方や武力衝突、片や平和で武器売れず
「例の帝国男爵領、かなり情報が集まりました。帝国中央は、男爵領を廃領するつもりですね」
「男爵側はどんな対応?」
「民を移住させず、帝国からの離脱を考えていますね。しかし食料と防衛力の不足で、結論が出ていません」
「単に帝国から切り離されるだけなら食料支援で済むけど、帝国は農奴欲しいんだから戦闘になるよなぁ」
「その危険性を重視して判断しかねているようです。ただこの男爵領、元は魔の森を開墾した開拓村で、土地は領主の持ち物ですが、農民は農奴ではありませんね」
「開拓村への入植時に、農奴からの解放が条件になってたのかも。そうなると農民は農奴に戻るのなんて嫌だから、動こうとはしないよね。戦闘は確定か」
「領主の男爵も、それで悩んでいるようです。戦闘になれば負けは確実、しかし領民の気持ちは圧倒的に残留希望。板挟みですね」
「帝国はほんとバカなことするよね。農奴の減った南部に農民のまま好待遇で迎えれば、移住してくれたかもしれないのに」
「一万二千も迎え入れるのは難しいのでは?」
「そんなに移住しないよ。土地に愛着あるかもしれないけど土地は元々領主の物だし、魔獣被害が多いのは身をもって知ってる。だから残る人と移住する人に分かれるはずだよ」
「それでうまくいくのですか?」
「いかないよ。安全な地域に農民が移動した分男爵領の食料生産量が減るから、その分魔獣討伐費用の比率が上がっちゃう。だから衰退していくと思う」
「ダメじゃないですか」
「そもそも、魔獣被害を抑えられないのに魔の森に隣接する地域を耕作地にすることが間違いなのよ」
「ですがティナは、バンハイム南部を再度耕作地にしましたよ」
「あそこは東都で余った兵を間引き討伐に回したかったし、万一のスタンピードも、山脈の充電拠点あるからドローンで抑えられるでしょ」
「なるほど、納得です。話が逸れましたが、男爵領への対応はどうしますか?」
「デミちゃんはもう接触済み?」
「何度か領主館を訪問しましたが、いずれも信用されずに追い返されました」
「ひょっとして、単独で歩きだった?」
「インビジブル状態のドローンは警護に付けていましたよ」
「国からの使者なんだから、ある程度威厳は必要でしょ。姿を見せた大型ドローン二機で、アームに乗ったまま訪問。護衛はインビジブルの小型ドローン二機で。乾燥食料もいくつか持って行って、実食させて」
「了解です。提案内容はどうしますか?」
「ハルシュタットへの移住か、妖精王国へ領ごと臣従してのドローン参加の防衛戦。作ってる充電拠点で住民一時保護もありだね。帝国側の動きは?」
「指示しました。帝国側は、隣領に兵を集めていますね。現在二千四百ですが、あと千五百が明日には到着予定です」
「……ダーナも出せる?」
「いつでもどうぞ。アオラキから現地までは七分です」
「じゃあ、相手が進軍始めたら発進で。それと、今回の阿呆な事言い出した奴と、賛同した奴は分かる?」
「特定済みです」
「麦角アルカロイド重篤量をプレゼント」
「了解。あとはバンハイム方面全体で言えることなのですが、経営不振の鍛冶屋が多く出ています。何か対策をしないと、そのうち廃業しそうですね」
「鍛冶屋って…。ひょっとして実用武器が売れなくなった?」
「はい。治安の安定に伴い、武器の消耗がほぼなくなりましたから」
「う~ん、それほど武器の売り上げ比率が高かったのか…。馬車用の板バネ、ベッドやソファー用のスプリング、自転車の設計図でも流すか」
「タイヤ用のゴムが、私にしか作れませんね」
「木製タイヤで皮を重ね張りしよう。代官経由で試作品作らせて、真っ当な製品だったら販売許可」
「了解。なるべくシンプルな構造で、技術水準を考えた設計にします」
「バンハイムは平和すぎて武器が売れず、片や帝国では武力衝突。なんだかなぁ…」
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