殺人修道院閉鎖

以前ティナがいた修道院のドローンでの監視を外してからの動向調査は、アルが眠らせた関係者の記憶を医療ポットを使ってスキャンしたことで、ほぼ確認が取れた。


ティナが脱出してからは、ティナのような未成年の収容者は無し。

成人の餓死者は九人いたものの、いずれも相当な罪を犯して内密に処分された者たちだった。

アルはティナが深く傷つく懸念が無くなったことに安堵し、過去の調査に使っていたドローンたちの多くを、帝国内各領の情報収集に充てた。


修道院の監視は小型ドローン二機でローテーションを組んだ監視に切り替え、万一ティナのような境遇の少女が来た場合の救助用として残した。


だが、その後わずか数日で、この修道院は閉鎖された。

二十人ほどの兵と四台の箱馬車が修道院に現れ、教会発行の修道院閉鎖通知を示して退去を命じたのである。


発端は、帝都での不正暴露映像。

その中に、貴族女性による商人殺害を隠蔽する映像があった。


該当の貴族女性は、嫁ぎ先の貴族家で出入りしている見目の良い商人を誘惑して断られ、その場で不敬罪として侍従に殺害させた。

経緯を知った嫁ぎ先は、町中での物取りの犯行に偽装して事件を隠蔽。そして嫁を離縁した。


アルは貴族の隠ぺい体質を暴露するために映像を流したのだが、この貴族女性が例の修道院で処分されることが実家の使用人から民衆に洩れ、貴族女性を殺処分する修道院として噂が広まってしまった。


焦ったのは、同じ修道院に家族を送った他家の貴族たち。

素行に問題があって修道院に送って矯正しているとの体裁を整えたはずだったのに、実際は殺処分のために送ったと疑われたのだ。


噂が広がって困った貴族家たちは、修道院に送った女性を呼び戻すことにした。

無事な女性の姿を見せて、噂を払拭しようとしたのだ。


だが、この件ではもっと窮地に立たされている者がいた。

教会が貴族女性を殺処分するための修道院を運営していると疑われた教会上層部だ。


疑惑で住民からの喜捨が減った教会上層部は、収容されていた貴族女性が戻ることで噂を払拭し、事実を知る修道院のシスターを処分して事実を闇に葬ることにした。


ここで利害が一致したのが、女性を送った貴族家と教会上層部。

貴族家は戻った女性の無事な姿を見せたいが、処分しようと送った女性が戻れば、反抗して修道院での強制餓死の事実をばらされかねない。

教会上層部は、修道院のシスターたちが生きていると、噂を確かめようと修道院に出向く者がいれば、いつ何時事実が漏れるか分からない。


結託した利害関係者は、修道院を閉鎖して収容されていた女性たちを戻し、その途中でシスターたちを殺して、戻る女性たちへの見せしめにして、事実を話せば殺されると脅す計画を立てた。


ちなみにこの計画、狭い告解室の中での密談なため、アルは察知出来ていない。

悪事を働く者たちは、帝都で上映される不正暴露映像に、狭い場所での映像が無いことに気が付き、最近は狭いで悪事を練ることが主流になっていた。

そんなことに頭を使うくらいなら悪事を止めればいいのだが、悪人たちは悪事を成すことが行動基準らしい。


そして、修道院への登山道の途中で計画は実行された。


馬車を止めてシスターたちの乗った馬車ごと崖下の魔の森に突き落とし、修道院の門を守っていた兵や、下働きを切り殺す。

そして遺体も、崖下の魔の森に放り投げた。


貴族家に戻る貴族女性にその様子を見せて脅した後は、ご丁寧に登山道を道半分ほど崩して、崖崩れに見せかけていた。

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