災害派遣終了

「アル、復旧作業お疲れ様」

「私は疲れませんけどね」

「ドローンをアルの手足って考えたら、金属疲労や消耗はしてるでしょ。それにコアブロックの半導体だって、通電するんだから劣化はあるはずよ」

「そういう意味なら、確かに疲労や劣化はありますね」

「だからお疲れ様。で、一つ気になったんだけど、どうして畑に水路まで作ったの? 小麦って、乾燥農業じゃなかった?」

「そうですね。あの水路は、水車小屋での発電と、甜菜の発芽や綿花用ですね」

「あっちでも甜菜や綿花栽培する気なの?」

「その可能性も考慮して、水路を設置しました。属領化した三領の経営方針は、ティナが決定するのでは?」

「おう、そうだった。あそこはすでに妖精王国だから、私が方針決めなきゃダメか。……でも、甜菜と綿花植えると、三領は小麦不足にならない?」

「今までは他領に小麦を売って生計を立てていましたから、自給なら出来るでしょう。今回の水害で小麦不足は確定ですが、こちらからの支援で穴埋めは出来てますし」

「…その方が早く高額商品出来るから、収益は上がりやすいか。でも製糖施設や紡績機、織機も無いよね」

「現在は砂糖も綿製品もシュタインベルクの専売品なので、加工施設は作りませんでした。作ろうと思えば、収穫期までに十分作れますが」

「新しい属領には原料だけ作ってもらって、加工はシュタインベルクに任せた方がいいか。ノウハウあるから品質高いし、自治領としてのシュタインベルクの立場維持にも繋がるね」

「酪農の計画書もアルノルトに渡していましたよね?」

「シュタインベルクって、平野部の草原いっぱいあってもったいないと思ってたんだよね。だけど牛を大量に入手出来る当ても無かったし、乳製品は製造ノウハウ無いからゆっくり進めた方がいいと思って、将来の構想程度しか書いてないよ」

「うちに仕入れた牛の出荷元、今回の大雨で土砂崩れが起き、厩舎ごと家畜を失っていますよ」

「マジ? 何頭くらい飼ってたの?」

「親族経営で、二十頭ほどですね」

「属領内?」

「侯爵領内の丘陵地ですね」

「そっちの被害救済考えてなかった。クラウと相談して、好待遇での移住を打診してもらおう」

「バンハイム南部でも小規模な酪農跡がありましたから、移住希望の難民の中にも酪農経験者がいるかもしれませんね」

「そうなると、あとは生きてる牛の仕入れ先か」

「野生種ならこの大陸中に結構いますよ。魔獣に襲われて群れが逃げる際に置き去りにされた子牛を、保護してハルシュタットで飼育しています」

「クラウと視察した時にいっぱいいた子牛、保護した牛だったの?」

「子牛の半数ほどはそうですね。残りは人工授精の交配種です」

「そんなことまでしてたんだ」

「乳製品が無いとティナの好きなお菓子が作れませんから、ホルスタイン目指して品種改良中です。あと、食肉用に和牛も目指しています。ですが遺伝子改造はしていませんのでご安心を」

「…アルが有能すぎて、頭が上がらなくなりそう」

「何を言ってるんですか。ティナが所有者でしょうに」

「だって、アルが有能すぎるんだもん」

「ティナのための存在なのですから、有能でなければ存在意義が薄れますよ」

「…えへへ、ありがとう」


ちょっと照れて横を向いたティナの表情がうれしそうなのを見て、アルはさらなる自身の能力向上を決めた。


「あと、追加の報告があります。バンハイム共和国がシュタインベルクに対して、食糧購入の申し込みの使者を出したようです」

「あー、バンハイムも大変そうだよね。当てにしてたはずの西部同盟の小麦、かなり被害が出ちゃったからね」

「シュタインベルクからも妖精王国からも、購入は望み薄だと見ているようです」

「それでも使者は出したんだね。かなり困ってるってことか」

「兵への配給をさらに減らしてでも、子どもたちへの食料を確保しようとしていますね」

「…うち、余裕ある?」

「小麦でしたら、三万五千人分を一年食べさせられる量がストックしてあります」

「あれ? まだそんなにあるの?」

「アオラキの地下畑は孤島の備蓄用にと休耕しませんでしたし、ハルシュタットの地下畑も収穫しました。ハルシュタットはまだ人口が増えていませんので、収穫分が丸々浮いていますね」

「小麦を安値で売ろうか?」

「いいと思いますよ。軍の指揮官が、食料調達に悩んでいますから」

「え、何で指揮官? あそこ、軍政じゃなくて共和制だよね?」

「かなり人望のある人物のようで、共和国の代表にされていますね」

「…されている?」

「王政を廃して臨時政府を立ち上げた折、代表になれるほどの適任者がおらずに、代表を押し付けられたようです。指揮官も、部下や国民を苦しめたくはないからと、受け入れたようですね」

「うわぁ…。なまじ頭が切れて人がいいだけに、ひとりで抱え込んじゃったか。応援してあげないと、倒れちゃいそうだな」

「私個人の判断でも好ましい人物のようですので、支援したいですね」

「よし、がっつり支援しちゃおう」

「了解です。あと許可をいただきたいのですが、ホーエンツォレルン領にある外輪山の外周を開拓してもいいですか?」

「あぁ、属領増えちゃったから、地下畑だけじゃ支援物資足りなくなるよね。いいけど、魔獣の危険はどうするの?」

「ドローンを増産して、ドローンのみで耕作します。では、移動にクール君をお借り出来ますか?」

「いいよ。私の名代として、デミちゃんたち何人か連れて会談して来てくれる? 支援内容はアルにお任せするから」

「了解です」

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