臣従説明会。やっぱり邪魔する奴がいた

一か月後、フィオリ子爵領の草原では、妖精王国への臣従説明会が朝から開かれていた。


街道横の草原の一部が円形に刈り取られて整地され、奥側の半円がコロシアムのような階段座席に、街道に近い側にはクロスの掛かった丸テーブルが数多く配置されていた。


当初の出席予定者は五十人ほどだったが、直前になって多くの貴族家が詰めかけたため、各領主家の出席者を三名までに絞り、何とか会談席に収容することが出来た。


アルフレートから紹介されて円形会場の中心に立ったティナは、挨拶の後に動画を頭上に映し出し、会場中に聞こえるように、拡声して各種の補足説明を始めた。


映像のあまりの内容に驚く出席者。

解説が進み軍務卿捕縛やダーナによる帝国軍撃退の様子が映されると、会場はどよめきに包まれた。

ティナは場が落ち着くのを待ってから、アガッツィ男爵とフィオリ子爵に、映像の正当性を証言してもらった。


その後、属領化した後で起こった諸問題や犯罪の取り締まり映像が流されると、突然席を立って怒鳴る男がいた。


「これではまるで、我ら領主はただの使い走りではないか! 帝国貴族を馬鹿にするな!!」

「そうだ! 我らは栄えある帝国貴族。このような属領化など受け入れられるものか!!」

「領は領主の物だ! それをかすめ取ろうとする妖精王国は、まるで盗人ではないか!!」


追従してがやがやと口々に文句を言い始めた者たちを見たティナは、浮かべていた笑みを消し、まるで作り物のような無表情になって、軽く片手を振った。


そして、大画面大音量で様々な映像が流れ出した。

その映像に映っているのは、立ち上がって怒鳴り散らしている者たちが、説明会を失敗に終わらせようともくろんでいる姿だった。


「目論見が外れて残念ね。あなたたち分かってる? ここは妖精王国に所属してる領なの。だからあなたたちの特権は何ひとつ通用しない。騒乱罪及び扇動罪で、深達度Ⅱ×マーク実行」

「ぎゃ!」「ぐあ!」「ぐは!」「ひっ!」………。

「ぐぅぅぅっ。おのれ小娘! ただでは済まさんぞ!!」

「はい、公爵家当主への不敬罪追加。深達度Ⅲ実行」

「ぐがぁぁぁぁ!」

「次におかしなこと言ったら、頭蓋骨に刻んであげる。こいつらは犯罪者だから、説明会から強制排除。馬車に放り込んでも自領に帰らなかったら、何本か骨折ってもいいよ」

「承知いたしました」


アルフレートの返事と共に、会場周りにいたドローンたちが一斉に動き出し、犯罪者たちを吊り上げて馬車に放り込んでいった。

ぎゃーぎゃーと喚いてはいるが、ドローンたちはお構い無しだ。

大型ドローンに追い立てられて驚いた御者は、慌てて馬車を走らせた。


ドローンたちが街道側に集中した時、突然会場横の草むらが土ごと跳ねあがった。

地面の中から黒づくめで覆面をした八人が踊り出し、手に持った武器でティナを攻撃した。


だが、放った武器は全てティナの手前で空中に静止し、武器を放った男たちは硬直して空中に吊り上げられた。

インビジブル化した警護ドローンも武器とティナの間に割って入ってはいたが、ティナの行動の方が早く、出番が無かった。


「ふう~ん。ナイフにクロスボウ、斧や吹き矢もあるわね。全部何か塗ってあるけど、毒でしょうね。じゃあ、返してあげるよ」


ティナの言葉と共に、放った者に返って行くそれぞれの武器。

黒づくめたちは小さなうめき声をあげ、やがて泡を吹いて痙攣を始めた。


「うわ、暗殺者が自分にも効いちゃうほどの毒使うって、どんだけ殺意高いのよ」

「ティナ様、お言葉が乱れております」

「おっと、ごめんあそばせ。でも、犯罪者に丁寧な言葉を使いたくないの。こいつら首謀者のとこに送り届けて、妖精王国公爵家当主の殺害未遂で、首謀者の首と慰謝料を請求しておいて」

「承知いたしました」


ドローンが動き、ピクリともしなくなった黒づくめたちがどこかへ持って行かれると、フィリオ子爵が近付いてティナに話しかけた。


「ホ、ホーエンツォレルン公爵。今の者たちはいったい…」

「帝都からの暗殺者でしょうね。アル、首謀者が私の殺害命じてる映像ってあるかしら?」

「こちらです。犯人は帝国宰相で、暗殺者は宰相専属の暗殺部隊です」

「宰相が専属の暗殺部隊持ってるって、帝国上層部ってアホなの? しかも通常の武器や毒で私を殺せるとか思ってるところがもう…」

「御座船や機械妖精たちを実際には見てはいないでしょうから、こちらの実力が分かっていないのかもしれませんね」

「それって、収集した情報から相手の実力を計ることが出来ない無能ってことでしょ」

「その通りですが、そろそろ言葉を戻してください。来賓の前ですよ」

「あぁ、ごめんなさい。ちょっと頭に来ちゃってるから、後の説明任せてもいい? 少し頭を冷やして来るよ」

「承知いたしました」


ティナが会場横にある天幕の中に消えると、アルフレートがティナに代わって後の説明を引き継いだ。


説明終了後に戻って来たティナは、各領主たちと共に会場の丸テーブルでの立食パーティーに参加。

各テーブルにデミ・ヒューマンを配置して、毒味や給仕、料理の素材説明をさせた。


ティナは各テーブルを廻って質問に答えていたが、一番多かったのは暗殺者を吊り上げた方法に対してだった。

放たれた武器を止めたのも、暗殺者たちを宙吊りにしたのもティナの魔法だと説明すると、皆が一様に驚く。

なかなか信じてもらえないので、自分が浮いたり相手を浮かせたりと、属領化とは関係ない魔法談義が多かった。


今回集まった人々は辺境やその周辺領の者が多いため、魔獣に対して有効と思われる魔法に興味深々だったので、近くの草むらに光の矢を飛ばしたりもした。


なかなか話題が尽きなかったが、やがて空模様が怪しくなったためにパーティーはお開きになった。

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