アホ帝国め、ふざけんな!
「ティナ、帝国の北東部が食料不足に陥り、このままでは餓死者が発生する予想です」
「北東部って農村だったよね? 不作?」
「いえ、南部穀倉地帯で発生した赤痢被害での作付け減少分を、北東部から集めたためですね」
「まだ収穫期じゃないよね?」
「収穫減少が確定なために、北東部に残っていた小麦の大半を強制徴収して穴埋めに使うようです」
「残ってた小麦って、次の収穫まで食べ繋ぐ分じゃない! そんなことしたら農民が餓死しちゃって、北東部は次の収穫する人がいなくなっちゃうわよ!!」
「驚くほど愚かな行動です。全く予想出来ませんでした」
「帝国の地図出して、小麦を強制徴収された地域を色で示して」
「こちになります」
「帝国の北東、魔の森との隣接地域ね。…まさか、一つの領を潰すつもり?」
「情報収集密度が低く、そういった情報は収集出来ていません。ですが小麦の残りを考えると、必然的にそうなるかもしれません」
「このエリアの領主は何してんの?」
「辺境の男爵領なので、情報収集対象外でした。現在小型ドローンが一機到着していますが、今は隠れてソーラー充電中です」
「人口は分かる?」
「推定人口は一万二千です」
「今、帝国側に回せそうなドローンはどれくらい?」
「バンハイム共和国に影響が出ない範囲ですと、大型十二、中型二十八、小型三十四です」
「……小領を防衛するには十分だけど、帝国から孤立させても意味無いよね。移住の打診するか」
「戦闘があると?」
「なんで小麦と一緒に農民攫って行かなかったかは分かんないけど、南部の穴埋めに人は要るはずだよ。小麦の強制徴収だけでも暴動の危険があるのに、人まで攫うとなったら…ああそうか。元気な状態で反発されたら制圧に戦力要るから、弱らせてから叩く気かも」
「小麦を徴収された時点で死活問題ですから、普通はその時点で反抗しませんか?」
「一時的な借り上げだったら? すぐ返すって証文残して、それまで食べていける量だけ残すの。だけどいつまで経ってものらりくらりと理由を付けて、返済を遅らせる。で、相手が切れる前までに戦力準備しておいて、飢えた農民には領主の失政を喧伝して助けるふりで移住させるとか」
「それでは小麦不足は解消しませんよ」
「赤痢で一万二千も死んだの?」
「推定ですが、三千人ほどかと」
「じゃあ九千人は要らないよね」
「そんな無茶をしますか?」
「移住は三千人にして、残りはその領で少ない食料にあえぎながら、新しい領主にこき使われるとか。小麦作らなきゃ自分たちが死んじゃうから、それこそ必死に働くんじゃないかな」
「それでも小麦不足は解消していませんよ」
「三千人が作るはずだった小麦の量は、帝国全体からすればカバー出来ない量じゃない。問題は三千人の農奴がいなくなって、継続的に生産量が落ちてること。本当の目的は農奴の補充なんだよ」
「いえ、帝国全体の農民の数は増えませんから、結局は同じでは?」
「その男爵領って、半分くらい魔の森に接してるよね。じゃあ当然魔獣を狩る戦力が要るから、その分一領民人当たりの小麦生産性は低くなってる。農民を移住させて魔物狩人や兵士を残せば、食べるもの無いから買うか自ら農民になって作るしかないよ」
「それは、小麦生産性の悪い領を放棄して、農民だけ農奴として南部に補充するということですか? 残された者は、高騰するだろう小麦を買うか農民と討伐者を兼業するしかない。半ば死ねと言っているようなものですよ」
「いや、私の勝手な予想だから、そうなるかどうかは分かんないよ」
「…どう対処しますか?」
「造成中の魔の森の拠点は、発電設備出来てる?」
「最優先で建造しましたので、可動しています」
「今動員出来る余剰ドローンを、その拠点に送って仮説住宅建造を急がせて。ただし大型ドローン二機は男爵領近くの魔の森で充電待機。小型ドローンは半数をローテーション組んで情報収集。雲行き怪しそうなら乾燥食料満載した大型ローバーでデミちゃんの誰かを男爵領に派遣して、食糧支援と移民か造成拠点への避難をを打診。今はこんなとこかな」
「了解です」
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