デミちゃん派遣

お風呂を出てラフな服装に着替えたティナたちは、小食堂に移動した。

大食堂(グレートホール)は広すぎて少人数で食事を摂るには向かないので、プライベートな食事用の小食堂での晩餐だ。


壁際にはアルフレートやフィーネ、イレーネが控え、二世代目以降のデミ・ヒューマンたちが給仕を担当している。


私的な晩餐ではあるものの、他領の領主家を招いているので、一応フォーマルな八品のフルコースである。


「あ、あのティナ様、私、コース料理を食べたことも給仕したこともありません。だからマナーとか分からないです」

「大丈夫だよ。給仕が料理を持ってくるときに教えてくれるから。私の見てて真似してもいいし」

「…ティナ様、なんでそんなに慣れてるんですか?」

「給仕の仕方覚えてもらう練習に、何度も付き合ったからね。私が間違えると練習にならないからって、私まで特訓させられたし。だけど今日は私的な晩餐だから、好きに食べて」

「わたくしも正式な晩餐は初めてですわ。カトラリーは外側から使っていくと習ったのですが、それでよろしくて?」

「そうそう。それじゃあフィーネにも、解説しながら一緒に食べてもらおうか。フィーネ、お願いしていい?」

「承知いたしました。すぐに用意いたします」

「お願いね」


こうして、晩餐会という名のマナー実践教室が始まった。

フィーネはナプキンを広げるタイミングや、各料理の食べ方、注意点、コツなどを説明しながら料理を食べ進め、食後の紅茶の飲み方まで話してから席を立った。


「すごくお勉強になりましたわ。ありがとうフィーネさん」

「お役に立てたなら何よりでございます。ですが私はティナ様の使用人ですので、できれば敬称無しでお呼びくださいませ」

「教えを乞うた場合は、身分に関係なく敬うようにと教えられたのですが」

「シュタインベルク侯爵のお気持ちはありがたく存じますが、立場に関係なく敬うのは師事した場合でございます。今回は単なるお手伝いに近い状態でございますので、呼び捨てでお願いいたします」

「承知しましたわ。ありがとうフィーネ。それと、わたくしのことはクラリッサと呼んでください」

「クラリッサ様、重ねてのお心遣い、感謝いたします」


晩餐を終えた一行は、サロンに移動して食休みとおしゃべりを始めた。

ちなみにサロン内は無礼講にしたので、招待された四人は晩餐会での堅苦しさから解放された。


「ティナ、フィーネはわたくしよりよほど貴族令嬢らしいのではありませんか?」

「今ではね。ここに来た当初は結構大変だったよ。なにするにも心配で、ずっと見てたもん」

「すごい学習能力ですわね。うちのメイドをひとり、行儀見習いに出せませんか?」

「いいけど、見習い期間終わるまではここに缶詰めだし、設備もシュタインベルクとはかなり違うよ。逆に誰かシュタインベルクに派遣しようか?」

「よろしいの? まだ家人の方は少ないのでは?」

「こっちにはドローンいっぱいいるから、何とでもなるよ。派遣の了承は確認取るけど」

「爺、問題あるかしら?」

「さすがに機密事項には関わらせられませんので、業務の線引きは必要でしょうな」

「…帰ったら、指導いただく内容を詰めましょう。対外的に侯爵家を名乗るなら、上位のマナーや儀礼も必要になりますわ」

「左様ですな。ユーリア、指導いただきたい内容をまとめてくれますか? 確認してティナ様にお願いしますから」

「分かりました」

「食事のマナーはフィーネさんの優しい指導で何とかなりましたけど、料理はどうします? 味はティナ様のレシピでなんとかなるにしても、食べるのをためらっちゃうほどきれいな盛り付けなんて、うちのコックさんじゃ無理ですよ?」

「む、そちらもあったか」

「料理と盛り付けかぁ…。ひとり適任者がいるんだけど、あの子シュタインベルクに行ってくれるかな?」

「アメリアですか? 彼女なら多分行きますね。ここでは作れる量が少ないので、工夫が凝らしにくいと言ってましたから」

「ああ、確かに。日中はほとんどみんなを移住者の就職サポートに出しちゃってるから、お城で食べる人少ないもんね。だけどあの子は見た目が若いから、男性のコックさんたち言うこと聞いてくれるかな?」

「ティナ様から派遣されて料理の指導に来たって言えば、一発です」

「え、なんで?」

「以前ティナ様がレシピを教えるのに、厨房に入ったことがあったじゃないですか。最初コックさんたち反発してたのに、ティナ様が作った料理食べたら師匠呼び始めちゃいましたよね?」

「ああ、あったわね。なんか途中で勢いが急変して、びっくりしたよ」

「師匠と敬うティナ様が、シュタインベルクのために派遣してくれる料理人なんですよ。絶対言うこと聞きますって。しかもあのレベルの料理出されたら、神様みたいに崇められますよ」

「…それはそれで暑苦しく囲まれそうね」

「あ~、…私たちが守ります」

「なら大丈夫か」

「ティナ、二人もうちに派遣していただいて、こちらは大丈夫なんですの?」

「アメリアは礼儀作法を習得してから料理にのめり込んじゃったの。だから派遣するのはひとりだよ」

「…なんですのその有能っぷりは。うちは文官を探すのすら大変ですのに」

「あは、あははははは」

「うちは、オールマイティープラス一芸に秀でるが教育方針ですから」

「その教育方針について来られる人材がいることが、羨ましいですわ」

「まだ領政が始動していませんでしたので、たっぷりと教育時間が取れましたから。ティナ、私はアメリアに確認に行ってきますから、ドローンやローバーなどの正直な感想を聞いておいてください」

「あ、うん。分かった」


アルフレートはアメリアの意思確認をするていで出て行ったが、実際は通信ですでに了承は得られていた。

ドローンやローバーを手足のように操っているアルがいては、正直な感想が聞けないかもしれないという懸念に配慮しただけである。

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