大規模スタンピード

「ティナ、アオラキの最下層掘削部でも、魔素濃度の微上昇が確認されました」

「……ひょっとして、龍脈が山脈の下を通ってる?」

「そうかもしれませんね。個体と気体では魔素の浸透速度が三桁は違いますから、大量の岩石と土砂が乗っている山脈では、他より噴出に時間がかかるのでしょう」

「……それって、地殻が薄い部分が先に異常濃度の魔素が噴出するってことだよね。なんか噴火みたいな仕組みだな。そう考えると、先に地殻が薄い部分から噴出すれば、圧力抜けちゃって山脈での噴出は無い?」

「そうも考えられますが、龍脈が一定深度を流れているかどうか不明ですので、そうなる可能性があるかも程度ですね」

「それで、山脈南にある魔の森の魔素濃度は?」

「依然上昇傾向で、上昇率も上がっていますね」

「上昇率の変化から試算して、スタンピードになりそう?」

「このままの上昇率変化で上がると仮定すれば、三日後にはスタンピード発生濃度に達します」

「範囲的には?」

「魔素の上昇がかなり広範囲にわたって観測されていますので、このまま上昇すれば大規模スタンピードですね。三つの領がスタンピード予想範囲と隣接しています。映像に出します」

「めっちゃ広いな。その三領と念のため隣領にも、スタンピードの兆候ありとして、領内各所に映像で警告出して」

「了解」

「あと、周辺地域にある大型と中型のドローンも、半数を予想地域に移動して近くの充電塔で待機。これで戦力足りそう?」

「魔の森内の動物生息数が概算でしか分かりませんから、現状の概算では対応可能です」

「…一応キャリー君の用意もしておいて」

「搭載ドローンはどうしますか?」

「全部大型で」

「了解です」


ティナとアルは、起きるかもしれないスタンピードに対して、充分な対応策を講じたはずだった。

だが、想定外はいつでも起こりえる。


三日目の未明に魔素の噴出濃度が急上昇し、しかも動物の予想生息数が、概算よりも四割近く多かったのだ。

すでに森内でドローンとの戦闘が開始されていたが、このまま状況が推移すれば、森外への魔獣の進行を許してしまう。


ティナはアオラキからキャリー君を発進させ、大型ドローン三十二機を追加投入した。


対魔獣戦線は、応援の大型ドローンが到着したことで魔獣の撃破率が上がり、各ドローンも戦線上空に浮遊するキャリー君で充電が受けられるため、撃破効率が上昇した。


ホーエンツォレルン城で戦況を見守っていたティナは、どんどん好転していく状況に、詰めていた息を吐いた。


「ぷは~。領に被害を出さずに何とかなりそうだね。キャリー君用意しといてよかったぁ」

「高速移動出来る空中母艦構想、大当たりですね」

「ほんと、作っといてよかったよ」

「スタンピード終了までは気が抜けませんが、計算では、あと二時間ほどで魔獣の制圧はできそうで……ランダン王国王城のドローンから緊急情報です。ランダン王国でもスタンピード発生の模様」

「ああっ! 龍脈、山脈の下をランダン王国側まで抜けてたのか! 完全に見落としてた!!」

「ランダン王国南の魔の森監視所から、スタンピード発生の狼煙が上がったようです」

「まずい。ランダン王国はいいお客さんになってくれるはずなのに、スタンピードで大きな被害受けたら増産商品の売り先が…。私、クール君でランダン王国に移動するから、逐一状況知らせて!」

「了解!」

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