるんだ。おじさんたちは私を守ろうとしてくれたから、よかったらこの状況から脱出させてあげようか?」
「いいのか? おじさんたちは人殺しだぞ?」
「詳しい話は後にした方がいいよ。入口塞いでた奴らが動き出したから」
「何がどうなるのかは分からんが、この状況から逃げられるなら頼めるか?」
「いいよ。機械妖精っていう種類の妖精出すから、驚かないでね」
「お、おう」
ティナは警護ドローン二機を地上に降ろし、インビジブルを解除。
驚く二人を急かしてドローンに乗せ、自分は自前の魔法で飛び立ってドローンのアームに摑まり、インビジブル機能を使ってクール君に戻った。
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