崩壊の序曲

女子会から戻ったティナは、急に忙しくなった。

新たな属領にドローンや監察官を送り込み、領の問題点を代官となった旧領主と会談。

不足物資の援助や危険個所の修復、今後の領運営計画、帝国の動向監視と対応。

ホーエンツォレルン領では、稲刈りや小麦の収穫に参加、収穫祭の企画・開催などなど。

しかも、アルが新たに作った外輪山外側の畑周辺の魔獣討伐もある。


人員的には、バンハイム共和国に多くのデミ・ヒューマンを教師として派遣したため、新たな属領への監察官確保に苦労した。

ホーエンツォレルン領での収穫や収穫祭にもデミ・ヒューマンは必要なので、城に残ったデミ・ヒューマンたちも大忙しとなった。


機材的にも、ドローンの製造ラインを四倍にしたにもかかわらず、新たな属領が予想以上に早く増え続けたために、かなりひっ迫した生産計画となった。

しかもアルが作った外輪山外側の畑が広大だったために、ドローンだけでは収穫しきれずに、デミ・ヒューマンまで投入しなければならなかった。


「アル、私反省したよ。いろんなことを、急ピッチで進め過ぎた。そのせいで、デミちゃんたちの趣味の時間まで削るはめになっちゃって、申し訳ないよ」

「そうですね。今の状況は一時的なものだとしても、さすがにオーバーワークです。ただ、デミ・ヒューマンたちの趣味嗜好が多様化して、城内に家庭菜園を作ったり、祭りの屋台での販売物を試作したり踊りを考案する者が出て来たのは、うれしい誤算です」

「え。こんなに忙しいのに、デミちゃんたちそんなことまでしてるの?」

「のんびり生活していたのが、今はいろんなことに夢中になってはしゃいでいるような状態ですね」

「それはいいことだけど、無理して身体壊さないかな?」

「レベル上げの効果で体力が増強されているので、健診結果は良好ですね」

「ならいいけど…」

「あー、こんな時に…。ティナ、帝国の皇帝が宝石や貴金属類を持って都落ちしようと準備しています」

「ちょっ!? アルは嘘言わないけど、嘘だと言って!」

「無理言いますね。で、どうします?」

「逃げ出したら道中で捕まえて、帝都に連れ戻して。宙吊りにして逃げ出す相談してる映像を横で公開」

「了解です」

「まいったな。帝都を属領が囲んだわけでもないのに、何でこんなに早く逃げ出そうとするすかな…。傲慢な奴は、帝都に籠城してでも居座ると思ってたのに、完全に読み違えた。あぁぁぁ、ドローンどうしよう…」

「帝都にはかなりのドローンがいますよ」

「帝国、多分崩壊しちゃうよ? 残ってる領から一斉に妖精王国に臣従願い出てきたら、ドローン全然足りなくなっちゃう」

「臣従を受け入れれば、ですよね?」

「…あ、そうか。帝都付近の領主って、皇帝よいしょして甘い汁吸ってる奴らばっかりだったか。……でも、その映像を示して領主交代を臣従条件に入れても想定よりかなり早く属領化しちゃうし、下手すると無政府状態で暴動起きるから、鎮圧兵力足りないよ!」

「孤島開発と海底掘削を一時中断してドローンを帝国に廻せば、何とかなるでしょう。アオラキのドローンを搭載したダーナを使って威圧すれば、充分制圧可能な兵力になります」

「それだとアオラキの生産力も海底からの資源調達も、制圧地安定させるまで止まっちゃうよ」

「ドローン製造ラインは自動化してありますから、製造出来たドローンで順次補充して行けば、半月ほどで今の状態に回復は可能です」

「材料入って来なくなるけど、足りるの?」

「一部の金属ストックが一時的に枯渇しますが、孤島側の製造ラインで出来上がるドローンを順次投入して再掘削出来ますから」

「きっついなぁ…。余力が無い時に他部署止めてまで緊急動員、もしこの状態で大災――」

「それ以上はいけません。フラグを立てないでください」

「…そうだね、やめとこう。それより今は対処に注力しなきゃ。帝都にいる軍隊って、何で使おうとしないんだろう?」

「新たに護国卿になった貴族が、軍でのクーデターを匂わせて、皇帝から利益を引き出そうとしています。ですが実際には、軍は動かせる状態じゃありませんね。暴露映像上映開始時点では近隣からの招集もあって二万程いましたが、今では五千を切っています」

「ちょっ、何でそんなに減ってるのよ!?」

「部隊単位の脱走です。ティナの、映像を見せてやる気をなくさせる策が、効果的でした。軍の兵は平民ですから、悪人の利のために使われることに憤慨して、勝手に元の領に帰っています」

「一万五千も逃げられるまで、上官は何してたの?」

「直属の上官も映像を見て上層部に憤慨したため、部隊の離脱を上に報告していませんね。元々帝都在住の軍人は残っていますが、建物内の映像上映だと、住民を散らせずに一緒になって見てます」

「うわぁ…兵員数四分の一になった上に、士気もガタガタじゃん。そこまでひどい状況になってるとは思わなかったよ」

「予想の範囲内ではなかったんですか?」

「軍人が映像見て、嫌々仕事する程度だと思ってた」

「アガッツィ男爵領での帝国軍撃退、フィオリ子爵領での略奪者捕縛、軍務卿拘束時の映像が人気なので、軍人も思うところがあるのかもしれませんね」

「あぁ、それ多分ざまあ展開が受けてるんだよ。理不尽なことする奴が罰される展開だから、虐げられてきた住民から見て爽快感があるんじゃないかな」

「…その影響かもしれませんが、帝都で貴族に反抗する平民が増えてますね。反抗して斬られそうになると『これでお前らも映される』と、相手をけん制してます」

「ひょっとして、それで皇帝が逃げ出そうとした? 帝都の平民が暴動起こしかねない空気に怯えたのかな?」

「そちらより、各貴族の皇帝に対する態度でしょう。見返りが無いと言うことを聞かないですし、嫌味を言う者もかなり増えています」

「そっちか。軍も当てに出来ない状態で、いつ弑逆されるか分からないって気付けば逃げ出すか。そういえば、教会の方はどんな感じ?」

「例の修道院関係者暗殺の件で、民衆からの支持は壊滅的です。教会関係者は、上層部が地方に逃げて隠れ住み、実務担当たちが細々と運営してます」

「しまった。神様信じて敬虔に祈り捧げてる人たちの存在を忘れてた。…地方に逃げた悪徳神官たちの財産分捕って、食料に変えて教会に届けよう」

「了解。ドローンで財産奪取して、潜伏中のデミヒューマンに指示します」

「うん、お願い。あと、このお城の掃除や私の警護に付いてるドローンも、必要最低限にして他に廻して」

「了解です。ティナ提案の自走コンバインの開発も、次回の収穫期前まで延期していいですか?」

「そうね。でも、次の収穫には間に合うようにしたいな」

「そのつもりです」

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