妖精王陛下の御座船

翌朝、朝食後に屋形船に乗ったシュタインベルク家一行は、ティナやアルと共に城を飛び立ったが、すぐに驚愕することになった。

ダーナが、湖上の空中に静止していたからである。


ダーナは夜明け前にハルシュタットに移動し、その姿を太陽の元にさらけ出していた。

ハルシュタットの住民には、昨日の内に妖精王陛下の御座船が来ることは連絡してあり、今日も未明からデミ・ヒューマンたちが住民の混乱を抑えるために大勢派遣されていた。


「ティナ、なんて大きさですの。お城より大きくて、まるで町のようなサイズではありませんか」

「おっきいよねぇ。全長は700mもあるから」

「このように大きな物が、音も無く空中に浮いています。自分の目が、信じられませんわ」

「この船を災害復旧現場に派遣する気なんだけど、西部同盟の住民って、受け入れられるかな?」

「……事前にしっかりと説明すべきですわ。大きさを含めて」

「だよねぇ…」

「クラリッサ様! あの大きなの、なんか動いてますよ!?」

「あれ、フロントデッキって言う、ドローンたちを格納する場所を開いてるの。あそこに降りるね」

「…近付くと、これはもう山のようですな」

「ほらあそこ、ドローンたちが並んでるでしょ。ああやってドローンたちを休ませて、回復させるの」

「すごい数が並んでいますわね」

「大型ドローン三十二機、中型ドローン六十四機、小型ドローン百二十八機、他にも各種ローバーや探査機などが二十八機です。もっと収容することも出来るのですが、これ以上になると発着待ちが出ますから」

「壮観ですなぁ」

「あれ? あんなとこに家がある」

「あの家は、アルが作ってくれた私の家。今はお城に住んでるから、仕舞ってあるの」

「家を仕舞っとくって…」

「この船はすごい作りですな。すべてが金属で出来ておりますに、空中に浮いているとは…。まるで、空飛ぶ鉄の砦ですな」

「ある意味それに近いかも。目的地までこの船で飛んで、現地でこの船を拠点にして活動するから。えっと…中も見る?」

「…わざわざわたくしたちに聞くと言うことは、何か問題がございますの?」

「私個人としてはみんなに秘密にする部分を少なくしたいんだけど、知っちゃった後の周囲の動きがどうなるのか予想が付かないんだ」

「それは、レベルアップ以上の情報ということですの?」

「多分何百年も先の、未来の技術がてんこ盛り。だけどアル以外には使えないし、作れもしないんだけどね」

「…ティナが秘密を明かそうとしてくれているのはうれしいのですが、今は止めておきましょう。知ることで要らぬ危険を呼ぶかもしれませんし、正直昨日から驚き通しで、もうおなかいっぱいですわ」

「シュタインベルクとしては、この大きさの妖精王陛下の空飛ぶ御座船があると知っていれば、外交的にも充分でしょうな」

「うん、分かった。そうすると時間余っちゃうから、このあとどうしよう?」

「ティナ様、魔核ください。私、早く飛べるようになりたいです」

「そうですわね。ティナ、爺にも魔核をお願いします」

「年寄使いが荒ろうございますなぁ…」

「いいけど、あんまり一気にレベル上げない方がいいよ。四つくらい一気に上がると、増えた魔力制御するのに、慣れるまで魔法へたくそになるし、もっと一気に上がると気絶しちゃうから」

「気絶って、大丈夫なんですの!?」

「初めて壊した魔核が死与虎のでさぁ、一気にかなりレベル上がっちゃって、身体がびっくりして気絶したの。だけど、目が覚めたら問題無かったよ」

「初めてが死与虎ですと!?」

「アルが窒息させて倒してくれたんだけど、あのころはレベルアップの仕組みが分かってなくてさ、実験中の事故みたいなもんだよ」

「身体を張るような実験は、おやめくださいまし!」

「いや、あんなふうになるなんて知らなかったんだって。宝箱とかあったら、何が入ってるか気になって開けちゃう感じ?」

「…開けたらびっくり箱だったと?」

「えへへ」

「ティナは厄災の箱の伝承をご存じありませんの?」

「……知ってました」

「好奇心強すぎですわ! アルさんが付いていながら、何をやっていますの!?」

「あれは私の失敗でした。予測不能の事態でティナを失う可能性もあったかと思うと、今思い出しても恐ろしい。深く反省しています」

「いや、壊そうって言ったの私だから」

「お二人共ですわ!」

「あ、はい」

「あれ以降、最大限に注意を払っております」

「出た、過保護アル」

「ぶふっ。ティ、ティナ、ちゃんと反省していますの!?」

「あ、はい。ごめんなさい」

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