ダーナ、出陣!
ダーナの内部見学を取り止めた一行は、城に戻った。
アルノルト、ユーリア、カーヤは魔核破壊によるレベルアップ。ティナとクラウ、アルフレートは西部同盟への支援内容と事前説明を協議して、執務室から西部同盟盟主に通信を入れた。
クラウはシュタインベルク領領主として、小麦や野菜などの食糧支援を。
ティナはホーエンツォレルン領領主として、シュタインベルクと同量の食糧支援を。そして妖精王国の交渉窓口として、妖精王国からの支援内容を盟主の侯爵に伝えた。
妖精王国の支援内容は、妖精王陛下の御座船と機械妖精を派遣しての災害復旧工事、浄水施設建設、乾燥食料とコークスだ。
そして派遣されるダーナや機械妖精の映像も見せた。
ハルシュタットの湖上に浮かぶダーナの映像は、最初通信相手が大きさを認識出来なかったようだ。
だが、対比用にと屋形船でのダーナ見学の様子を見せたところ、あまりにも巨大すぎる船に、言葉を無くして固まってしまったのだ。
クラウが首脳陣に同情(?)して、しばらくは双方映像を無言で見ていた。
作業能力を知らせる意味で大型ドローンがホーエンツォレルン城を築城する作業風景も少し流したため、五分ほど無言の時間が過ぎた。
ダーナのフロントデッキ内や築城時の全体像は見せると問題もありそうなので見せてはいなかったが、映像が終わってからもさらに五分ほど無言が続いた。
長い沈黙にティナが焦れ始めたころ、クラウが御座船の大きさと機械妖精の作業能力を簡単に説明して、やっとのことで侯爵は声を出した。半分呆けたような、生返事ではあったが。
焦れたティナが派遣の受け入れ可否を尋ねたところ、あまり思考しているようには見えなかったが、侯爵から受諾の許可を得た。
ここでクラウは、重点災害地域の住民への映像による事前通達を提案。
いきなり御座船が行くより、侯爵が住民に映像で知らせた方が混乱が少ないはずなので、急遽侯爵が住民への通知映像に登場することになった。
侯爵が未だ映像の衝撃から完全には立ち直っていないと見たクラウは、映像での住民への通達は何度か経験があるからと、サポート役を買って出た。
通達内容を相談し、侯爵の話に合わせてティナが補足の映像を流す手はずになった。
そして行われた、映像による住民への通達。
侯爵だけでなく、普段住民と接している家人も登場させることで映像に真実味を持たせ、クラウやティナも侯爵に紹介されて挨拶をした。
そして映された御座船と機械妖精の映像に、混乱する住民たち。
ご親切にもアルが住民たちの様子を侯爵の視線の先に映したため、侯爵は頑張って住民の混乱を抑える発言を繰り返した。
住民たちの混乱が何とか収まったころ、なんとダーナが天空から降下してきた。
ダーナは侯爵が受け入れを承諾した時点で、ハルシュタットを飛び立っていたのだ。
ティナが、降下してくる御座船(ダーナ)を住民たちに知らせると、住民たちは高高度のダーナの存在に気付いた。
なるべく住民たちに威圧感を与えないよう離れた位置に降下してきたダーナだったが、あまりの巨体に唖然とする住民たち。
どうせ驚かれるなら有用性を見せて威圧感を減らそうと、離れた位置の空中に浮くダーナからは、多くのドローンが飛び立った。
大型ドローンたちは決壊した川の浚渫を始め、中型ドローンは流出した土砂から岩や石を探し出して決壊した堤防に運ぶ。
小型ドローンは流出した土砂を集めて持って来た材料と混ぜ合わせ、ローマンコンクリートを作り始めた。
ただこのコンクリート、作り方が違う。
本来は石灰や火山灰などに海水を混ぜて作るのがローマンコンクリートだが、アルは水と反応して固まるように成分を調整していた。
つまり、ローマンコンクリートに似た瞬間硬化材だ。
決壊部分に水が来ないように川を浚渫して水の流れを変え、水が来なくなった堤防部に石や岩を積む。
そしてその隙間にコンクリートを流し込み、水を撒いて固める。
みるみる修復されていく堤防、どんどん減っていく流出土砂。
そして一部には、浄水用の大きなマスが作られていた。
遠目に見ていた住民たちは、声も無くただ茫然と工事が進むのを眺めるしか無かった。
住民たちはパニックにはならなそうだと見たティナは、通達用の大型映像を消し、侯爵家の庭に大型ドローンで援助物資を、執務室に小型ドローンを使って妖精ランタンを届けさせた。
わざわざインビジブルを解除したドローンを使ったのは、侯爵家内を監視しているインビジブルドローンの存在を隠すためだ。
例によってこのランタンはただのランタンだが、これを執務室に届けないと、また侯爵が声を張り上げて通信を要求する可能性がありそうだから。
ティナは侯爵家の執務室に工事の映像を映しながら、援助物資の内容と、妖精ランタンの使い方を説明してから通信を切った。
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