自制? 出来てるのかなぁ…

「少しは恩を返させてくだされ。他にもお願いはございませんかな?」

「お願いって言うかさっきの続きなんだけど、ドローン以外はどう思った?」

「ローバーというのは、空を行く箱馬車のように感じましたな。あの飛空艇、クール君でしたか。姿は船と言えなくもないですが、あのスピードは驚異的でした」

「ローバーは馬車の三、四倍しかスピード出ないけど、クール君は何百倍も出せちゃうからね。でもそうか、あのスピードは異常に見えるんだね。誰かに見られてる時は、ゆっくり飛ぶべきか」

「今日見た物はすべて、機械妖精種と説明すればよいのではないかしら? 失礼な言い方になるかもしれませんが、アルさんの本体も妖精王陛下の御座船と言えば、大きいのが当たり前に思われるかもしれませんわ」

「おお、クラウ鋭いね。アルの本体って言い方したけど、実際には空行く大型の船なんだよ。中にドローンやローバーたちが乗せられて、電気を充電…えっと、ドローンたちの食事が出来る船なの」

「そうなのですか。では、アルさんもその船の中に乗っているのですね」

「そうだね。アル自身は動く身体が無いから、その船に乗って移動して、ドローンたちを手足の代わりにしてるの」

「アルさんは、考えたりしゃべったり出来る機械ということですか? そしてわたくしたち人間と接するために、アルフレートさんという人の身体を持った分身を作られた?」

「おお、クラウ正解!! すごいな!」

「ティナが機械という存在を説明してくれたからですわ。実際に動くドローンを見て触って、自分で動ける複雑な道具のように感じましたの。そしてその機械を手足として使うアルさんも、思考出来る機械なのではないかと思ったのです」

「クラウって、天才?」

「何ですのそれは。天才はティナの方でしょうに」

「いや、私は教えられて知ってるだけだから天才じゃないよ」

「わたくしもティナに、機械という物を教えていただいただけではないですか」

「ちょっと見たり聞いたりしただけで正解にたどり着けるんだから、すごいと思うんだけど」

「ティナ、あなたがそれを言うと、嫌味になってしまいますわよ。いろんなものをポンポンと思い付くティナにだけは、言われたくございませんわ」

「いや、大抵は知ってた物を再現しただけだから、私の場合はズルみたいなもんだって」

「大抵とおっしゃいましたよね? では大抵以外の物は何ですの?」

「……魔核の壊し方とポーション? あ、魔獣討伐用の魔法もかな」

「超大事ではないですか!?」

「いや、アルと協力したから出来たんだよ」

「たとえ功績をアルさんと分けたとしても、すばらしい功績だと分かりますよね?」

「……そうかな?」

「なんで疑問形ですの!? 魔核の破壊なんて、国が躍起になって求める情報ではないですか!? 手遅れとしか思えない重症患者を治してしまうポーションって、何ですの!? 女子どもが魔獣を倒せる魔法って、何ですの!? ティナは、自己評価低すぎですわ!!」

「……そうなの?」

「まだ疑問形ですのっ!?」

「クラリッサ様、興奮しすぎでございますぞ。ティナ様、軍事作戦は状況次第で対応は千差万別。それはお分かりですね?」

「そうね。全く同じ状況や条件なんて、ありえないよね」

「ティナ様は、前子爵の派兵を二度退けておられます。二度ともこちらが寡兵でしたが、こちら側の損害はございましたか?」

「あれは、アルが頑張ってくれたから成功したんだよ」

「作戦を立案されたのもアル殿ですか?」

「…」

「その作戦で、どれほどアル殿のお力をお使いになりました?」

「…」

「敵側の、死傷者数は?」

「…」

「戦術と戦略、その効果はいかほどでしたか?」

「…」

「派兵された敵を武力衝突前に撤退させ、双方の被害はゼロ。しかも前子爵の評判を下げ、隣領との関係も悪化させて追い詰めました。結果的には王国との関係まで悪化させ、領主解任と廃爵にまで追い込んでおります。武力を全く使わず、はるかに多勢であるはずの敵を下す作戦など、鮮やかすぎて軍略家が言葉を失いますぞ。ティナ様、あなたの思考力は確実に天才と呼べるもの。ティナ様自身、うすうす気付いておいででしょう?」

「……アルという力を手に入れた私は、調子に乗ってバカをやらかさないように、常に自制しなきゃいけないの。だから自分で自分を天才と思うなんて、絶対したくない」

「…そのような意図があって自己評価を低く抑えていたのですね。心情に気付かずに無理を言いました。申し訳ございませんわ」

「クラウは私のために言ってくれたんだから、謝らないで。親友のクラウにさえも、自分の思いを話してなかった私が悪いの」

「私からも謝罪を。ティナ様のご心情を思いやれず、理詰めで追い詰めてご心情を吐露させてしまいましたこと、誠に申し訳ございません」

「クラウやアルノルトさんの気持ちはうれしいから、謝罪なんてして欲しくないんだって。あ、さっきの心情吐露は、追及を躱すための方便でしたって言ったら、通る?」

「通りませんわ。ティナが感謝されるのを敬遠しているのも、ひょっとして驕らないようにするためですの?」

「私はすでにアルの力を使って、何人もの人を殺めてるの。しかも私は、人の死に対する感情が壊れちゃってる。こんな危ない奴、思いっきり自戒させとかないと、何しでかすか分かんないから」

「ティナ、ひとつだけ反論がございますの。ティナは人の死に対する感情が壊れているのではなく、悪人を憎む感情が強いだけではないですか? 星の影響病からわたくしたちを救ったことも、前子爵の圧政に苦しむ民をわたくしたちと一緒に助けたこともそうですが、人を救うために新たな領まで作ってしまった事が、何よりの証左でしてよ」

「……私、思ったほどは壊れてはいないの?」

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