残ったゴミは、掃除しよう

「うまくお礼から逃げましたね」

「いや、山脈南側のスタンピード対応指揮してるのはほんとだし」

「殲滅戦に移行して、ほぼ見ているだけなのに?」

「突発事態はいつでも起きるから」

「はいはい。ではご指示を。山脈南の魔獣、倒した死体はどうしますか?」

「放置して腐らせると疫病とか怖いから、キャリー君で回収しよう」

「了解です」



一方通信を終えたランダン王国王城では、大騒ぎになっていた。

城の大広間でスタンピードの対応に当たっていたため、王太子の周りには国王や国の重鎮たちが集まっていたのだ。


初めて見る映像による会談、そして鉱山町の魔獣の死体の多さ。

しかも話の内容からすると、おびただしい数の魔獣を屠ったのは、わずか二十の機械妖精と呼ばれる者とたったひとりの幼女。


映像の衝撃もさることながら、ホーエンツォレルン公爵を名乗る幼女は、自国の王太子と代官を相手に、大人顔負けの話術と対応を見せた。


その幼女は、こちらの三倍もの山脈南のスタンピードの対応指揮を執っているという。

しかもその指揮中に、こちらのスタンピードに気付いて救援に来たようだった。


今までのスタンピードでは、全軍を持って対応しても、多くの犠牲と損害が出る。

それをたった二十の妖精とひとりの幼女が、しかも遠く離れた地域の、三倍もの規模のスタンピードへの対応途中にやって来て、魔獣の群れを全滅させて何も要求することなく帰って行った。


映像会談の内容から読み取れる事実に気付いた者たちは、半ばパニック状態になった。

妖精王国は、いったいどれほどの武力と移動力を持っているのかと。


一方、ティナとの会談時にクール君を実際に見て、会談でティナの聡明さに気付かされた王太子は、ひとり苦笑いを浮かべていた。


ティナが救援に来たのは、砂糖や綿製品の購入契約代金をもらうのに気が引ける状況が嫌だから。

取引金額は確かに大きいが、全軍でスタンピードに対応した場合の被害額に比べれば、かなり少ない額だ。

なのにティナは、契約した取引をしてくれればいいという。

恐ろしい金額になったはずの被害を完全に防いでおいて。


今そのことを告げれば、ただでさえ興奮している者たちにさらなる衝撃を与え、混乱に収拾がつかなくなる。

仮にも一国を運営する首脳陣たちを、契約時の代金をもらうのに気が引けるからと言う個人的理由で混乱に陥れてしまう妖精王国の実力に、王太子は苦笑いするしかなかった。



「ティナ、武装放棄集団が動き出しましたよ」

「他領がスタンピードで大変な時に平気で悪事を働くなんて、火事場泥棒か!」

「ひょっとして、このために小型ドローンは動かさなかったのですか?」

「うん。小型ドローンは移動させても対魔獣だと戦力的に弱いし、ドローンがスタンピード対応でいなくなってると思ったお馬鹿どもはやらかす可能性高かったからね」

「それはそうですが…。まあいいです。どう対処しますか?」

「はつため君、魔の森の仮拠点で待機中だよね?」

「はい。ずっと仮拠点に置いてあったのは、このためでしたか」

「時期は分かんないけど、やらかすの目に見えてたからね。武装蜂起の該当地域に向けて発進して」

「他の戦力はどうしますか?」

「私のクール君で、乗ってる中型ドローンをそのまま移送。蜂起の規模的に、これくらいで制圧出来そう?」

「数百人程度の蜂起のようですから、充分でしょう。現在クール君一号機は再充電中ですので、満充電の二号機に乗せて発進させます」

「おおう、結構電力使ってたんだね」

「中型ドローンでの魔獣討伐で、レーザー出力最大で使いづめでしたので、かなりドローンの充電に消費してしまいましたからね。クール君二号機が現地到着次第、順次捕縛しますか?」

「首謀者の証拠固めは?」

「手紙類の証拠に加え、蜂起の実行を命じた映像が撮れましたから、もう充分ですね」

「いいように使われてる下っ端たちの証拠は?」

「四割程度です」

「じゃあ、住民に被害が出ない限り、蜂起してから捕縛して」

「一掃狙いですね。了解です」

「武器持って集まってるだけだと、スタンピードが怖くて集まってたとか言い逃れしそうだもん」

「ああ、そういう言い逃れもあるんですね」

「数百人しかいないなら、ゲリラ的に襲う対象決めてグループ単位に分散してるはず。だから言動での罪状確定次第グループ単位の捕縛ね」

「了解です」

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