取引相手のお金を守った
「ティナ、ランダン王国王都から魔獣討伐軍が出ようとしています」
「あ、そうか。スタンピード終わったって知らせてあげないと、無駄足踏むね」
「それに、鉱山の町で妖精王国を名乗ってしまいましたから、外交的にも連絡は必要かと」
「そうだった。南側の巨大規模スタンピードの最中にこっちのスタンピードに気付いたから、焦って飛び出して外交的配慮考えてなかった。いくら救援とはいえ他国で勝手しちゃったから、連絡は必要だよね」
「クール君を王都に向けますか?」
「いや、スタンピード殲滅しちゃう武力持った集団が、いきなり他国の王都に行くのはマズい気がする。王太子は王城にいるの?」
「陣頭指揮を執ってますね」
「じゃあ映像繋いで」
「了解。どうぞ」
「王太子殿下、ぶしつけなご連絡申し訳ございません。ホーエンツォレルンにございます」
「え? お? あ、ああ、ホーエンツォレルン公、今はその…」
「そちらでのスタンピードの件でしたら、終了しましたよ」
「……は?」
「連絡が事後になってしまい重ねて申し訳ないのですが、緊急時の救援として鉱山の町の城門前で、少々お手伝いさせていただきました。スタンピードは終了し、現在はこのような状態です」
「……あの城門前に敷き詰められているのは、ひょっとして魔獣の死骸なのか?」
「左様にございます。拡大しますね」
「熊や虎の魔獣まで……。これは現実か?」
「何でしたら、城門で指揮されている方とお話になりますか? この方が指揮官のようですが」
「…この者は町の代官だ。今この者と話ができるのか?」
「王太子殿下のお姿を向こうに届けてよろしければ」
「…お願いする」
「うおっ!? な!? 王太子殿下!?」
「ジルヴェスター、私だ、ハルトムートだ、聞こえるか?」
「ハルトムート殿下! 聞こえております! お姿もしっかり見えております!」
「そう大声を出さずとも聞こえる。跪かぬともよい。今、妖精王国のホーエンツォレルン公爵にお願いして、王城とそちらで話が出来るようにしていただいた。スタンピードの状況はどうか?」
「王城!? そんな離れた場所と話が出来る!?」
「驚くのは分かるが、報告してくれ」
「あ、はい。申し訳ございません。一時間ほど前に魔獣の群れが南門に現れ、弓矢による排除を試みておりました。しかし魔獣の数が多く、堀を飛び越えた魔獣が城門に取り付き、城門を破壊せんとしていたところに妖精王国からの救援との声が聞こえ、空を飛ぶ船のようなものが城門前に現れました。その中から二十ほどの蜘蛛のような形をした者とひとりの少女が出てまいりまして、矢を何十も浴びせねば倒せぬ魔獣を、一瞬の閃光と共に一撃で何匹も屠っていきました。後ろから山ほど押し寄せる魔獣をものともせず、城門前を開放し戦線を押し上げて魔獣の死骸を量産。気付けば動く魔獣はいなくなり、城門前には魔獣の死骸が積み重なって広がっております」
「…そうか。妖精王国の方々はどうされた?」
「後続の魔獣を探しに行かれたようで、時折閃光を放ちつつ、魔の森方面に飛んで行かれました」
「分かった、報告ご苦労。…ホーエンツォレルン公、この状態で会話は可能だろうか?」
「話せますよ。姿も出しますね」
「おお! 先ほどは多大なるご助力をいただき、ありがとうございました。このジルベスター、町を代表して感謝申し上げますぞ!」
「遅ればせながらご挨拶を。わたくしはシスティーナ=ホーエンツォレルンです。先ほどは緊急時でしたのでご挨拶もせず、大変失礼いたしました」
「とんでもございません! あの状況で悠長に挨拶などしておれば、門を破られて大変なことになっておりました。私どもは感謝しかございませんぞ」
「感謝いただけるのはありがたいのですが、わたくしはどなたの了承も得ずに勝手をいたしました。改めて謝罪させていただきます」
「ホーエンツォレルン公、謝罪などとんでもない。我が国の民をお守りいただき、私からも最大限の感謝を申し上げる。できれば王城にて歓待の宴を催したいのだが、ご都合はいかがか?」
「大変申し訳ないのですが、今回のスタンピードは範囲が広大です。山脈の南側ではこちらの三倍の規模で、今なお多くの魔獣が暴れております。わたくしはそちらの指揮に戻らねばなりませんので、感謝のお言葉をいただけただけで充分、歓待などのお心遣いは無用にございます」
「なんと、山脈の南側まで…。それでは長くお引止めしては、申し訳ないな。この借りは、いずれお返しいたす」
「実は今回はこちらの都合でご助力いたしました。砂糖と綿製品の販売時に、契約て取り決めた代金をいただくのが心苦しくなるような魔獣被害があっては困るのです」
「ははは、なんともご正直な事で。では取引の折には、せめて代金を上乗せさせていただこう」
「ありがとうございます。ですが取引契約はすでに済んでおりますので、取り決めた代金でお願いいたします。では指揮に戻りますので、これにて失礼いたします」
「ああ、頑張ってくれ」
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