魔性の幼女?

「なんともティナ様らしい町ですなぁ…。私も引退したら、移住しても良いですかな?」

「別にいいけど、シュタインベルクの方が良くない? お孫さんやクラウの子どもたちと共に過ごす余生は?」

「孫たちはもうすぐ成人でして、小言が多いジジイだと煙たがられております。クラリッサ様のお子は、きっとこちらにも来られるでしょう?」

「当分引退などさせませんわ。わたくしに子どもが出来たら、教育係に任命しますからね。何なら魔核のお風呂にでも入りますか?」

「お城には魔核いっぱいあるから、全部持って行っていいよ」

「……ジジイ使いが荒ろうございませんか?」

「アルノルトさんがいなかったら、領主館が運営出来ませんよ」

「そうですよ。私なんかメイドなのに、兵士の魔獣討伐訓練までしてるんですよ。もっと働いてください!」

「どれだけジジイをこき使う気ですか!?」

「アルノルトさん、頑張って後継者育てた方がいいよ」

「今の状況で後継者育成まで手掛けろと!?」

「やらないと、いつまで経っても引退出来ないよ? とりあえず数人文官を部下に雇って、見所ありそうな人を探すところからだね。仕事を割り振れるようになったら、楽になるよ?」

「ティナ、領主は代わりがいませんから、わたくしは忙しいままですの?」

「領主の一部権限を、雇った文官に期間限定で与えたら? 最初は軽い仕事を命じて、良さそうなら少し権限を臨時で与えて様子を見るの」

「爺、帰ったら文官を探しましょう」

「しかし、もう文官が出来るほどの有能な人材など、シュタインベルクにはおりませんぞ」

「難民の中には、主家が滅んで仕官先の無い文官もいるんじゃない? 西部同盟でも雇い入れてるだろうけど、全員を雇えるはずなんて無いから。元領主家の傍系血族とかいたら狙い目かも」

「お家再興とか言いだしませんですかな?」

「雇用条件はあくまでシュタインベルク家の文官だよ。志望目的を明記させて、契約に組み込めばいいんじゃない? 面接に来るまでの動向調査とかドローンに頼めば、人柄も分かるでしょ。」

「……やってみる価値はございますな」

「やりましょう。シュタインベルク領はすでに、旧子爵家時代とは段違いの経済規模になっています。これからの発展も目に見えていますから、伯爵家や侯爵家規模の行政態勢にするべきですわ」

「そうだね。あと、妖精王国から爵位をクラウに贈りたいんだけど、いいかな?」

「へ? 爵位ですの?」

「うん。シュタインベルク領は希少品を多く扱ってて経済規模も大きいから、西部同盟各領よりも上位に位置しちゃってる状態なの。だから対外的に侯爵家くらいは名乗った方がいいと思って」

「侯爵家!? 領民が少なすぎますわ!」

「領民以外に、人の何十倍もの力を持つ妖精があちこちにいるんだよ? それにクラウ自身が言ったじゃん。経済規模もランダン王国との取引が始まったら、十分に侯爵家クラスでしょ」

「……わたくしが侯爵?」

「まあ対外的なものだから、実質は今までと何も変わらないんだけどね」

「左様にございますな。色々な折衝の折にも西部同盟の盟主である侯爵家が下手に出ておりますので、相手にとっても我がシュタインベルク家が侯爵家となった方が、無爵の家との折衝よりよほど体裁が取れるでしょうな」

「そう、ですわね。対外的には妖精王国の侯爵を名乗った方が、事がスムーズに運びそうですね。ティナ、いいえ妖精王陛下。侯爵位、謹んでお受けいたしますわ」

「その呼び方は、上下関係出来そうで嫌なんだけど…」

「ここだけのお話ではないですか。ティナを妖精王陛下として奉じるわけではございませんわ。ですがティナ、あなたは対外的にどうされますの? わたくしと同じでは、他領と折衝の折に、誤解を与えかねませんよ」

「うへぇ、そんなの考えてなかったよ。どうしよう…」

「クラリッサ様が妖精王国との窓口なら、妖精王国との折衝を担当されるティナ様は、公爵クラスでなければいけませんぞ」

「公爵って、王族の血縁じゃん! 私、妖精との混血になるの!?」

「ティナ、商人たちの噂では、あなたは妖精との契約者と目されているのですよ。身体の成長具合から見ても、妖精とのハーフとでもしなければ、レベルアップによる寿命の延びがバレかねませんわ」

「あぁ~、それもあった。じゃあ、みんなもハーフ?」

「わたくしたちは、妖精との契約とするつもりです」

「じゃあ私もそれで」

「あの、ティナ様。領都の住民の多くが、ティナ様は妖精に近い人だと思ってます。実際その話を聞いた私も、すんなりと納得してしまいました。私たちみたいに妖精の契約者にするには、かなり無理がありますよ」

「な、なんで!?」

「妖精教の人たちにとって、妖精の巫女であるティナ様は崇拝対象です。今更私たちと同じと言っても、説得力がございませんよ」

「そうそう。みんなティナ様の事を、半分妖精だと思ってますもん」

「なんでそんなことに…」

「ティナ様はポーションで病気や怪我を治したり、学舎で魔法を見せまくってます。なにより星の影響病から私たちを救ったんですから、力があり過ぎて人とは思われてないですよ」

「ある意味自業自得ですね。対外的にも立場的にもその方が受け入れられやすいのですから、諦めて妖精とのハーフになるべきでは?」

「あうぅ…」

「何よりその純粋で可愛らしい反応が原因ですわ。楽しそうな人々を見て満面の笑みでよろこんだり、困ったことがあると他者にも心情が伝わるほどしょんぼりしたりと、ティナからは悪意や負の感情が感じられなくて、同じ人間とは思えないのです」

「何で!? うれしいのもがっかりも、全部人の感情じゃん!」

「ですから、その感情が純粋すぎるのです。心から他者の幸せをよろこび、他者の失望や悲観を我が事のように捉える。もう天使か何かとしか思えませんわ」

「もっと人から離れたっ!?」

「ほら、その反応も普通ではありいませんよ。天使と言われたら普通はよろこぶのに、ティナは人であることの方に拘っています。それって、人ならざるものが人であろうとする反応ですわよ」

「……私、人じゃないの?」

「泣きそうな顔をしないで! 可愛らしすぎて、抱きしめたくなりますわ!」

「…………どゆこと?」

「首を傾げない! 我慢するの大変なのですのよ!」

「ティナ様、おそらくティナ様は反応がお可愛らしすぎるのです。妖精に魅了されてしまったように、頭を撫でたり抱きしめたくなる気持ちが抑えられなくなってしまいます」

「……私がシュタインベルクで良く頭を撫でられるのって、仕草のせい?」

「仕草も、表情も、行動も、話し方も全てですわ!!」

「おわっ!? ちょ、ちょっとクラウ、苦しい。あ、でもクラウっていい匂いする」

「クラリッサ様、普段は我慢出来ておられますに、本日はいかがなさいましたかな?」

「今日は政務はお休みでプライベートです! わたくしをこんなにも魅了してしまう、ティナが悪いのです!」

「クラリッサ様に同意です。わたしたちはメイドだから、ティナ様を抱きしめたり出来ないんですよ! 領主館のメイドたち全員、悶絶するほど耐えてるんだから!」

「…ねえアル、この流れ、私が悪いの?」

「良かったではないですか。ティナは魔性の幼女に昇格です」

「チビで寸胴でぺったんこなのに、魔性って何よ!? しかも幼女付いてるし!!」

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