システィーナ御所

帝国内に妖精王国の属領が増え始めたころ、ティナは再度シュタインベルクの面々を遊びに誘った。

今回は女子会として誘ったため、アルノルトはシュタインベルクに居残りだ。


前回クラウがホーエンツォレルン領の視察に訪れた時、クラウがシュタインベルクにいる時よりも女の子らしい行動をしていたと感じたティナ。

シュタインベルクでのクラウはずっと領主としての行動を心がけているため、ひとりの女のお子に戻れるお休みが定期的に必要なのではないかと考えたのだ。


前回の視察は、内容としてはプライベート半分仕事半分だった。

アルノルトはクラウのお目付け役的存在なので、クラウを完全なプライベートとするために、申し訳ないが女子会の名目で外させてもらった。


行先もホーエンツォレルン城では他領への公式訪問感が強いため、アオラキのシスティーナ御所にした。

クラウたちには、高級旅館のような場所でゆっくりのんびりしてもらう計画だ。


女子会参加者は、シュタインベルク領主館の屋上でアルノルトやディルク騎士団長らに見送られ、クール君で飛び立った。


「あれ? ティナ様、外が見えません」

「ああごめんね。これから行くところは妖精王国の重要施設だから、一応窓を曇りガラス化して、所在地が分からないようにしてあるの」

「透明なガラスを曇りガラスにも出来るんですね。便利なガラスです」

「景色は見えないけど、すぐに着くから座ってて」

「はーい」

「ティナ、お誘いいただいたのはうれしいのですが、女子会って何ですの?」

「男性の目を気にせず、女の子だけで食事したりお茶したりして、おしゃべりしたりぐうたらしたりする会?」

「なぜ疑問形ですの?」

「いや、内容が多岐にわたるから、いまいち自信無いの。まあ、男性の目を気にしなくていいから、はしたなかろうがマナーから外れてようが、気にせず伸び伸びしようってこと。今日明日はお仕事や他人の目を忘れて、日ごろのストレス解消するのが目的だよ」

「完全なお休み? めっちゃうれしい!」

「ですがクラリッサ様のお世話がありますから、そういうわけには…」

「後ろにいるメイドさんたちが全部お世話してくれるから、ユーリアさんもカーヤさんも、今日明日は完全にお客様だよ。ついでだから、メイドさんたち紹介しておくね。左から、フィーネ、イレーネ、アンネリース、ルイーゼね」

「ティナ様、私たちは一応貴族籍持ってはいますが、ほとんど庶民ですよ。お世話される側になってもいいんですか?」

「お客様なんだから当然よ。私の城に来た時もそうだったでしょ」

「あの時は色々な物に圧倒されていたら、知らないうちにお世話されていました。クラリッサ様の侍女として付いていったのに…」

「今回は完全にプライベートのつもりだよ。クラウ、いいかな?」

「そうですわね。ユーリアもカーヤも、毎日休みなく働いてくれています。この二日間は、完全なお休みにいたしましょう」

「やった! ユーリアさん、一緒にお休みしましょう!」

「クラリッサ様がそうおっしゃってくださるのでしたら、ありがたく休ませていただきます」

「ええ。言葉遣いも、崩して構いませんよ」

「…この話し方に慣れてしまっているので、難しいかもしれません」

「私はみんなを大切な友達だと思ってるの。だから友達と話すみたいにして欲しいな。カーヤさんみたいに」

「承知…いえ、分かりました。私は友達にもこんな話し方なので、これでいいですか?」

「そういうことならOKだよ。さあ、着いたから降りようか」


「……ティナ、聞いてもいいかしら? 何ですのここは?」

「ここはダーナ、妖精王陛下の御座船の整備場所」

「……地下、なのですか?」

「地下と言えば地下かな。まあ、その辺は内緒で。泊る所に案内するね。こっちだよ」

「なんか違うの作ってません?」

「あれはドローン、機械妖精運搬用の船だよ。バンハイムが属国になって範囲広いから、移動時間短縮のために作ってるの」

「…アルさんのお力って、なんでも作れてしまうのですね」

「なんでもは無理かな。星や月は作れないから」

「そんなん作れたら、もう神様じゃん!」

「あはは。だからアルは万能じゃないんだよ」

「出来ないもののスケールが違い過ぎますわ…」

「ティナ様、これって砦ですか?」

「ビルって言って、中にいっぱい部屋があるんだけど、砦みたいな作りかな」

「なんか第二城壁に似てません?」

「ああそうだね。第二城壁は、ビルをくっつけて城壁代わりにしたものだから。さあ、この小さい部屋に入って」

「うわ、小部屋なのにおっきい窓がある。え? 上がってる! 御座船が良く見える!」

「…この部屋、すごい速さで上に上がってますわ」

「泊まる場所はビルの一番上なんだ。階段だと疲れちゃうから」

「疲れるからって、小部屋ごと移動させちゃうんですね」

「アルだからねぇ。さあ、着いたよ。みんな小部屋から出て」

「…な、何ここ? 木造なのにすっごいきれいな廊下と壁!」

「こっちだよ」

「お庭? 外に出たんですか?」

「ここ、ビルの最上階で、部屋の中だよ。上が空じゃないでしょ」

「…あの、部屋の中に家建てちゃったんですか?」

「アルだからねぇ…」

「家と言うより、大きな館ではないですか。広い中庭のようなお庭も、趣がある林になっています」

「片側に壁が無い廊下って、初めて見た」

「中庭を鑑賞しながら移動出来るでしょ。まず先に、滞在用の洋服選ぼう」

「…服屋さんまである」

「ドレスやメイド服だと、のんびり出来ないでしょ。だから滞在用の服を選んで」

「…ティナ様、私あんまりお金持ってません」

「全部無料だから、好きなの選んで。何着でもいいよ」

「太っ腹すぎる!」

「ティナ様、本当にいいんですか? ここに並んだ服は、どれも一級の仕立てに見えますが…」

「これはねえ、うちの服作りが好きな子たちが趣味で作ったの。全種類五サイズあるから、試着して選んでね」

「ティナ様! あのおっきな人形、ふわっふわの服着て太ももまで足出しちゃってますよ!?」

「あれは部屋着ね。部屋でゴロゴロするには最適だよ」

「ゴロゴロって、床を転がるんすか?」

「床全体にふわふわ絨毯が敷いてあって寝転がれるようになってる部屋もあるから、あれ着てると楽だよ。着替えずに寝ちゃっても大丈夫だし」

「私、あれがいいです!」

「他にもちゃんと選んでね」

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