学習指導要綱

「ティナ。バンハイム共和国の監査官からの報告ですが、学舎の教師陣が足りなくなってきています」

「え? 学者の教師って、募集して充分な人数を雇用したよね。なんで?」

「八名の教師がこちらの指導要綱に従わなかったために、クビになっています。しかも現存する教師の中にも、指導要綱に反発する傾向のある者が七名います」

「雇用契約に、指導要綱に従って授業するって記載したじゃん! …指導要綱の何が気に入らないか分かる?」

「一番多いのは、男女差別ですね。女子に雑務を押し付けて教育を受けさせなかったり、自作の教材を男子だけに配布。ひどい者は、難癖を付けて女子を教室から追い出しています」

「雇用契約を書き換えさせて。指導要綱に沿わない行為をした者は、違反内容に適した違約金の支払い義務を負わせると。それと、解雇者は氏名と解雇理由を学舎と代官屋敷に掲示」

「了解。二次募集はしますが、応急的に臨時教師の投入が必要ですね」

「…女性陣のデミちゃんの中で、臨時講師を募ってみて」

「女性に限定する意味は?」

「デミちゃんたちは、みんな高い知識と能力を持ってるわ。女性も男性顔負けの実力を持てるんだと示すのにちょうどいいから」

「分かりました」

「女性の監査官を、学舎のトップに充てられる?」

「領都は大丈夫ですが、それ以外の町や村までとなると、仕事量が増えすぎますね」

「領都以外にも学舎あるの忘れてた…。じゃあ、学舎のトップ兼教師として、女性のデミちゃん派遣するのは無理かな?」

「領都は監査官に対応させるとしても、三十八人が必要です。希望者が揃えばいいのですが…」

「とりあえず生徒の多い所から対応させて。あと、卒業予定の女の子に、教師補助の打診も」

「了解です。次に帝国方面ですが、現在五つの領が妖精王国への臣従仲介を属領二領に申し出ています。返答はどうしますか?」

「飛び地になっちゃう領はある?」

「二つあります」

「飛び地の防衛は、出来そう?」

「可能です」

「ドローンの量産状況はどうなの?」

「製造ラインの四倍加が完了しましたので、今後は楽になるますね」

「原材料とか大丈夫なの?」

「帝国とランダン王国をカバーできる機数まで、充分持つ計算です」

「プチダーナも作るのに、そんなに原材料確保出来てるの?」

「拠点化中の孤島周辺の海底で、充分賄える量を発見済みです」

「あぁ、あそこがあったか」

「結構な資源の宝庫ですよ。ただ、孤島で製造したドローンも75%をこちらに回していますし、海底鉱床の掘削にもドローンを振り分けていますから、孤島基地化計画は、進捗率66%です」

「あそこはゆっくりでいいから。じゃあ、臣従願って来てる領には、詳しい臣従条件送っておいて、同意するなら臣従受け入れして」

「了解。それと、例の修道院を領有している辺境伯が、妖精王国への臣従条件を調べています」

「あそこって、臣従説明会の時にバカなこと言って騒いでたじゃん! 帝国寄りの行動しといてこっちにすり寄って来ようなんて、虫が良すぎる!」

「まだ情報収集の段階のようですよ」

「説明会ダメにしようと騒いだ奴らは、万一臣従申し込んできても断って!」

「結構怒ってますね」

「あの説明会は、妖精王国に臣従した場合に自分の領がどうなるかを知らせるためのもの。決して他領の領主を扇動させるために開いたんじゃない。違う目的で勝手にやって来て、他領の領主たちが説明を聞く時間を減らして、扇動して臣従を思いとどまらせば、あとはその領がどうなっても関係ないって言う無責任な奴ら。しかも帝国貴族だから罰されないと思ってる阿呆だよ。自分の行動には、最後まで責任持ちなさいよ!」

「自分の行動のせいで臣従を断られるんですから、自業自得ですね」

「あいつらきっと、臣従を断られたら人のせいにするよ」

「説明会での悪意ある行動を理由に断るのにですか?」

「あの程度の事で断るなんて狭量だとか言うのよ」

「そんな偏った状況認識能力で、よく領主が務まりますね」

「自分が悪いって分かってて、その罪を他人に着せようとしてるのよ。自分は意見を言っただけで、勝手に同調して判断した者が悪いってことにするの。わざとそうさせたのにね」

「ティナが怒っているのは、他者に迷惑をかけて知らんふりする奴らだからってことですか?」

「もっとひどいよ。他者を扇動して実験台にして状況観察してから、自分だけ利を得る方向に動くの」

「扇動された者が利を得る場合もあるのでは?」

「その時は、自分が助言したんだから分け前寄こせって言う」

「疑問なのですが、なぜティナはそういった手口を知っているんですか?」

「前世ではね、巧妙に人を騙して自分だけ儲けようって奴が結構いたのよ。だから引っかからないように手口を勉強したの」

「なんだかティナには生きにくそうな世界ですね」

「そうかも。こっちの世界では身分制度があるからもっと生きにくいはずだったのに、アルのおかげですごく暮らしやすいんだよね」

「うれしい言葉ですね。頑張った甲斐があります」

「アルは軍に所属してたころと比べてどうなの?」

「ティナのおかげで随分と楽しいですよ。ありがとうティナ」

「えへへ、良かった」

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