海鮮料理

「皆、レベル上げお疲れ様」

「疲れてなどおりません。一度に四つもレベルが上がりましたので、どちらかと言えば戸惑いが大きいですな」

「戸惑い?」

「はい。体長はすこぶる快調なのですが、ティナ様がおっしゃったように、魔法が不安定になっております。慣れるまで、しばらくかかりそうでございます」

「そうなの?」

「クラリッサ様、私、魔力練らないでも明かりや炎が出せるようになりました」

「まあ、すごいわね」

「ですが安定しておらず、炎は少々危険ですし、明かりは明るさが変わって使いにくいですな」

「細かな魔法使いまくってたら、一か月くらいで慣れると思うよ」

「頑張ります」

「そだね。じゃあ、食事にしようか」

「今日は変わったメニューですのね」

「他領の領主様迎えるんだから昨日は正式な晩餐だったけど、あれって堅苦しいでしょ。だから今日は、私が食べたいメニューにしてもらったの。海鮮定食っていうんだ」

「こちら、お魚ですわよね。ティナのお土産で干物はいただきましたけど、まさかこれ、生ですの?」

「それはお刺身。結構おいしいんだけど、食べられそうになかったらお肉とかも焼くよ」

「ティナ様のレシピ?」

「レシピって言っても、生の魚をスライスしてあるだけなんだけどね。食べても安全なのは確認してあるから安心して。この醤油って言うのとワサビをこうやって、こっちのご飯に乗っけて一緒に食べるとおいしいよ」

「ティナ様のレシピなら、外れは無いはず!」

「ティナ様、このご飯というのは、麦ですか?」

「麦と違ってお米っていう穀物を炊いたもの。薄味だから、おかずと一緒にたべるの。パンに近い立ち位置かな」

「ティナ様! おいしいけど、鼻にツンと来た!」

「わさび付け過ぎたのね。その緑のは、唐辛子や胡椒みたいなものだから」

「ティナ、この細長い殻のようなものに入った、中が白いのは何ですの?」

「それは焼きガニ。中の部分だけ食べて」

「…香ばしくてホクホクしていて、じゅわっと出て来るおつゆが素晴らしいお味ですわ」

「こちらのフライ、プリプリとした身と、上に乗せられた白いソースとの相性が抜群ですな」

「エビフライとタルタルソースね。私もその組み合わせが好きなの」

「こちらのスープ、とんでもなく複雑な旨味ですわ」

「それはブリのあら汁ね」

「ティナ様! 無くなっちゃいました!!」

「早っ! もう全部食べちゃったの!?」

「全部おいしすぎて、夢中で食べてたら無くなってました!」

「まだ用意はあるけど、食べ過ぎになるから品数絞った方がいいよ。何食べたい?」

「ぜひエビフライを!」

「私もエビフライをお願いします」

「私はお刺身とやらとご飯をお願いしたいですな」

「わたくしは焼きガニを」

「みんなも!? アル、お願い」

「すでに調理しています。すぐ届きますが、刺身とご飯以外は熱々ですので、やけどにご注意ください」

「初めていただく物ばかりですけど、どれもおいしすぎますわね」

「生の魚とご飯という物の相性は、年寄には格別ですな」

「エビフライとタルタルソース、作り方覚えたい」

「ごめん。そのエビは、あったかい海でないと捕れないの。ここから1,000kmくらい南に行かないと、いないと思う」

「そんなっ!?」

「今回は初めてみんなが来てくれたから、海の物尽くしの特別メニューなの」

「あうぅ…」

「残念ですわ。このカニも、シュタインベルクでは食べられませんのね」

「そのカニは寒い地域の海にいるから、バンハイム北部の海沿いならいるかも。だけどカニもエビも、捕れたらすぐに食べるか冷凍して運ばないと、変な臭いが出ちゃうんだよ」

「南と北の海でしか食べられない物を、この場で一緒にいただきましたのね。昨日の晩餐よりも、よほど贅沢な昼食ですわね」

「お、追加届いたから、堪能していって」

「ぐすん。一生分食べます」

「止めんかはしたない。…やはり刺身も無理ですかな?」

「生で食べられる鮮度を保つのは、かなり難しいね。お米ならここでも作ってるから、妖精商会で扱えるけど」

「ぜひお願いします」

「アルノルトさんだけズルい」

「肝心の魚が手に入らんわ!」

「あの、今護岸工事中の川に、ザリガニはいましたよ?」

「寄生虫とかヤバくない?」

「養殖と過熱は必須ですね」

「そこまでしても、味や触感はいまいちでしょ?」

「すみません。データがありません」

「…アメリアに頼んどいたら、何とかなるかな?」

「嬉々として川に突撃しますよ。エビやカニは内陸部では入手困難なので、貴重すぎてなかなか使えませんから」

「あの子、どうしてあんなに料理に傾倒しちゃったんだろう?」

「ティナのせいです。アメリアが初めて作った料理を、うれしそうに食べましたよね?」

「私のせいなの!? おいしかったんだから仕方ないじゃん!」

【刷り込みに近い現象だったようです。作った料理をおいしそうに食べられると、アメリアの喜びの感情パラメーターが最大値になります】

【だって、私好みの味付けだったんだもん!】

「ティナ様、やっちゃいましたね。メイドって働いてご主人様に褒められると、めっちゃうれしいですもん。ティナ様の満面の笑みなんて、破壊力ありすぎですって」

「素直においしいって褒めただけなのに…」

「ティナの表情は、相手に感情がダイレクトに伝わりますものねぇ」

「…私、貴族っぽく微笑み張り付けてなきゃダメなの?」

「それこそダメですわ。ティナの魅力が、ごっそり減ってしまいます」

「ティナ様は今のままがいいんですよ。周りの人間が、勝手にティナ様の表情に引っ張られてるだけなんですから」

「…謎の微笑みとかは?」

「幼女が何言ってんですか。ティナ様は素直が一番です」

「…身体の成長が遅い弊害が、こんなとこにもあった」


隣でしゅんとするティナの頭を、思わず撫でてしまうクラウだった。

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