自領の新年祭
その後半月ほどして、忙しさが少しずつ緩和し始めた。
首都のデミ・ヒューマンたちが仕事に慣れて効率が上がり、下に付いた下級文官や武官たちも妖精王国流に慣れてきたため、ティナへの問い合わせが減少してきたのだ。
だが、ティナは自分で仕事を作ってしまった。
一か月後に控えた新年祭に、テキ屋として住民を勧誘し始めた。
収穫祭の時とは違って、スタッフとなるデミ・ヒューマンたちが足りず、どうせならと住民にテキ屋をやらせようという魂胆だ。
露店設営は元の数に戻り始めたドローンを使うとしても、テキ屋までドローンでは味気ない。
そのためお店経営に興味を持っている住民たちに、模擬店舗として屋台営業を体験してもらおうと考えていた。
仕事の合間に少しずつ屋台の構想図を描き、描き上がった屋台の種類別に、その職種に興味を持っている住民を勧誘していく。
そのせいでティナの忙しさはかえって増してしまっていたが、仕事の合間の楽しみのように、ティナは動き回っていた。
ただ残念なことに、シュタインベルクの時のような『お祭り盛り上げ隊』は組織出来なかった。
商売を考えている住民を臨時テキ屋に誘ったため、皆が商品づくりと料理の試作に没頭してしまったのだ。
減りつつはあるものの未だに多い元帝国関連の仕事をしつつ、合間に少しずつテキ屋参加者を増やし、商品づくりや料理の指導。
ティナが忙しく動き回っている内に、新年祭当日を迎えた。
この世界は数え年が一般的なため、ティナは新年を迎えて十一歳になった。
まあ、身体は例のごとく五歳の幼女だが…。
だが、ティナとて成長はしているのだ。
非常にゆっくりではあるが、アルに出会ったころより4cm身長が伸びている。
しかし、孤児院での食事が足りていなかったために、4cm伸びてやっと標準的な五歳女児ではあるが。
そんな外見五歳、実年齢十一歳のティナは、朝から大忙しだった。
新年祭のプロデューサーなのだから、当然である。
新年祭はティナの挨拶で幕を開け、まずは広場で住民参加の餅つき大会。
力自慢の住民たちが杵を振り下ろすが、返し手がドローンなために、高速餅つきになってつき手がすぐにへばり、どんどん交代していく。
子どもたち用の小さな臼と杵もあり、ぺったんぺったん大騒ぎだ。
つき上がったお餅はドローンによってぼた餅やきな粉餅、お雑煮になり、皆に振舞われた。
やがて広場の周りに配置された屋台から食欲を刺激する匂いが流れ出し、住民たちを誘っていた。
住民たちは事前に配られたお年玉を使い、各屋台を楽しんむ。
子どもたちにもお年玉は配られているため、初めての屋台にテンションが爆上がりだ。
会場は三か所の広場になっているので、一通り屋台を楽しんだ住民たちは、椅子の並べてあるのど自慢ビンゴ大会会場に移動して行った。
ここで屋台での戦利品を食べ、お昼代わりにしてもらう予定だ。
この会場だけでは座席数が足りないため、あちこちにベンチも配置してある。
昼からののど自慢ビンゴ大会会場の司会はティナ。
シュタインベルクのような兵士の盛り上げ担当が見つからず、それならばとティナがはっちゃける目的で担当した。
だがティナは、この祭りのプロデューサーでもある。
司会の合間を縫って入るインプラント通信での問い合わせに対応しながら、会場を盛り上げるために大きな身振り手振りで声を張り上げる。
当初は領主様が司会だと緊張していた大人たちも、おどけて冗談交じりに話すティナに、徐々に笑い始めて歓声を上げるようになった。
のど自慢大会の上位入賞者にはトロフィーや楽器が与えられ、ビンゴゲームでは学舎で使っている遊び道具や服の仕立券、生活用品などが賞品になっていた。
三会場目では、一転して静かな戦いが始まっていた。
湖に面した広場での釣り大会だ。
一定時間以内に釣り上げた魚の大きさを競い、上位入賞者には順位に応じた釣り道具が与えられる。
そして夜の部。
日が沈んで暗くなった池に面した広場での花火大会。
あまり大きな音を出して魔獣を刺激するわけにはいかないので花火は小さめだが、湖上に打ち上げられる花火と湖面に映る花火がきれいで、住民たちは見入っていた。
初めて見た花火に驚いていただけかもしれないが…。
ちなみのこの新年祭には、各地に散ったデミ・ヒューマンたちも客として参加している。
城にいるデミ・ヒューマンから新年祭の情報を得た出張組が、一斉に帰省を申し出たのだ。
新年三が日はどこも休みなため、要望を聞いたティナが、クール君二機を使っての帰省許可を出していた。
帰省したデミ・ヒューマンたちは思い思いの服装で祭りに参加し、しっかりと祭りを堪能していた。
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