続々属領化

バンハイムとの交渉をアルフレートに任せたティナは、クラウや属領の代官たちと協議して、難民の受け入れ準備に入った。


当初一万人を超えていた移民希望者は、シュタインベルクで二千五百人の難民を受け入れ、ホーエンツォレルンは三千五百人を受け入れることになった。

残りは移住受け入れ条件を聞いて移住希望を取り下げ、残留を希望したのだ。


法を遵守し、穏やかな生活を望む移民であること。

斡旋された労働、または自分が希望する職業に就いて生活費を稼ぐこと。

移住後の領間移動は、立地的条件から制限されること。

犯罪を犯して矯正の見込みが無い場合、魔の森への追放刑になること。


このようにかなり厳しい移住条件だったため、安易に妖精王国のメリットだけを享受しようとした者たちが、移住を敬遠したのだ。

だが、移住を敬遠して残留しても、妖精王国の属領となった三領は今後妖精の監視がある。

仕事が無いことを口実に楽をして食糧支援を受けていた者たちも、いつまでも支援される難民の立場にいられるわけでは無いのだが。


対して厳しい条件にもかかわらず移住を望んだのは、争いが無く安全性の高い生活を、自身の労働によって手に入れたいと考えた者たちだった。


内乱で住処を追われ仕事を無くした者は、厳しい移住条件よりも平穏を望んだのだ。

特にホーエンツォレルン領に移住を決めた者たちは、内乱で家族を失った者や南部で魔獣の影に怯えていた者が多く、難民という浮き草のような生活に疲れ果ててもいたのだろう。

子育て中の家族が多かったのは、子どもの安全を第一に考えた決断をした者たちだと思われた。



移民の受け入れも大仕事だが、もっと衝撃的な事があった。

バンハイム共和国が、妖精王国への恭順を望んだのだ。


バンハイム共和国の代表は、農家以外の職種の構成比率が高く安全な農地の少ない共和国の行く末を、非常に厳しいものだと考えていた。


食料生産性の高い西部同盟と融合すれば国としての運営も可能だったが、西部同盟の主軸が妖精王国に恭順してしまっては、融合による立国は不可能だ。


恭順していない領と融合しようにも、西部同盟中央部が妖精王国の属領となって南北に分断されているために、飛び地を抱えることになるので国防面から見れば融合はマイナス要素だ。


そしてバンハイム南部での食糧増産も、内乱とスタンピードという二度の打撃で、人が戻りたがらずに増産が難しい。


バンハイム北部と融合したとしても、食料調達は望めない。


元々ランダン王国は食料を求めて戦を起こすほど食料に困窮していたのだから、たとえ和睦出来ても食料不足は解消しない。


戦を起こして西部同盟を攻めようにも、おそらく強大な力を持つ妖精王国が出て来てしまう。


東、南、西の穀倉地帯を失った現状のままでは、バンハイム共和国は近い未来に立ち行かなくなるからと、代表自らが共和国首脳陣に説いていたのだ。


小麦の低価格販売契約締結にバンハイム首都を訪れたアルは、バンハイム首脳陣からの妖精王国への恭順依頼を受けることになった。


とりあえず小麦の低価格販売契約を締結したアルは、妖精王国との仲介役を引き受けてホーエンツォレルン城に戻った。

ティナと移民受け入れの準備をしながら、バンハイム共和国の恭順を受けた場合の体制構築を試算。

恭順した西部同盟の領と、バンハイム南部の耕作放棄地をドローンで守って再耕作すれば、バンハイム共和国の食料需要を賄えるとの試算結果を得た。


だが、ここでまた事態が急変した。

西部同盟の未恭順領が、妖精王国への恭順仲介を侯爵家に依頼して来たのだ。

ダーナとドローンの圧倒的な力を見た上に、バンハイム共和国が妖精王国への恭順意志を示したことで、所属国の無い孤立化を恐れての行動だった。


その情報を得たバンハイム北部領からも、次々と妖精王国への恭順仲介が侯爵家に舞い込み、結果ランダン王国に支配された東部地域以外のすべてが、妖精王国への恭順を希望する事態になってしまった。


こうなると一部の地域だけを妖精王国に受け入れるわけにはいかない。

全体を受け入れるか受け入れないか、ふたつにひとつだ。

だが、すでに西部同盟の三領を受け入れてしまっているため、受け入れるべき状況になっている。


全体を受け入れてしまえば広域的な運営が可能になるため、食料の生産と調達はかなり楽になる。

困窮する地域に食料を送りやすくなるため、餓死者が出るような事態は避けられるだろう。


だが、ほぼ一国分の面積を妖精王国として受け入れるには、ドローンの数も充電施設も圧倒的に足りない。

アオラキ、ハルシュタット、孤島のドローン製造ラインをフル稼働しても、最低限必要なドローン数を生産するには、半年はかかりそうだ。


そこでティナは、ドローン製造ラインの追加と各領への充電塔建設、妖精の家(キノコ型充電スタンド)建立、自立移動型発電機の開発を決めた。


自立移動型発電機は大型ローバーサイズの発電蓄電用航空機で、燃料電池による発電だ。

燃料は固体化水素で、一機で大型ドローン五台を満充電出来る発電量。

現地でソーラー、風力、水力でも発電出来、水を分解して酸素と水素を得ることも可能な設計だ。


各領にこの航空機とドローンをセットにした充電塔建設部隊を派遣し、ドローン展開力を上げつつ増産したドローンを配備する計画である。



恭順を申し出て来た各地と属領化の条件や法整備を進めている間に、ドローン製造ラインを増設してドローンを増産。

属領化後すぐに充電塔、妖精の家を作り、四か月後には全領への最低限のドローン配備を済ませた。


そしてバンハイム地方は、全ての地域でドローンが飛び交う妖精王国の属国となった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る