嫌がらせ、第二弾

強行スケジュールの属領・自治領・直轄領の視察が終わったころ、帝都は大騒ぎになっていた。

ティナが指示した貴族や教会の不正暴露映像が何度も流されたことで、血の気の多い住民たちが貴族屋敷や教会に石を投げ込み始めた。

帝国は身分差別が激しいため、表立った抗議などすれば即座に捕縛されてしまう。

そのため住民たちは、闇に隠れて石を投げる行動に出たのだ。


未だ暴動などには発展していないものの、やられっぱなしでは貴族の威厳が保てない。

そのために帝都内を軍人に三交代で警邏させ、帝都は物々しい雰囲気に包まれていた。


しかし原因となった映像は止めることが出来ず、見るために集まった群衆を、軍人たちが追い払っていた。

だが、映像はすぐに他の場所でも流されるため、いたちごっこのような状態だった。

そしてさらに、宿や食堂、役所や教会など、屋内での上映すら始まってしまったのだ。


ティナが帝都での上映を始めたのは、帝国重鎮たちの不正を映像で糾弾することで、帝国軍の辺境への派兵を阻止するためのものだ。

たとえ帝都の住民が不正貴族たちを糾弾しなくとも、暴動を懸念する重鎮たちは、警邏に多くの軍人を投入して治安を維持することになる。

昼夜問わず各所で不正の映像を流せば、普段帝都を警備している兵では全く対応出来ず、軍の兵士を投入するしかない。

結果帝都では、辺境への派兵どころではなくなったのだ。


「ティナ、帝都が周辺領に領兵派遣を要請する動きがあります」

「周辺領でも映像流せる?」

「上映間隔が帝都の三分の一程度なら可能ですが、派兵を断念するほどの効果が得られますかね?」

「周辺領は領地も広いだろうから、ゲリラ的にあちこちで上映すれば、兵をあちこちに待機させとかないと対応出来ないよ。それに、最悪子爵領や男爵領に派兵されても、ダーナで充分撃退可能だから」

「了解です。質問ですが、今回の映像上映の目的は、派兵の妨害だけですか?」

「違うよ。帝国貴族や教会の信用を失墜させて、妖精王国に臣従替えした場合でも、住民たちに受け入れられるようにしたかったの」

「やはり他の目的もあったんですね。では、視察にクール君も使い、ホーエンツォレルン領の場所まで分かる形にしたのはなぜですか?」

「アガッツィ男爵やフィオリ子爵にとっては、妖精王国なんて初めて聞く国だから、技術力を見せないと信用してもらえないでしょ」

「ダーナとドローンによる男爵領防衛で、充分技術力は見せましたよ」

「あれは戦闘面だけでしょ。クラウに無理言ってシュタインベルクの領都を見せたのも、ハルシュタットの街並みやホーエンツォレルン城の城内見せたのも、建造物や文化的な技術力を見せたかったのよ。あなたの領の将来は、こんな風ですよってね」

「ティナの戦略眼には呆れますね。アガッツィ男爵、フィオリ子爵共に、妖精王国への臣従で話を進めようとしていますよ」

「おお、視察ツアーの甲斐があったね。二つの領を豊かにして、その映像を流せばさらに臣従する領が増えそう」

「そこまで考えてたんですね。相変わらずの費用対効果にびっくりです」

「まだ全然結果出てないじゃん。帝国との全面戦争だって可能性あるんだし」

「これは予測演算ではありませんが、雪崩れるように妖精王国への臣従領が増える気がします」

「お? ひょっとしてアル、ついに勘が働くようになったの?」

「違います。今までティナが考えた策は、ことごとく想定以上の結果をもたらしてるからです」

「えー、そうかなぁ…。結構予想外してる気がするんだけど」

「自覚無しですか。予想は外しても、次の対応策で想定以上の結果が出てるんですよ」

「いやいや、それはアルの力があるからだって」

「何言ってるんですかねこの幼女は。私の力も策に入れて結果を出していることを言っているんです」

「あは。外見は幼女だけど、中身はおばさんかもよ」

「前世の知識も、夢で学習したみたいなものですよ。真っ当に幼女です」

「今の私って前世の感覚の方が強いから、中身は自分が幼女だとは思えないんだけど」

「…中身の話はまあいいです。ただ、私はティナの、知識を運用する能力を褒めているんです」

「えへへ。褒められちった」

「その反応、やはり大人とは思えませんよ」

「いーじゃん、容姿に合ってたら!」

「……そうですね」

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