第三城壁案、却下だって
帝国方面への対応がひと段落したため、ティナはシュタインベルク第三城壁建設計画とバンハイム共和国の属領整備に注力した。
まず手掛けたのは、シュタインベルクの第三城壁計画。
だが、妖精王国の意向として甜菜や綿花畑の拡張、工場増設は認められたものの、第三城壁建造案はクラウに却下されてしまった。
理由は単純。畑拡張エリアを広く取り過ぎ、第三城壁内の居住可能人数が四万人にもなってしまったためだ。
現在シュタインベルクの総人口が二万三千程なのに、六万人収容可能な領都を作ってどうするのだと、アルノルトからも苦言を呈されてしまった。
しかもバンハイム地方が妖精王国の属領となったために、城塞都市シュタインベルクが攻められる可能性など激減していると言われれば、防御施設である城壁のさらなる建設の必要性は皆無。
拡張部分の一画に、勝手にお城を建ててクラウにあげようとしていたティナの思惑はとん挫した。
仕方なく工場を増設し、周辺の森を伐採・整地して畑拡張エリアを確保した時点で、第三城壁建造計画は終了となった。
がっくり肩を落としていたティナだったが、第三城壁の建設が無くなったことで新造したドローンに余裕が出来、各属領へのドローン配備が早まった。
特に大型ドローンに余裕が出来たため、各属領の危険個所改修工事と、甜菜・綿花畑開墾が前倒しで行われた。
これでランダン王国への輸出量も確保出来るだろう。
「私、結局目標達成出来てないじゃん!」
「いえ、さすがにあの第三城壁計画は無理があるでしょう。使わない空き家作ってどうするつもりだったんですか?」
「第三城壁は、余裕を持った畑の拡張考えたらあの大きさになっちゃったんだもん! それに、クラウにきれいなお城をあげたかったのに!」
「それこそ無茶ですよ。たとえ建造費代わりにもらう土地に城を建てたとしても、クラウが受け取りませんて。ティナならクラウがお城あげると言ったら、素直に受け取りますか?」
「……アルが、私の策は全部成功してるって言うから計画したのに!」
「答えをはぐらかしましたね?」
「だって、クラウは侯爵になったんだよ。お城くらいあってもいいじゃん!」
「今の領主館も、参考にしたアレクサンダー砦は千人の兵士を収容できる規模じゃないですか。今でも部屋が余ってますし、規模的には伯爵家の屋敷より大きいんですよ。それに、領都自体二万人の収容が可能なのに、人口はまだ一万人です。アルノルトの言い分が正しいでしょう?」
「……だって、あげたかったんだもん」
「クラウのことが大好きなのは分かりますが、過剰な物をあげると、クラウが同等のお返しをしようと必死になりますよ。対等な友人でありたいんでしょう?」
「……分かった、我慢する」
「はぁ、やっとですか。それでも納得じゃなくて我慢なんですね。まったくこの幼女はもう…」
「……そんなことより、帝国方面の動きはどう?」
「突然話題を変えましたね。まあいいでしょう。属領になった二領には充電塔を建設中で、領内の犯罪取り締まりも始めています。ただドローンの数がシュタインベルクと比較すると27%程度で電力事情も悪いので、危険個所の大規模改修にまでは手が回っていません。ですがあと五日ほどすれば充電塔も稼働しますし、増産中のドローンも順次配備していきますから、二週間ほどでバンハイム共和国の属領並みの環境には持って行けるでしょう」
「住民たちの反応はどう?」
「まだドローンを見ると怯える者も多いですね。ですがアガッツィ男爵領での炊き出しやフィオリ子爵領での略奪者撃退の噂が急速に広まっていますので、ドローンに手を振ったり一礼したりする者も増えています」
「そっか。姿を見せたドローンも受け入れられそうだね。帝都やその周辺は?」
「上映映像を見る群衆を散らすのに躍起ですね。映像に出た不正者たちを処分して住民の不満を鎮めようにも、該当者が多すぎて帝国の屋台骨が揺らぐどころか、帝国運営すら危うくなるレベルですから」
「どんだけ汚職がはびこってるのよ…」
「皇帝を筆頭に、上位貴族の大半が引き籠って、物や従者に当たり散らしてますね」
「そんなことしても嫌われるだけなのに…。帝都近くに、秘密の充電基地作れるところはあった?」
「二か所工事中です。ひとつは大河の岸の水中部分に地中バイパスを設けての水力発電。もうひとつは、大きな滝の裏側を抉って水力発電機を設置予定です」
「う~ん…。ドローンの展開範囲が広すぎて、長距離移動の移動時間と電力事情に課題があるよね。プチダーナでも作る?」
「小さいダーナ?」
「ドローンを数十台運べて充電基地にもなる、ヘリ空母みたいなの」
「なるほど、200m級の空母ですか。ドローンは甲板に置くとして、船内は発電充電設備と推進器ですね」
「あと、ちょこっと修理もできるようにパーツ保管庫も」
「高速移動出来て馬力のある推進器が必要ですね。あと、高速移動時の風圧もかなりになるかと」
「だからダーナみたいに甲板を開閉式にするの。推進器は、クール君のをジャンボジェットみたいに四つくらい並べたら?」
「それでプチダーナと言ったんですね。では、設計してみます」
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