ダーナでアホ帝国撃退

「男爵領、結局妖精王国への恭順になりましたね」

「多分親や祖父母が苦労して切り開いた土地だろうから、離れ難いんでしょうね」

「安全なハルシュタットへの移住ではなく、魔獣被害の危険がある場所での暮らしを望むとは思いませんでした」

「いやあ、私は多分こうなると思ってたよ。人って結構、感情が優先しちゃうからね」

「未だに感情を考慮した予測演算は外れてしまいますから、予測は難しいですね」

「アルは人として育てられた記憶が無いから、こういった予測はまだまだ発展途上だと思うよ。それで、敵の領境到着はどれくらい?」

「まだ三十分はかかりそうですね」

「なんか待ってるのが面倒くさくなって来たな。ダーナ、発進しちゃって」

「了解、発進しました。今回は山脈に隠れての移動ルートを指示されましたが、良かったんですか?」

「うん。山脈の終わりからホーエンツォレルン領東魔の森経由だと大回りになっちゃうけど、アオラキから直線で来るよりかはいいでしょ。前日の夜から周回軌道に待機しての降下だと、エネルギーの無駄遣いだし」

「でも、帰りは衛星軌道に上がるんですよね?」

「うん。エネルギーもったいないけど、月に帰るように演出したいから。来る時は男爵領の上を通過するけど、通達は済んでるよね?」

「はい。男爵から通達してもらいましたし、戦闘の可能性があるからと、領民は家に閉じこもってます」

「じゃあ大丈夫か」

「男爵家の兵や家人も領主邸に籠ってもらいましたが、斥候を出したいとの要望が出ています」

「ドローンが捉えてる各地の様子を、映像で見せてあげて」

「使者のクラウスに説明させてから実行します」

「クラウスに付けた大型ドローン二機は、領主邸の庭で待機してる?」

「はい、ソーラー充電で待機中です。指示通り領主家の警護に回していますが、暗殺者などは確認されていませんよ?」

「男爵家への安心材料に置いてるだけだから、実働は無いでしょ。炊き出し要員のデミちゃんたちは?」

「新人十八人と個性確立済み四人が、インビジブルのクール君で男爵家の上空に待機中です」

「各ドローンの配置は?」

「すでに領境に、視認可能状態で待機中です」

「ありがと。準備は万端だね」

「はい。ダーナ、まもなく男爵領上空に到着します。帝国側の進軍が混乱し始めました」

「ダーナでかいから、遠くからでも見えちゃったんだろうね。巨大な物体が空中を進んで近付いて来る経験なんて初めてだろうから、多分相手は大混乱になってるはず。よし、艦九十度回頭して横向きのままゆっくり降下しつつ敵軍に近付いて」

「実行中………おや? 敵軍、隊列を無視して散り散りに逃げ始めました」

「高度そのままで、ゆっくり横方向に前進継続」

「ダーナが領境を超えます」

「そのまま横方向前進続行」

「敵軍、武器を放り出して逃げてます」

「ダーナ、その場で停止。相手が止まったら、再度前進開始」

「敵軍、逃走速度低下」

「フロントデッキ解放、ドローン発進。敵軍に向けて、レーザー威嚇射撃」

「実行中。…………敵側、指揮官と思われる一団が、馬で先行して離れていきます」

「インビジブルドローン付けてる?」

「小型が三機追従してます」

「その一団の目に、特濃しみしみ液発射」

「実行中。先行集団、全員落馬しました。兜を取って、転げまわってます」

「全員に、深達度Ⅱの×マーク」

「実行中ですが、目を押さえている手が邪魔ですね」

「手がずれるタイミングを見計らって、命令続行」

「…………命令、完遂しました」

「しばらくダーナは現状で停止。今から言うことを、拡声して敵軍に通達。『この地にある男爵領は、妖精王国に臣従した。よって今後男爵領に手を出す者は、妖精王国の敵とみなす。今回は警告に留めるが、次は容赦しない。また、軍が撤退しなければ、実力行使で殲滅する』以上」

「今流しています。……完了しました」

「アオラキから乗せて来たドローン収容。ダーナを領境まで後退」

「現在実行中。…………遂行完了」

「三十分したらダーナを衛星軌道へ。事前配置のドローンは、ダーナ発進までにダーナで満充電の後、姿を見せたまま領境巡回警備。以上で作戦終了」

「了解です。ダーナは夜にアオラキに帰投でいいですか?」

「うん、それでいいよ。しばらく領境は、ローテーション組んで巡回警備してね」

「了解です」

「ふう。これでとりあえずは何とかなるかな。敗走した軍の動向は、隣領抜けるまで監視しといて」

「了解」

「アル、そろそろ炊き出し準備始めようか」

「ドローンは領境警戒中ですが、デミ・ヒューマンのサポートはどうしますか?」

「ああ、威嚇に全機領境に出してたか。領境警備は高度上げてのサーモグラフィー監視にして、監視と炊き出しサポートに必要な以外は、作った充電拠点に帰して」

「はつため君はどうします?」

「しばらく男爵領に置いとこう。ドローンによる領内巡回警備がローテーション出来るようになったら、充電拠点に帰して」

「了解。男爵当人が、今回の助力に感謝するために、映像での会見を求めてます」

「え、めんどい。合成映像で、適当に受けといて」

「…仕方ないですね。クール君を戻しますから、東都に移動してください」

「東都? ……あ」

「ランダン王国との通商会談、忘れてましたね?」

「ごめん、意識が完全に帝国に向いてたよ」

「会談までは二時間ありますから、着替えてくださいね」

「…ドレスは動きにくいからやだ。フィーネはいる?」

【はい、ティナ様。城内におります】

「ウエスト絞った短ジャケットの卒業式スーツって、もう作った?」

【はい。ジャケットはダブルでネイビーに銀糸の縁取り、ひざ丈のプリーツスカートはワインレッドのタータンチェックで、裾に銀糸のライン入りです】

「それ着られる?」

【すぐにご用意出来ます。ブラウスはどうされますか?】

「フィーネにお任せするよ」

【承知しました。すぐにご用意いたします】

「うん、お願い」

「前世の記憶にある服装で行くんですか?」

「前世ではあれもフォーマルだから。ドレスなんか着て行って、椅子にスカート引っ掛けたりしたら恥ずかしいじゃん」

「普段からドレスを着慣れていないからでしょう?」

「ドレスやだ」

「…」

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