ドローン、他領領民を守る

「あ~、フィオリ子爵、聞こえるかな?」

「なっ!? アガッツィ男爵か? これは一体何事なのだ!?」

「私にも仕組みは分からんが、これは妖精のお力で遠くの人と話せる魔法らしい。現に私が今いるのは、アガッツィ領の我が屋敷だ」

「………妖精だと?」

「ああそうだ。我がアガッツィ領は、帝国から離れ、妖精王国に臣従することにした。そして妖精王陛下が御座船と機械妖精なる者を派遣下さり、我が領民を攫わんとする帝国軍を追い返していただいた。そちらからも、宙に浮かぶ御座船が見えたのではないか?」

「あ、あれが船だと!?」

「驚くのも無理は無い。私もあの大きさには度肝を抜かれたぞ」

「……妖精王国なる国が、本当にあるのか?」

「実を言えば私も見たことが無い。なにせ妖精は、普段人間の目には見えぬらしいからな。だが、妖精王国所属の自治領や属領はこの仕組みで見せていただいた。そこはずべて人間の町だったからな」

「……今、私の目の前にも見えている。これが属領や自治領だというのか? 一国の王都並みの堅牢さと規模だぞ」

「驚いたことに、侵略もしておらんのに一国分の領地が妖精王国に臣従を申し出たそうだ。大山脈の北側にある国らしいがな」

「実際に確認しておらんのに、アガッツィ男爵は臣従したのか!?」

「領民を守るためには、これしか方法が無かったのでな。実際に御座船や機械妖精の姿を見れば、とんでもない国に臣従してしまったと冷や汗が止まらん。今も我が領では領民に炊き出ししていただき、山のような小麦まで届けられた。夢を見ているようだが、どうやら現実らしい」

「…機械妖精とは、大きな蜘蛛のような者たちか?」

「そうだ。今も我が屋敷の庭で、炊き出しの料理を作っておる」

「……うちの領では、帝国軍の略奪から町を救っていただいた」

「それよ。こちらでも略奪の様子を見せられた。たとえ他国でも非道は許せんと、機械妖精がそちらに救援に向かったのだ。私は妖精王国の使者殿から請われ、フィリオ子爵の今後の方針を聞くために話が出来るようにしていただいておる」

「……すまぬが、未だ何が起こっているのか把握出来ておらんのだ。首謀者らしき者は捕まえ…いや、縛られて庭に転がされておったが、帝国軍上層部の命令だとしか話さんのだ」

「それは嘘だ。クラウス殿、さきほどの帝国軍指揮官の様子、フィリオ子爵に見ていただくことは無理ですかな?」

「可能です。すぐ映せます」

「フィリオ子爵、今妖精王国の使者殿に頼んで、略奪首謀者の過去の様子を見せていただけるようだ。それを見て判断の材料にしていただきたい。クラウス殿、お願いいたす」

「承知しました。フィリオ子爵、自己紹介が遅れて申し訳ありません。私はアガッツィ男爵との交渉を任されました、妖精王国直轄領ホーエンツォレルン領所属、クラウス・ホーエンツォレルンと申します。まずはフィリオ子爵に断りも無く、機械妖精を貴領で活動させてしまいましたことを謝罪いたします。現在機械妖精は無力化した略奪犯を町の南の平原に輸送中ですが、ご不快でしたら機械妖精は即座に撤収させていただきます」

「ご丁寧な挨拶痛み入る。部下からはクラウス殿の言う機械妖精なる者が、領民を守って略奪者を倒していただいたと報告が来ております。略奪者は人数がかなり多いようですので、町の外に集めていただくのは助かります。ですが町の住民たちも機械妖精殿の姿を見て混乱しております。出来れば略奪者を町の外に護送後、その場で待機していただきたい」

「承知いたしました。略奪犯は全部で二百六十二人おりましたので、全員を町の南の平原に集めたのち、逃がさぬようその場で警戒に当たります」

「なんと、それほどの数が…。ご助力、感謝いたします」

「とんでもございません。略奪犯は、アガッツィ男爵領に侵攻しようとして蹴散らされた帝国兵の一部。その者たちが働く無法を許せず、他国に領内であるにもかかわらずご領主殿の了承も得ずに手出ししてしまいました。改めて謝罪させていただきます」

「確かに越権行為ではありますが、迅速な対応のおかげで町の住民たちが助かったのは事実。今回の越権行為は不問とさせていただきます」

「感謝いたします。では今から略奪首謀者の過去の様子をお見せしますが、これは過去を絵として映す映像魔法です。お信じになられるかどうかも含め、どうぞそちらの家臣の方々と共にご覧ください」

「承知した。お願いする」

「では映します」

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