原点回帰という名の遊び

「私、アルに言われていっぱい考えたんだけど、考えすぎてどれが正解なのか分かんなくなってきちゃった。だからね、一度原点に還ってみようと思ったの」

「原点って、どうしたいんですか?」

「滝つぼの下に埋まってた時みたいに、二人で実験してみようと思って」

「ほう、面白そうですね。何の実験をしますか?」

「前から思ってたんだけど、魔素ってこの世界のどこにでもあるよね。だから、魔素を使って発電出来ないかと思ったの」

「魔素による発電ですか…。ティナがシュタインベルクに居付いている間に、かなりの実験を行いました。残念ですが、いずれも有効なきざしや発見はありませんでした」

「おお、すでにひとりで実験しちゃってたか。じゃあ色々聞くから、該当する実験結果があったら教えてね」

「はい、いいですよ」

「まず不思議なのは、旧艦って百二十年も地中に会ったのに、中に魔素無かったよね。この世界の物質って無機物さえ魔素含んでるのに、なんで旧艦内には魔素が入って来なかったんだろう?」

「比較実験した結果、旧艦の構成材では魔素の浸透が見られませんでした。ところがこの星の材料を元に製造した構成材は、どんな材質でも魔素が浸透したのです。おかげで、全部の材質を完全検査してからしか、構成材に使えませんでしたよ」

「…ひょっとして、原子核自体の特性が違う?」

「おそらく当たりです。分子変換装置で分子を変えても、私の所属していた星の材料では、どんな物質に変換しても魔素は浸透しませんでした」

「原子核の構造が違ったら、この星の物質を材料にした分子変換は出来なかったってこと?」

「いいえ、分子変換出来てしまったんです。この惑星外の物質と同じように原子核がふるまうのに、魔素の浸透だけ結果が違う。結局、私の持つ技術では、理由を特定することは出来ませんでした」

「理由が分からないのに、よくこの星の物質でダーナ作ったね」

「そのために完全検査が必要でした。検査したところ、この惑星外の材質と同じという検査結果が出てしまいました」

「すごいね。同じ材質と判定されて特性も同じなのに、魔素の浸透だけが違う。まるで原子核自体に、認識不能な魔法でも掛かってるみたい」

「検査結果を見た時は、まさにそんな気分でしたよ。ですが思い付く限りの検査をパスした以上、素材として使えると判断しました」

「苦労したんだねぇ…。じゃあ次の質問。魔法って、自分の中にある魔素を使って現象を発現するでしょ。だけどいくら頑張っても、空気中にある魔素を使っていきなり現象を発現することは出来ない。じゃあ、自分の魔素と空気中にある魔素は違うってことだよね?」

「その仮説で魔素を詳細に分析してみましたが、こちらも違いが分かりませんでした。分析上は同じ物質なのに、そのままでは魔法には利用出来ない。ところが一旦身体に取り込むと、魔法の発現に利用出来てしまう。もう、意味が分かりませんよ」

「うわぁ、魔素って分析者泣かせの代物だね。でも自分の魔素を使って魔法で電気は作り出せるんだから、問題なのは魔素を自分の物に出来るかどうかってことだよね?」

「そうです。デミ・ヒューマンやアルフレートのボディで魔法が使えたということは、電子脳からの電気信号で、体内の魔素を制御出来るということです。ですが、体内の魔素と体外の魔素の違いが分からなければ、機械による魔素発電は無理ですね」

「そっかぁ……。あ、ふと思ったんだけど、制御用の基板を有機物で包むとか?」

「それ、有機物内の魔素で発電が出来たとしても、どうやって外の魔素を取り込むんですか?」

「この魔法を使えばいいんじゃない? えい!」

「……空気中の魔素が、ティナに流れ込んでいる?」

「そう。空気中の魔素を、素早く吸収する魔法。この魔法を電子基板に仕込んで発動させれば、基盤を覆った有機体に魔素を吸収出来るんじゃない?」

「いつの間にこんな魔法を…」

「だいぶ前だよ。スノーボードで魔力枯渇させる子が多かった時に、素早い魔力回復方法を試行錯誤してたでしょ。でも、結構難しい魔法だったから、ボツにしてマナポーション開発したの」

「何年も前じゃないですか! ティナが使える魔法の魔素の疎密波パターンを記録した時に、教えてくださいよ!!」

「おおう、荒ぶってるね。だって、ボツ魔法だったから要らないと思って」

「失礼しました。ですがあの時点でこの魔法を知っていれば、今頃は高効率の魔素発電機が出来てたかもしれないんですよ。魔素で発電出来れば、充電塔建設に地下水脈探す手間が省けたじゃないですか」

「ごめん、ボツにしてたからすっかり忘れてたんだよ。でもさ、龍脈から異常濃度の魔素が噴出したら、魔素発電機も影響受けて壊れるかもしれないよ。だから安定した電力が確保出来る地下水脈は、あった方がいいよ」

「む、確かに。いずれにせよ、魔素発電機は実験を再開すべきですね。こちらでの仕事が片付いたら、アオラキに移動して実験しましょう」

「あ、ハルシュタットには生体プラント無いんだ」

「デミ・ヒューマンの多くがこちらにいますので整備予定ですが、まだ整備途中です」

「そっか。じゃあ、実験した後は御所に泊まってもいい?」

「どうせなら、数日泊まり込みで実験しましょう。こちらでの業務は調整しますから」

「おー、久しぶりのお休みだ! 楽しく実験して、その後はぐうたらしよう!!」

「ティナにとって、実験はお休み扱いなんですね」

「だって、魔法で色んな事したり、面白い物作るのは趣味だもん」

「なるほど。では、目いっぱい遊んでください」

「うん♪」

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