ランダン王国は、どう出るかなぁ?

「フィリオ子爵、めっちゃノリノリだったね」

「筋書きを考えて作戦を立てたのはティナじゃないですか」

「事前準備出来たのは、アルが軍務卿の動きを察知してくれたからだよ」

「確かに軍務卿の思惑を捉えたのはドローンでの情報収集ですが、軍務卿を怒らせて殺人未遂を犯させ、賄賂にまで言及させたのはティナの筋書き通りじゃないですか」

「あはは。多分賄賂や便宜測ったりしてるだろうとは予想してたけど、あそこまで誘導に乗ってくれるとは思わなかったよ」

「賄賂に言及させようと誘導してる時点で、充分予想してるじゃないですか」

「引っかかってくれたらいいなくらいに思ってたんだけど、宰相や皇族まで出て来るとは思わなかったよ」

「で、あの映像を利用して確実に軍務卿を見限らせ、帝都の権力者に妖精王国の実力の一端を見せ、なおかつ住民には犯罪者である軍務卿の哀れな姿を見せることで、妖精王国への好感度を上げるわけですね」

「もうひとつあるの。映像見ないように群衆を追い払う軍人たちは、当然その映像を見ちゃうでしょ。賄賂で地位を維持してた軍務卿の命令に従った軍人たちは、一瞬で気絶させられたの。その映像を見せられて、どう思うかな?」

「…犯罪を犯すような上司に従った結果、何も出来ないまま妖精に倒されると思うでしょうね」

「そうなると、たとえ出兵命令が出ても、従うフリして途中で逃げたりするでしょうね」

「妖精王国の属領への敵対を忌避させるわけですか。どれだけ目的詰め込んでるんですか? クラウにお城をあげようとして失敗した同一人物とは思えませんね」

「それは言わないで。きちんと状況を作らないまま突っ走っちゃったって反省したもん!」

「お城をあげようとしたこと自体は、全く反省してないんですね」

「…お城を受け取ってもらうには、クラウが納得出来る理由が必要なの。その理由が出来るまでは我慢するから」

「まさか、そのための第一歩として、バンハイム共和国とシュタインベルクをまとめての友好国樹立計画ですか?」

「…」

「私には、属領が国レベルの広さだから、友好国化した方が運営効率がいいって言いましたよね?」

「…嘘じゃないもん。属国だけど国王とかいないから各属領にこちらから個別に指示出さなきゃいけない現状は、かなり非効率だよ」

「嘘は言ってませんが、全部話してもいませんよね。正直に白状しやがれです」

「…シュタインベルク女王国設立」

「またこの幼女は、とんでもないこと考えてやがりましたね。確かに統治機構としては友好国を樹立した方が運営も任せられて効率はいいですが、今のシュタインベルク家を友好国の王家なんかに据えたら、人材不足でアルノルトたちが過労死します。クラウが認めるはずありませんよ」

「クラウが嫌だって言ったら止めるよ。だけど、各領に派遣してるデミちゃんズを、女王国の各大臣とかに任命すれば?」

「新たなお城を作って、デミ・ヒューマンを集めて中央集権化ですか?」

「各領への指示は、映像対話で済むでしょ」

「それでも、新たな統治機構構築や新城運営には、全く人が足りませんよ」

「バンハイム地方は属国化したから、ドローンの活躍で死亡率が激減してるはずよ。それに各領で学舎運営させてるから、家を継げない子たちの就職先になるよ」

「死亡率が減って増えた人口を新城への下働きとして受け入れ、学舎卒業生を統治機構の文官として採用する気ですか…。どうせティナのことですから、その先もありますよね?」

「大臣になったデミちゃんズに部下を指導させて、次期大臣や上位の文官を育成」

「それだけですか?」

「…バンハイム共和国は農地に出来る土地は多いけど、鉱物資源がほとんど無い。そしてランダン王国は、鉱物資源は豊富だけど食料自給率が低い」

「この幼女、懐柔策も無しにランダン王国との合併まで視野に入れてやがりますよ」

「シュタインベルク女王国は、妖精王国の属国じゃなくて友好国となってどんどん発展して、人口も増えて行くわ。ランダン王国との国力差が広がれば、ランダン王国はどうするの?」

「…正体不明な妖精王国の、その属国ではなく独立した友好国なら、接近しやすいでしょうね」

「隣の国は、国力も人口も増えてて食料も豊富。しかも綿や砂糖、胡椒まで持ってる。国力差から武力による簒奪が無理となれば、次に打つ手は?」

「婚姻外交ですか?」

「うん。しかも大国に対してだから、かなり有力な王族を婿に出すくらいしないと受け入れられない。持参金も相当な額を積まないと、対等な婚姻は結べないよ。手っ取り早いのは領地割譲だけど、隣接してるのは旧バンハイム王国の東部地域だった穀倉地帯よ。頑張って奪い取った食料生産地を割譲するなんて、自国の首を絞めるようなものよ」

「だから合併策に出ると?」

「そうなったらいいなぁって話」

「…国の未来を託す戦略的思考では、まだまだティナには及ばないようです」

「アルが経営戦略的な思考回路作り始めてから、まだ四年くらいしか経ってないでしょ。追い越されたら、私がおバカみたいじゃん」

「自分が十歳だって自覚あります?」

「前世含めたら、多分うん十歳位!」

「それ、自慢げに言うことですか?」

「う、違うかも…」

「大体十歳にもなって、身体は標準的な五歳児サイズなんですよ。私と出会ってから3cmしか身長伸びてないんですから、いい加減幼女としての自覚を持ってください」

「幼女の自覚って何っ!?」

「私が驚くような発想ばかりしてないで、少しは容姿に合った言動を心がけてください」

「中身まで幼女化したら、それもうただの幼女じゃん! しかもほんとは十歳なのに!」

「ティナは最近他者に姿を見せることが多くなってます。なのに大人顔負けの言動を執るから、相手から人間じゃないと思われたりしてるんです。このままだと、本当に妖精扱いされますよ」

「う、それは嫌かも…」

「だったら少しは手加減してください」

「手加減て…」

「ティナは最近頑張り過ぎな気がします。私はティナが楽しく暮らしてくれることが一番なんですよ」

「……私、アルの力を十全に使おうとして、焦ってるの?」

「バリバリ働いて策略も巡らせる幼女なんて、私は望んでません。のほほん暮らしを求めていた以前のティナの方が、幸せそうに見えましたよ」

「…私、アルにいっぱい活躍してもらおうとして突っ走ってたかも。私が幸せじゃなきゃ、アルも幸せになれないんだよね。もう一度、ちゃんと考えてみるよ」

「ええ、ぜひお願いします」

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