これ、私のおうち(お城)

「…ティナ、あの宙を浮いて移動しているのは?」

「あれが妖精の本体。小型ドローンって言って、アルが操ってるの。あと中型と大型があるの。シュタインベルクでは姿を消してるけど、城だと姿を消す意味が無いから」

「驚きました。あのようなお姿だったのですね」

「中型も大型も、あれとは形が違うけどね。あ、あの屋根の上にいるのが大型だね」

「…かなり大きいですわね」

「あれは中に四人乗れるからね」

「可愛くない」

「…ごめん。いきなりあの姿見せたら怖がられると思って、今までは可愛い妖精の幻影を映したの」

「カーヤ、さすがに今の発言は看過できませんわ。あなた、自分が可愛くないと言われたら、どう感じますの?」

「も、申し訳ございません!」

「可愛い妖精の幻影見せちゃった私のせいだから、出来たら許してあげて」

「それでも、大変お世話になった方々への無礼は、シュタインベルク領の領主として許すわけにはまいりませんわ」

「あのね、あれってただのからくり人形だから、アルの道具みたいな物だよ。だから可愛くないって言われても、誰も傷付かないから」

「え、そうなんですの?」

「うん。使い勝手を優先させた道具は、可愛くなくても仕方ないよ」

「ティナもそう思っていますの?」

「私は道具に愛着感じちゃうタイプだからなぁ…」

「ティナ様、無神経な発言ごめんなさい。私が間違っていました」

「いや、可愛く感じるかどうかは人それぞれの趣味嗜好だから大丈夫だよ。だけど嫌わないであげて欲しいだけ」

「私、魔獣討伐の時にいっぱいお世話になってます。感謝こそすれ、嫌いになるなんてありえません。だからこそ、自分の発言がひどいものだったと反省してます」

「うれしい。ありがとう」

「きちんと理解して反省しているようですので許します。次に失敗しないよう、気を付けてくださいまし」

「はい、しっかりと反省いたしいます」

「私も安易に可愛い幻影見せちゃったことを反省するよ。なるべく怖がられないようにって思ってやったけど、みんなのイメージとかけ離れた実像になっちゃって、夢を壊しちゃってるよね」

「それはどうでしょうか。恩義を感じる前に今のお姿を見ていたら、怖がる者もいたと思いますわ。ですが今なら、うちの領民も受け入れると思います」

「そうなんだけど、子どもたちの夢を壊してるみたいで、結構きついんだよね」

「…あの、横から申し訳ございませんが、実際のお姿の上か前に、幻影を出すことは出来ませんでしょうか?」

「え? それは簡単だけど、そんなのでギャップは埋まらない気がする」

「わたくしが、事前に説明いたしますわ。皆に怖がられないために可愛らしい幻影を見せていらしたと。我が領の民は、妖精様に多大な感謝を覚え、崇拝しております。本当のお姿を受け入れるのは、そう難しくは無いと思うのです」

「左様でございますな。おとぎ話の妖精は、大抵が恐ろしいか醜い容姿で語られていることが多いのです。怖がられたくなくて幻影を見せていたと説明すれば、おそらくは受け入れられるでしょうな」

「妖精の友民となった皆が信仰してくれたので偽りの姿は心苦しく、真の姿をさらす気になったとお話すれば、受け入れられると思いますわ」

「…みんな、ありがとう。みんなが容姿を気にせずドローンに信頼を置いてくれてるって分かって、すごくうれしいよ」

「この際ですから、他にも言いにくいことをお話になったら? ティナは時々悲しそうな顔でごまかそうとしますから、大抵は何かあるとバレていますわよ」

「え? 私って、そんなに顔に出てた?」

「分かりやすかったですわ。この際、話せることは話した方がいいですわよ」

「……アルはね、本当は身体があるの。でも、ものすごく大きい金属の身体だから、普段はドローンを手足の代わりに使ってるの。ただそれでも不便だからって、人の形をした分体みたいなのを作ったの」

「まあ! ひょっとして、お会いできますの?」

「分体は城の中にいるからすぐに会えるよ。本体はこの城より大きいから、日中の移動は怖がられないように控えてるの。だけどその姿をさらして西部同盟の支援に行けば強力な手助けが出来るって言ってるから、クラウたちには明日見てもらおうと思ってるの」

「このお城よりも大きい?」

「うん、何倍も」

「…想像が付きませんわね。わたくしたちはアルさんの本体とお会いして、西部同盟の民たちの反応を予測すればよろしいの?」

「それもお願いしたいんだけど、四人には本当のアルと最初に会って欲しかったから」

「ぜひお会いしたいですわ」

「はい。ぜひとも直接お会いして、感謝を述べさせていただきたいですな」

「私たちもです。星の影響病に罹ったままで廃村にいたら、おそらく死んでいたと思います。命のご恩人に、ぜひとも感謝を述べさせてください」

「私もおんなじ気持ちです。お願いします」

「えっと…。それなら今から会う分体の方が話しやすいよ。本体は大きすぎて、どこ向いてしゃべっていいのかも分からないから」

「それほどのご雄姿ですか。私も想像が付きませんな」

「事前情報無しで会ってもらった方が西部同盟の民たちと同じ条件になるはずだから、これ以上アルの本体についての言及は止めとくね。明日の朝には本体と会えるから、率直な感想を聴かせて」

「分かりましたわ」

「じゃあ城に入ろうか。応接室でアルの分体が待ってるから」


こうして一行は城内に入ったものの、応接室にたどり着くまでにかなりの時間がかかってしまった。

ティナが城内を案内しながら応接室に向かったためだが、随所に装飾を凝らした華麗で荘厳な城内に、招待した四人は各所で見惚れてしまっていた。

アルが自身の技術を最大限に活かしながらもこの世界の技術水準から外れないように建てた城なので、城内各所は全て一級品の仕上がりだ。

四人が見惚れてしまうのも当然だろう。


「お爺様が存命の折にバンハイムの王城に連れて行っていただきましたが、このお城を見てしまうと、いかにバンハイムの王城が武骨な作りだったかが分かりますわ。壁全面が細かなレリーフで装飾され、繊細な彫刻が成された柱や階段の手すり、窓枠にまで彫刻が施されています。そして、歩くのをためらってしまうほどに磨き抜かれた大理石の床。いったいどこの大聖堂ですの」

「あはははは。アルが楽しそうに作ってたんだよねぇ」

「ティナがうちの領主館を質素だと言った理由が、やっと理解できましたわ」

「でしょ。この城内を基準にしちゃうと、どんな建物も質素になっちゃうけどね。ここが応接室だよ。アル、お待たせ~」

「あ」

「ティナ、せめてお客様を案内している時くらい、ノックしてください」

「あ、ごめんなさい」

「あとでお説教です」

「うげ」

「今の発言もダメです」

「でもアルだって、お客様無視して説教してるじゃん」

「ティナの教育のためにと、みんなが挨拶を待ってくれているのです。皆が許してくれるからと、甘えちゃダメです」

「……はい」


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