自治権
「それで、他者の幸せを私欲で望むティナは、先延ばしにした侯爵領譲渡の件、どうされますの?」
「あれねぇ…。多分西部同盟は、侯爵領以外も恭順とか言って来そうだよね」
「そうなりますでしょうね。この災害以前にも、三家がそのようなお話をうちに持ち込んでいましたもの」
「今回ダーナやドローンを見せたことで、かなりアルの力を揮い易くなったんだよね。ドローンが動くための電気っていうのを現地に派遣したダーナで賄えるから、西部同盟くらいなら軽く保護出来ちゃうんだよね」
「ですがダーナは、今回のように緊急時の派遣になりますでしょう? 普段はでんき(?)をどう調達されますの?」
「シュタインベルク方式でいこうかと思ってるの。実は領主のクラウに内緒で、領の真ん中近くにある傾斜地の森の中の大穴に、ドローン充電用の施設が作ってあるの。無断使用でごめんなさい」
「…その施設を作った理由を教えてくださいませ」
「ナンセ村でスタンピードがあった時、ドローンが間に合うかどうかぎりぎりだったでしょ? だから領の中心近くでドローンが待機する場所を作っておけば、どこでスタンピードや災害が起きても、ドローンが早く現場に到着できるから」
「…あの、森の大穴の中ですの?」
「そうです。ごめんなさい」
「爺からお小言が出そうなので、すでにあったとは言えませんね。わたくしの一存で許可したことにいたしますから、今から建設を始めたことにしてくださいまし」
「ありがとう。ほんとごめんなさい」
「あそこは崩れる危険があるので以前より立ち入り禁止になっていますから、ティナが利用するのは問題ありませんわ。それにシュタインベルクは妖精王国所属ですのよ。妖精王国の設備が領内にあっても、不思議ではございませんもの。今まではドローンの存在を秘密にするために、話すわけにはいかなっかったのでしょう? 多分他にもございますわよね?」
「領都の粉ひき小屋と、街道にある休憩所もそうです」
「やっと疑問が解消されましたわ。いったい妖精、いえドローンたちはどうやって力の源を得ているかが、不思議でしたのよ」
「あとね、私やクラウたちが急病や大怪我した時のために、領主館の池の水中を掘って、医療用の機材が隠してあるの」
「…アルさんを過保護と言えませんわよ?」
「私も最初知らなくて、アルが勝手に置いてたの」
「…やはりアルさんは過保護ですわね」
「シュタインベルクで、クラウに内緒にしてたのはこれだけ」
「ティナ、わたくしに伝えられないことを気にしていたのでしょう?」
「…うん」
「すべてシュタインベルクやわたくしたちのためではないですか。そんなに申し訳なさそうにしないで」
「ごめんね。でも、これで楽になれたよ。ありがとう」
「お礼を言うのはこちらでしてよ。それで、返事は復旧後にとおっしゃっていましたけど、西部同盟は妖精王国の自治領にしますの?」
「恭順には条件を付けて、属領として領地を預けてもらうつもり。今までみたいな領主家気分じゃなくて、旧領主家は代官として働いて欲しいの」
「あら、自治権はお渡しになりませんの?」
「うん。ある程度の裁量は認めるけど、自治はダメ。シュタインベルクはクラウと妖精王の友誼で自治領になったから、領はシュタインベルク家の物。だけど西部同盟は助けて欲しいと言って恭順して来るんだから、シュタインベルクと同じ扱いは出来ないよ。そんなことしたら、領主家が今まで通り勝手しちゃって、領間で格差が生まれそうだもん」
「領は自分の物のまま、妖精王国の力だけ当てにする可能性は高いですわね。ですがそうなると、条件が厳しいと言って属領化しない領が出そうです」
「それでもいいのよ。侯爵領は領地を差し出す気だからこの条件を飲むはず。そうなると他の領が属領化しなかったら、領間の格差がかなりひどくなるし、妖精王国という他国の属領に隣接する所属国の無い領になっちゃうよ」
「…とんでもなく厳しい領運営になりそうですわ。不法な領民流出が激増して、いずれは……」
「ちゃんと領民の未来を考えられる領主家なら、決断出来ると思うよ」
「先祖伝来の領地を、領民のために妖精王国に預けることが出来るかどうか。領民を思うティナらしいと同時に、領主家にとってはかなり厳しい条件ですわね」
「別に領地なんて取り上げないんだけどね。自分の物じゃないって意識を持たせたいだけなの。少し調べたんだけど、バンハイムから離脱したのに税を四割や五割とかにしてる領もあったし、特殊な税を導入してるところもあったから」
「減らさずに浮いた分を、領の未来のために使うならよいのですが…」
「領主家の贅沢のために使ってるところもあるねぇ」
「領民が豊かになれば、三割でも税収は増えますのに…」
「だよねぇ…。あと、バンハイム北部も、西部同盟に入りたがってる領が多いんだよね」
「そちらもございましたわね。北部は食料自給率が低いですから、扱いが難しいですよね」
「シュタインベルクの領都となら、大差ない気候なんだけどね」
「そうなんですの? でしたら小麦も育ちそうですが」
「石や岩が多くて開墾しにくいみたい」
「その手間がありましたわね。うちは知らぬ間に出来ていましたもの」
「あはは。森がすぐ近くでいい土いっぱいあったから、楽だったみたいだよ」
「わたくしたちは楽どころではありませんわよ」
「あはは」
「お話し中失礼。アルノルトたちのレベル上げが終わって、昼食の準備も出来たようです。移動しましょう」
「はーい」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます