ランダン王国と商取引
「近衛、付近に人の気配は?」
「屋根裏、床下共に無く、前と左右の部屋も我が国に充てられています。廊下は配下の者が警備中です」
「分かった。王太子殿下、人払い、済みましてございます」
「そうか、ご苦労。副宰相、妖精王国は思っていた以上に強大なようだな」
「はい。あの機械妖精なる者、報告で聞いてはいましたが、実際に見ると報告以上に厄介です」
「あのように大きなものが、石材をいくつも掴んだまま音も無く空を移動していた。上空から岩を落とされでもしたら、対処のしようが無いぞ」
「はい。しかも密偵の話では、あれがバンハイム全体の各町に多く配備されているようです。さらには町と見紛うほどの大きな船が何日も宙に浮いたままでおり、最後ははるか天空に消えたと。報告が信じられませんでしたが、あの機械妖精の様子を見れば、報告も真実かと」
「空など兵を配備しようも無い。しかもたった数体でスタンピードの本体を半減させ、死与虎三体を瞬殺したと言うではないか。敵対したのが旧バンハイム王国で良かったと、つくづく思う」
「左様でございます。妖精王国に敵対などしていたらと思うと、背筋が凍ります」
「私は旧バンハイム王国時代に二度ほどここに来たが、町の様子も受ける印象が変わっていた。建物はさほど変わり無さそうだったが、住民の印象がまるで違ったぞ」
「私も驚きました。人々が真新しい服を着て、皆の表情も穏やか。子どもたちも元気に駆け回っておりました。悔しいことに、我が王都より笑顔が多いと感じました」
「町だけではなく、先ほど出されたお茶と茶菓子にも驚いたぞ。茶も良かったが、あのけえきなるものは素晴らしい旨さだった。砂糖、牛乳、卵を使った菓子だと言っておったが、あんな旨いものは王宮の茶会でも出ん」
「砂糖と綿、何としても手に入れねばなりませんな」
「父上が生産元であるシュタインベルク領に秘密裏に使いを出したが、必要量の二割すら確保出来ていない。だが、価格は輸入品の十分の一で品質も良いとなれば、争奪戦であろうな」
「すべては、ホーエンツォレルン公爵との交渉にかかっております」
「その公爵だが、事前に通達された内容だと、容姿が小さな女児らしいな」
「妖精の巫女であり、妖精王国直轄領の領主で、しかも妖精王陛下と直接交渉出来る唯一の方だとか。決して侮れる交渉相手ではございません」
「事前に容姿と立場を通達してきたのだ。侮るなとの忠告であろうな」
「未確定ですが、死与虎三体を瞬殺したのは妖精の巫女との情報もございます。また、砂糖と綿の生産地であるシュタインベルク領では、絶大な人気だとか。決して侮れません」
「なあっ!?」
「何事か!?」
「ま、窓の外、空をご覧ください!」
「いったい何が……何だあれは、空飛ぶ船なのか?」
「最初見えたのは小さな点でしたが、みるみる近付いて来てあのような大きさになりました。鳥などより、はるかに速い速度です」
「…あれほど滑らかに宙を移動出来るのか」
「中庭に降りました。城の兵たちが整列して出迎える模様」
「何だと!? 今、船から出た者が宙を舞ったぞ!!」
「…容姿からすると、あの方がホーエンツォレルン公爵でしょうか。執事か傍付きらしき者も浮いておりました」
「…今、こちらを向いて軽く礼を執ったな。ひょっとして、私を視認したのか?」
「公爵位にある者が礼を執ったということは、王太子殿下であると認識したということでございましょう」
「この距離でか…。我らはあの者たちと交渉せねばならんのか?」
「…そのようでございます」
「…胃が痛くなって来たぞ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます