閑話 目指せスイーツ特産領
「爺、最近の食事、さらに美味しくなったわね」
「はい。アメリア殿がいらしてから、厨房の者たちが目を見張るほど勤勉になっております。新たな料理を練習するために、自腹で食材を購入してまで調理技術の向上に励んでおりますぞ」
「練習で作った料理は、無駄にしていないかしら?」
「賄いは試作料理ばかりになり、それ以外の試作料理もほとんど材料費だけで館の使用人や兵にふるまっておりますな」
「食材が無駄になっていないならいいわ」
「食材の件は良いのですが、アメリア殿から無償で提供された料理やお菓子のレシピ、どのように扱いましょうか?」
「アメリアはどう言っているのかしら?」
「シュタインベルク領内であれば、どのように使っても良いとの事です」
「…これほどの料理レシピを無償提供ですか。…気前の良さはティナ並みね」
「当家の料理長から聞きましたが、食材は可能な限り美味しく調理すべきだと言い聞かされたとのこと。レシピを無償公開することで食材が美味しくなるなら、望むところらしいのです」
「…とりあえず、領内の飲食店にレシピを無償で配りいなさい。ただし、領外への持ち出しや伝授は禁じて」
「承知いたしました」
「移民の方の就業状況はどうかしら?」
「二千五百の内千人は、第二城壁内に居住させて砂糖と綿の加工に充てます。こちらは現在、先任者に従って技術の習得中ですな。残り千五百は、各町と村に建てた仮住まいに入れ、屯田兵と共に新規の畑を開拓中です」
「牧場はどうかしら?」
「領都への街道横にある緩やかな傾斜地で放牧を始めました。ですがまだ子牛が十頭しかおりませんので、生育待ちですな。また、隣接する鶏舎も稼働し始めましたが、こちらも鶏の数が足りておりません」
「ティナの城でいただいたケーキ、早くこちらでも作りたいわ」
「…ユーリアとカーヤから『ケーキは天上の食べ物。シュタインベルクの特産にすべき』と、何度も進言されております」
「卵、乳製品、小麦、砂糖。基本的な材料は揃うわね」
「なぜ材料をご存じでございますかな?」
「…あれほどの食べ物は他に無いもの。領主として材料を知っておくのは当然です」
「特産品化される気ですか?」
「当然です。下手をすると、砂糖より売れるかも」
「それほどですか…。年寄には分かりませんな」
「年齢ではなく、おそらくは性別よ。女性なら、あの食べ物を嫌う人はいないわ」
「……爺には分かりませんが、ティナ様が発案された物なら、予想以上に売れるのでしょう。これはやはり、ユーリアとカーヤを家令に昇格させるべきですかな?」
「そうね。砂糖も綿製品も何倍にも増産する上に乳製品まで生産するのですから、家臣も現状の体制では対応しきれなくなるわ。各部門ごとに分けて長を置き、会議制で領の方針を決めるべきかしら」
「今回の移民の中には、主家を滅ぼされて難民となった文官も何名かおりました。家臣として迎える事にしておりますので、家臣団のありようを再編すべきですな」
「ティナの領を真似ましょう。あの組織図は、素晴らしく分かりやすかったですわ」
「左様にございますな。あれこそ一目瞭然と言えるでしょう。他部署から見ても、連絡すべき者がすぐ分かりますから、効率が良いでしょうな」
「名前を見ていて、女性が多いのにも驚きました。子ども関連や服飾、食料などは、確かに女性が長の方が細やかな対応が出来るでしょう」
「我がシュタインベルク家は家臣団に女性が多いと思っておりましたが、ホーエンツォレルン領では半数以上が女性とは驚きましたぞ。ティナ様がこちらの学舎で男女ともに同じ教育を施された理由が、やっと理解出来ました」
「わたくしは追放されてから爺たちに教えを受けましたが、女性だから政務など知らなくても良いと思っていた旧子爵領時代が、恥ずかしくなりましたわ」
「爺めも考え違いをしておりました。今のクラリッサ様を見れば、女性でも素晴らしいご領主になれるのです。なれば子どもたちもまた同じ。早くから知識を得ておれば、それだけ未来に選択肢が増えます。我々は良い人材がいないと嘆くのではなく、良い人材を育てていなかったと反省すべきでした」
「わたくしも、どうして女の子にまで同じ教育をするのかとティナに聞いたことがあるの。そうしたらね『暇な部署から忙しい部署に人を回しても、いちいち最初から教える必要が無いから』ですって。確かに同じ基礎があれば、少し教えるだけで仕事をこなせるわ。極論を言えば、メイド見習いが経理を手伝えてしまうのよ。人を使うということを、改めて考えさせられたわ」
「少人数で仕事をこなすためのお手本のようですな。我々も、人材育成にもっと力を注ぐべきです」
「ええ、そのための学舎よ。今回の移民で増えた子どもたちも、必ず学舎に通わせるわ」
「学舎の規模が急に大きくなりますが、ティナ様が作った教科書や授業内容がありますから、ある程度の知識がある者なら講師として何とか対応出来ます。教室も、第二城壁の空き部屋が使用可能。ティナ様の先見の明には、恐ろしさすら感じますぞ」
「相手がティナですからね」
「…そのお言葉で納得してしまいました」
「ティナだものねぇ…」
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