面倒だから、属国にしちゃえ

「皇帝、ついに逃げ出しましたね」

「帝国から逃げ出してる映像撮ったら、捕まえて連れ戻して。周りにいる連中は、痺れさせて放置でいいや」

「では、国境近くまで行ったら実行します」

「皇帝が自分の国を見限った映像って撮れた?」

「侍従や近衛兵を金で釣って、国外逃亡に誘っている映像があります」

「それは良かったけど…。さて困ったぞ。金銀財宝持って自分だけ逃げようとした映像を連れ戻した皇帝の横で流せば、多分帝国は内乱になるよなぁ…。でも、自国民捨てて逃げ出すような皇帝は、その事実を公表すべきだからやるしかない。良識ある上位貴族が暫定政府作って運営…望み薄だな」

「帝都にいる上位貴族と上位の文官は、全員が暴露映像出演者です」

「…儚い希望だったか。そうなると帝都内では権力の奪い合いで、周辺領も挙兵して帝都奪いに来そうだな。そんなの絶対帝城内で終わるわけ無いから、下手すると略奪や暴動起きちゃう」

「悪人同士がつぶし合うのは大歓迎ですが、住民や子どもたちにも被害が出そうですね」

「だんだん考えるのが面倒になって来たぞ…。もういいや、やっちゃおう!」

「どうするんですか?」

「バンハイム共和国と帝国地方の属領にいる監査官、男性をクール君二機で搔き集めて。ダーナも、搭載出来るだけドローン乗せて、帝都上空に派遣。帝都を占領しよう」

「監査官たちは帝城に投入ですか?」

「ドローンで制圧して安全確保後にね。インビジブルドローンをひとり二機護衛に付けて」

「皇帝が国境付近にたどり着くのには二日かかります。それまでに孤島のドローンも回収して準備します」

「帝国地方の属領にいるドローンも、半数はダーナ投入時に拾い上げて」

「了解」



三日後、帝都上空にはダーナが滞空し、逃げ出した皇帝が連れ戻されて、帝国を見捨てた映像が流された。

その後は妖精王の声で、帝都の運営陣のほとんどが犯罪者なため、妖精王国が帝都を制圧し、犯罪者を収監すると通達。

インビジブルを解除した大量のドローンがダーナを飛び立ち、次々に犯罪者を麻痺させて捕まえていった。



電撃的な帝都制圧から五日、デミちゃんズで何とか帝国の運営を掌握したティナは、ダーナで未臣従の領を廻り、犯罪者の告発と引き渡しを要求。

だが、領主家の主だった者が結構な罪を犯していたので、相手は従うわけがない。

要求を無視して領主館に立て籠もる犯罪者を、大型ドローンで館を上から解体して捕縛し、領を占領していった。


一通り犯罪者の捕縛が終わると各占領下の町に妖精王陛下のアナウンスが流れ、占領地は妖精王国の直轄地となることを宣言。

直轄地での新たな法を動画付きで解説し、違反者への処遇も見せた。


こうして、ガイゼス神聖帝国という名前の国は消滅した。



統治者や運営陣が収監されて瓦解した統治運営機構は、帝都運営陣にデミ・ヒューマンを任命して、ドローンで現地の下級文官たちと映像会議。

人員の少ない中、なんとか暫定的な統治運営を可能にした。


町中は、姿を見せたドローンとインビジブル状態のドローンが巡回して治安を維持。

ドローンによる調査で住民台帳を作成し、ゆくゆくは各地の代表者を指名しての共和制に移行する予定だ。


この代表者には妖精王国から離脱する権限が無いので、先に臣従した領の代官とは権限が違う。

代官はいつ妖精王国から離れてもいいが、国土の六割以上が妖精王国の直轄地となったために、離脱した場合の領運営は困難を極めるだろうが。


また、代官には次期代官の育成義務と指名権があるが、妖精王国属領の代官であるため、当然妖精王国の同意が必要だ。

後継者の育成には帝都のデミちゃんズから指導も入るし、代官就任前にはテストも行う。

傲慢な地方領主など、誕生させない構えだ。


「ティナ、今回は珍しく強硬手段を執りましたね」

「今回は事態の推移を見守ってたら、かなり被害が大きくなりそうだったから仕方無いんだよ。我儘放題だった皇帝が失脚するから、住民の暴動や領軍での略奪とか起きそうじゃん。帝都に軍に兵士が少ないの知ってる周辺領は、連合組んだら帝都を手に入れられるからって挙兵しそうだし」

「暴動、略奪、内乱すべてを防ぐために、強引な手段に出たんですね」

「アルが頑張って戦力確保してくれたからね」

「単なる流用です。所定の生産能力を維持出来なかった時点で、確保したなんてとても言えませんね」


「何とかなったんだからいいじゃん。それで、生産能力の回復状況はどうなの?」

「現在アオラキとハルシュタットが43%。孤島は26%です」

「わずか一週間で、そこまで回復してるんだね」

「ですがデミ・ヒューマンの数が三十人ほど足りませんね。新人を教育しようにも、指導するはずのデミ・ヒューマンまで帝都に廻しています」

「…新人さんは、帝都で頑張ってるデミちゃんたちの補佐に付けて」

「人格形成も済んでいませんよ?」

「先輩デミちゃんと新人でペア組ませて、補佐させながら実地研修。新人も事務処理能力は高いから、人格形成の指導時間は出来るはず」

「了解です」

「この忙しさが終わったら、頑張ったデミちゃんたちには大型連休あげよう」

「…当分先になりそうです」

「ブラック企業のトップになった気分だよ」

「そんなこと言っていないで、占領した帝都や町の呼称を早く決めてください」

「帝都は首都でいいよ。各町は住民が使ってる通称で。国名は、懸賞金出して公募しよう」

「めんどくさがってますよね?」

「…ティナちゃん小さいからよく分かんな~い」

「何を突然似非幼女してるんですか」

「お仕事いっぱいで、ちょっと気分転換」

「あと七分でハルシュタットの住民たちとの就業相談会です。デミ・ヒューマンの欠員補充にと自分が名乗り出たんですから、遅れちゃダメですよ」

「は~い」

「子どもたちに誘われても、一緒に遊びに行っちゃダメですからね」

「さっき似非幼女って言ったのに、今度は子ども扱い!?」

「いいえ、ティナ扱いです」

「なんじゃそりゃ!?」

「ティナは自分で精神が大人と言っているのに、子どもと一緒になって全力で遊ぶじゃないですか」

「……行ってきます」

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