アホ帝国軍人、自国内で略奪に走る

「ティナ。ランダン王国との会談、お疲れさまでした。会談中でしたので知らせませんでしたが、帝国がまた馬鹿をやらかしました」

「はぁ…。今度は何?」

「妖精王国に臣従したアガッツィ男爵領に隣接するフィオリ子爵領ですが、撤退した帝国軍が略奪を行っています」

「略奪って、同じ帝国内でしょうに…。理由は分かる?」

「指揮官たちの会話からすると、敗退の責任逃れのために、金品を奪って帝国から出奔するようです」

「男爵領にいるドローンの半数で、略奪に加担してる兵を無力化。指揮官は捕縛。ドローンはインビジブル解除状態で」

「了解」

「帝都の情報収集で、国家運営陣関連の不正の証拠映像ってどのくらい集まってる?」

「微罪を除いて三百二十九件です」

「微罪抜いてもそんなにあるんだ…。帝都にドローンって何機あるの?」

「情報収集のみなので小型が十六機だけです」

「その映像を人通りの多い場所で流し続けられる?」

「帝都郊外にはつため君一機を派遣すれば可能です」

「やっちゃって」

「了解」

「暴徒鎮圧が終わったらアガッツィ男爵に略奪の映像見せて、フィオリ子爵と映像会談で子爵家の今後の方針を確認させて」

「クラウスに指示しました」

「あとは映像会談の結果次第で方針決めるよ」

「了解です。では、ランダン王国との会談で合意した砂糖と綿製品の交易量の確保について、現状のシュタインベルクの生産能力では最大でも三分の一ほどしか賄えません。どうしますか?」

「正式な交易開始までは半年あるから、それまでにシュタインベルクの生産力強化を話し合うよ」

「すぐに着手しないと間に合いませんよ」

「最悪は、アルの備蓄を当てにしていい?」

「まあ、可能ですね」

「シュタインベルクには、第三城壁作って領都拡張してもらって甜菜と綿花の畑も規模を倍にして欲しいんだけど、自治領だからあくまでお願いなんだよね。ダメだったら、バンハイム共和国全体で甜菜と綿花を栽培するかな」

「最初からバンハイム共和国で栽培すればいいのでは?」

「シュタインベルクは二千五百人もの移民を受け入れちゃってるんだよ。クラウはあの移民を砂糖と綿製品の生産強化に考えてるはずだから、先に話を持ってかなきゃ」

「クラウが二千五百もの移民を受け入れたのには驚きました。今のシュタインベルクの食料生産高では、支えられるぎりぎりの数です」

「多分西部同盟が安定すると見てたんじゃないかな。シュタインベルクの財政にはかなりの余裕があるから、小麦を西部同盟から買ってでも砂糖と綿製品の生産者を増員しないと、ランダン王国やそれ以外の地域からの需要に応えられないって思ったんでしょうね」

「生産量が少なければ、価格が高騰して楽に儲けられそうですが?」

「そうなるとシュタインベルクだけがぼろ儲けしちゃうから、未来は危ないよ」

「…侵略の可能性ですか?」

「うん。クラウはドローンに頼らない領運営がしたいんだよ。だから現状の兵力だけでも大丈夫なように、他領から食料とか買ってでも侵略の危険性を減らしたいんだろうね」

「自己の利益を他者に分けることで、安全性を上げているんですね」

「そうだと思うよ。だから多分、領都の拡張で設備を増強することには同意しても、畑の大幅な拡張には同意してもらえない」

「それが分かっているのに、ランダン王国との通商量に同意したんですか?」

「クラウとおんなじだよ。バンハイムだけ住民の生活が向上したら、ランダン王国に恨まれちゃうからね」

「王太子が安堵した表情を浮かべた理由が分かりました。あの妥結量なら、自国民の生活を向上させられると思ったわけですね」

「そうだと思うよ。ランダン王国は耕作地に適した土地が少ない。売ってもらえなければ、奪わなきゃ手に入らないってことだからね」

「適切な金額で買えるなら、妖精王国と敵対するリスクを冒す必要は無いわけですね」

「いずれは甜菜や綿花の種をこっそり手に入れて栽培も始めるだろうけど、それでも必要量は確保出来ないだろうからね。ただ、そうなるとランダン王国への売り上げも減っちゃうから、次の高付加価値作物が欲しいんだよね」

「それで胡椒の寒冷地対応化ですか。現在遺伝子改良して耐寒性を持たせた胡椒を山脈端の充電基地近くで栽培中ですが、今のところ順調で、実が生り始めてます」

「それは良かった。うまくいけばシュタインベルクの特産が増えるね」

「そのための第三城壁建造ですか」

「そうだけど、第三城壁は一部を妖精王国が所有するつもりだよ。ドローンの待機所と充電スタンドにしたいから」

「…山脈西端の充電基地とシュタインベルク中央の地中充電基地で、ドローンの運用には充分ですが?」

「…」

「ああ、そういう名目で妖精王国が無償工事するわけですね。まあ、さらなる運用効率の上昇は期待出来ますから、いいと思いますよ」

「ばれたか。…ありがとう」

「ですがアルノルトはティナが納得させてくださいね。シュタインベルク中央の地下充電基地を建造したばかりということになっているんですから」

「そうだった、どうしよう…」

「東都方面への中継基地には、何とか利用出来ますよ」

「うん、それで行こう」

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