サクッと軍務卿退治

フィリオ子爵が帝都軍部に略奪の件で抗議した結果、帝都の軍務卿がフィリオ領にやって来た。

軍を総括する軍務卿が出向いて来たことで略奪の件を重要視しているように見えるが、実際は帝都で上映された不正暴露映像の中に軍務卿もたびたび出演していたため、職務にかこつけて居心地の悪い帝都を離れただけである。


フィリオ子爵邸で軍務卿と子爵は対面したが、軍務卿が連れて来た兵士七十人が庭におり、子爵邸は殺気立っていた。

そしてフィリオ子爵と面会するために応接室に入った軍務卿は、帯剣したままの護衛を十二人も伴っていた。

対して子爵は傍付き二人しか伴っておらず、応接室の空気は異様に重苦しかった。


「軍務卿、遠い所までようこそ。ご用件は、軍部による略奪事件の謝罪ということでしょうか?」

「何を言っておる。軍による略奪など、起こっておらん。虚偽の報告で軍の権威を失墜させた貴様に、制裁を科すために来てやったのだ」

「これはまたおかしなことを。提出した罪人のサイン入り自白調書で、軍人の略奪行為は明白。軍務卿は、帝都での不正暴露騒ぎでお疲れのようですな」

「うるさい! 軍務卿であるワシが、略奪など無いと言っておる。それが正しいのだ!!」

「ははは。さすがにいくつもの不正をする方は、言うことが違いますな。また不正を重ねるおつもりのようだ」

「貴様、状況が分かっておらんのか? ワシは、今すぐにでも貴様の首を取れるのだぞ」

「出来ぬことを放言するのは、さすがにそのお歳では恥ずかしいですぞ」

「そうか。では死ね!」


ドサドサドサ!


「な、何をしておる!? こやつを斬れ!!」

「無駄ですよ。そちらの護衛は、庭にいる兵士を含めて、全員が気絶しておりますからな」

「な、馬鹿な!?」

「馬鹿はそちらでしょう。他国の貴族である私を、正当な理由もなく殺害しようとしたのですからな」

「貴様が他国の貴族だと!?」

「ええ。軍人が守るべき自国の民から略奪行為をしたことで、帝国には愛想が尽きまして、妖精王国に臣従替えしました。今ここは他国であり、私は妖精王陛下より子爵位を賜った貴族です」

「妖精王国などという国は無い!」

「ありますよ。現に軍務卿がアガッツィ男爵領に派遣した軍は、男爵領に入ることすらできずに撃退されたではないですか」

「貴様、帝国に逆らうことが、どういうことになるか分かっているのか!?」

「ええ、分かっておりますよ。アガッツィ男爵領のように、帝国軍が成すすべなく敗退するだけですな」

「…こんなことをして、ただで済むと思うなよ」

「そちらこそ。戦時でもないのに他国の貴族を殺害しようとした場合、首謀者が何事も無く帰れると?」

「わ、ワシを拘束するつもりか!? 帝国が黙っておらんぞ!!」

「ははは。数々の不正が発覚した者など、帝国がかばうわけ無いでしょう。軍務卿の名を騙った狂人として、切り捨てられるだけだ」

「ワシは帝国の伯爵だぞ!」

「何人もの帝国貴族が理不尽に地位を追われているのを、帝都で見ておるでしょうが。ああ、あなたも同じような事をしてましたな。あなたの場合は冤罪などではなく貴族殺害未遂の現行犯ですから、確実に切られますな」

「……まさか、帝都で発生しておる面妖な動く絵は、貴様らがやっておるのか?」

「おや、悪知恵だけかと思えば、少しはものを考えられるようですな。あの動く絵は映像というもので、正確には妖精王国の妖精たちがやっております。今回のあなたの映像も、すでに帝都で流れておるはず。今頃帝城では、あなたを切り捨てるための口裏合わせが行われておるでしょうな」

「あり得ん!! 軍務卿たるこのワシが、捨てられる側になるはずが無いわ!!」

「根拠はおありか?」

「ワシがどれほど宰相や皇族に貢いでおるか知らんだろう! 切り捨てられたりせんわ!!」

「賄賂を渡しているという者をかばうはず無いでしょう。かばえば賄賂を受け取っていると認めるようなものだ」

「そ、そんなことは…」

「帝都に帰れば、口封じのために犯罪者として即斬首。ここで捕まった方が長生きできるでしょうな。牢獄生活で良ければですが」

「い、嫌だ」

「ははは。今更何を言っても無駄だ。我が領民を苦しめた報い、存分に味わえ。おい、捕縛して牢へ!」

「「はっ!」」

「い、嫌だ―!!」


この会談(殺害未遂事件?)の映像が帝都各地で流されたことで、妖精王国の名が帝国内に急速に広まった。

映像を流しているのが見えない妖精で、流している数分妖精がいるのだ。

不正や犯罪を犯せば、いつ見えない妖精に見られて映像に流されるか分かったものではない。


帝都の権力者や犯罪者たちは見えない妖精を恐れて引き籠り、皮肉なことに、帝都の犯罪発生率が激減した。

そして貴族や犯罪者の理不尽から解放された住民たちは、妖精王国に感謝し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る