バンハイムの苦悩 1/2
ダーナが西部同盟の災害支援に派遣されてから二週間、西部同盟は劇的な復旧を遂げていた。
ダーナという電力源があるため、各ドローンはバッテリー残量を気にすることなく、昼夜全力で作業を行った。
堤防の強化と復旧に始まり、簡易浄水施設、畑の復旧、川の大規模浚渫、被災家屋の復旧などなど、毎日急ピッチで進む復旧作業。
最初は恐る恐る遠巻きにして見ていた住民たちも、とんでもないスピードで修復されていく自分たちの畑や家の様子に、怖さより感謝を覚えたようだ。
そして、被害の大きかった他の二家も自力再建を諦め、属領化による妖精の派遣を申し出てきた。
妖精王国に領地を預け、領主家ではなく代官として働くことを了承してだ。
ティナは当然受け入れてダーナとドローンを派遣した。
結果、災害発生から一か月ほどで、三つの領は災害以前より安全性と利便性が整った領になってしまった。
強固な堤防に畑横を通る水路、水路を利用した粉ひき小屋、多くの住民の飲料水にも使える浄化施設、浚渫した砂を固めて作られた頑丈な住居。他領より進んだ設備であることは間違いない。
しかも被害を受けた農産物の代わりにと、定期的に持ち込まれる乾燥食料とコークス。
絶望に沈んでいた住民たちは、憂いが無くなったどころか以前よりも良くなった環境に、歓喜していた。
地獄に仏とは、まさにこのような状態だろう。
実はアル、復旧工事と同時進行で、属領化した各領にベルクフリートのような円筒形の塔を建てた。
入り口も無く登ることも出来ないこの塔は、内部が空洞の地下水発電を利用したドローン充電基地だ。
緊急時でもなければダーナは派遣出来ないので、充電スタンド無しでは領内へのドローン展開や運用に問題が出る。
なので粉ひき小屋型充電スタンドと、ベルクフリート型充電基地を各領に作ったのだ。
西部同盟の災害地域が急速に復興していたころ、バンハイムの首都では水害の被害報告が上がっていた。
「閣下、西部同盟の被害状況、おおよそ確認してまいりました」
「ご苦労、よく戻った。で、被害状況はどうだった?」
「かなりひどい状況でした。特に小麦畑が平野部に集中していたために、水害でおよそ半分がダメになっていました。侯爵領などは、ほとんど全滅です」
「そこまでひどいのか…。人的被害は?」
「それが、三十年ほど前にも同規模の水害があったようで、住民たちは高台に避難用の居を構え、川が氾濫する前に避難していたらしいのです」
「人的被害が無かったのは喜ばしいことだが…。そうなると小麦の買い付けは絶望的だな」
「人的被害は無くて畑は半分がダメになっていましたから、こちらに売る余裕は、まず無いと思われます」
「また食料不足か…」
「その、もっと驚かれる報告がございます」
「なんだ?」
「西部同盟で被害の大きかった領三つが、妖精王国への属領化を条件に、災害支援を求めました」
「属領化だと!?」
「はい。前回の内乱時にも妖精王国は西部同盟に対して支援を行っていましたが、その時は無償支援だったらしいのです。ですが今回は、属領化を条件に、食糧支援だけではなく災害地域の早期復旧まで求めたようです」
「…西部同盟は内乱時の難民や兵の寝返りで人口が急増している。そこに今回の災害で畑が半数ダメになれば、相当な餓死者が出るだろう。領主家にとっては、領民を守るための苦渋の選択だな。それで、復旧の見込みは予想出来るか?」
「おそらく、もう復旧しているかと」
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