アホ帝国に嫌がらせ
「ティナ、帝国が西の少数民族の集落に戦争を仕掛けます」
「うげっ! …理由は?」
「小麦の収穫量減少です」
「病気か何かで?」
「帝国は小麦の生産に農奴を使っています。ところが、年々農奴の酷使がひどくなり、農奴の生活環境が悪化。小麦の大規模生産地で赤痢が発生。農奴が大量に死亡したことで春小麦の作付け面積が減少する見込みとなり、次の作付けまでに捕虜として農奴を調達する気です」
「どこまで阿呆なのよ……。少数民族側は気付いてるの?」
「まだ軍の招集前ですし、狩猟民族のようで国家としては成り立っていませんから警戒も薄いらしく、気付いていませんね」
「……私、アルの力をまた悪いことに使いたくなってる」
「やりましょう。帝城を爆破しますか?」
「いや、出兵を支持決定した奴らの食事に、麦角アルカロイドを混入出来る?」
「三日以内で可能です。致死量ですか?」
「重篤な中毒になるように調整して」
「了解。毒殺しない理由や、麦角アルカロイドを使うのはなぜですか?」
「小麦で欲を掻いて他者に理不尽振り撒くような奴は、小麦が原因の病気で苦しむの。中毒患者が派兵賛成派ばかりなら、周囲は勝手に天罰を連想するんじゃない?」
「本人は我欲で苦しみ、周囲には警告と映るようにするわけですね。少数民族には知らせますか?」
「派兵が止まらなかったらね。その時は空に浮かぶ巨大映像で、派兵決定時の様子と軍の招集状況を流して」
「了解ですが、いっそのこと帝国も属国化しませんか? 巨大映像で首脳陣の非道を非難して帝城にミサイルでも打ち込めば、属国化出来るでしょう」
「悪くない人が死ぬ可能性あるし、統治とかどうすんのよ?」
「デミ・ヒューマンに警護ドローンを着けて、皇帝代理として送り込みます」
「デミちゃんが危険すぎるからダメ。それに帝国内は充電スタンドほとんど無いんだから、ドローン展開も難しいよ」
「…残念です」
「今って、ドローンの配備状況どれくらいなの?」
「…バンハイム方面への配置が、最終予定の62%ほどです」
「デミちゃんズは?」
「稼働百四十八体で、六十二体が教育中です」
「新型の発電充電航空機…長いな、はつため君って呼ぼう。はつため君と新型ローバーは?」
「はつため君は八機が運用中で、製造中が四機。新型ローバーは試作機が二機、テスト運用中です」
「ほら、今はまだ装備や人材の充足期間中なんだから、他に手を出す余裕無いでしょ。大事やるなら、充足後に運用実績積んで安定させて、余裕が出来てからだよ」
「かなり腹立たしいのでしょう?」
「腹立たしいからこそ、やるなら短期間で一気に片を付けたいの。阿呆相手に苦しい戦いなんて、絶対したくないよ」
「ダーナを使えばいいのでは?」
「ダーナの手足となる実働部隊がいないのに、統治の掌握なんて大変だよ。阿呆はね、最初の段階で完全に諦めさせないと、いつまでもグダグダして鬱陶しいんだから」
「実働部隊の不足は認めますが、なぜ今回は暗殺ではなく重篤化なんですか? 迂遠に思えます」
「種蒔き。権力を笠に着て他者に理不尽振り撒く奴には天罰が下ると示して、真っ当な考えの人の台頭を待つ。そうすれば制圧後の統治も楽になるから。そうだ! 帝国に隣接する魔の森に、妖精王国の直轄地作ろう。帝国の圧政に苦しむ人たちの逃げ場になるし、いざ事を起こす時の充電基地として使えるから」
「理由は分かりましたので手配します。帝国の掌握に前向きと捉えていいですか?」
「…ごめん。ちょっと感情的になってて、今は思考が過激かもしんない。状況の推移見てる間に頭を冷やすから、その時もう一度相談しようよ」
「了解です。とりあえず魔の森を開拓して、充電拠点を作ります」
戦争になれば、真面目に働く住民たちにも被害が出て、当然子どもたちも巻き込まれる。
ティナはそういうのが嫌いでストレスを溜めるはずだからと考えたアルは、無理を押しての早期解決を進言した。
しかしティナは彼我の戦力を冷静に確認し、制圧後の統治にまで目を向けていた。
さらに自身が感情的になっているからと、冷静になってから再度方針を判断しようとまでしていた。
暴君にはなりたくないというティナがきちんと自制していると感じたアルは、満足して魔の森の開拓と、装備、人材の充足優先度を上げた。
ティナのストレス軽減のために、一国の早期武力制圧を進言したアル。
早期の武力制圧は課題や事後の面倒事が多いからと反対しながらも、派兵肯定派に毒を盛って見せしめにしようとするティナ。
果たして、自制はきちんと利いているのだろうか…。
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