妖精王国に臣従すると、安全安心だよ
映像を見たフィリオ子爵家の面々は、今回の略奪が帝都の意向ではないと判断した。
映像とはいえ、金品を略奪して帝国から出奔しようと相談する指揮官たちの顔や声、話し方まで捕まった者たちと同じなのだ。
しかも尋問時にも同様の映像を映してもらったため、観念して自白を始めた者も多かった。
そのため帝都軍部に対して、今回の事件の謝罪と被害補償を要求することになった。
おそらくは現地指揮官の暴走として処理され、帝都軍部は謝罪も補償もしないだろうと予想はされていたが、軍人による略奪行為という不祥事を、帝都の軍部以外にも知らしめるための行動だった。
ただ、この抗議は諸刃の剣だ。
軍部が責任を取らされるか、軍部と癒着した宮廷貴族連中がごまかしてしまうか。
どちらにしても、帝都側は借りなどとは思わず、フィオリ子爵領を敵視する可能性が高い。
そうなると何かにつけて難癖を付けられたり、税を上げられる危険性もある。
しかしフィリオ子爵家が抗議を行わなければ、領内で軍人が不祥事を起こしても黙認する弱腰な領と見られてしまう。
だが、今回フィオリ子爵家は、妖精王国への臣従の内諾を得た。
たとえ領主家から代官になってしまっても、妖精王国に臣従した場合の領へのメリットが大きすぎるのだ。
まず、現在の税は六割。帝国への上納が四割で、領主家が二割だ。
ところが、妖精王国に臣従すれば上納は無い。
妖精王国属領の税率は三割だが、領民は税が半減し、領の運営資金は一割多くなる。
そして妖精王国からの支援は、干ばつや大規模災害時には無償で緊急支援が入り、復旧作業すら無償。
さらに疫病発生時には、無償で特効薬が配られる。
対して妖精王国からの要求は、治安維持のための妖精の常駐と、妖精たちの活動拠点になる塔を領内の空き地に建設すること。
その塔の建設すら、妖精王国が行ってくれる。
たとえ帝国が侵攻してきても、あの巨大な御座船が領を守ってくれる。
そして各属領と同じように、ある程度妖精王国の方針に従った領政を行うことだ。
その方針さえも、新たな作物のための畑を開墾して貰ったり、きちんとした法整備をすることだと言うのだから、真っ当な領政を行ってきた者からすれば、あきれるほどに軽い臣従条件なのだ。
しかも臣従は、実際に他の属領を視察してからで良いし、いつ臣従を止めても罰則無しで領を返還するという好条件。
そのためフィオリ子爵家は妖精王国への臣従を視野に入れ、帝都に対して抗議することを決めた。
アガッツィ男爵領に対しても同一の条件が出されたため、フィリオ子爵とアガッツィ男爵は、腹心と護衛を連れてバンハイム共和国方面の視察に出た。
視察に使われたのは、出来たばかりのクール君二号。
アルフレートが単独で移動するための機体なので、内装は地方領主の応接室程度に抑えられているが、定員が二十八名になっている。
視察に出た両家の一行は、驚愕のし通しだった。
アルフレートとフランツ、デミちゃんズメイドに接待されるも、人生初、しかも音速に近い飛行に、窓にへばり付いたまま固まってしまった。
自分の領地を上空から見るのも初めてなら、人類未踏の山脈を超えるのも初めてなのだから。
東都では元王城で歓待されて代官の伯爵とデミちゃんズの通訳を交えて会談し、その後各領上空を遊覧飛行。
昼食をシュタインベルクの領主館で摂った後に、クラウに案内されて砂糖工場や紡績工場を見学。
第二城壁内の喫茶店で休憩し、地下街のような商店街や三輪ジーネで移動する大勢の商人たちを見た。
そして驚きすぎてふらふらの状態でホーエンツォレルン領を見学し、城の謁見の間でティナと対面。
こちらでは、優美な街並みと荘厳な城内に、終始圧倒され通しだった。
休憩した後に晩餐会のような夕食をティナと共にし、夢遊病者のごとき足取りで自身の屋敷まで送られた。
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