一足先に
元廃村組四人に頼み込んで一泊二日の予定を無理やり空けてもらい、ティナはシュタインベルクに皆を迎えに来た。
領主館の屋上にインビジブル状態のクール君で着陸し、執務室で待っていた四人を屋上まで案内。
見送りに来た兵や使用人たちの前で、ティナはクール君のインビジブルを解除した。
「んなっ!? なな、何ですかこれは!?」
突然現れた20m級の飛行艇に、ディルク兵団長が素っ頓狂な声を上げた。
他の面々は、声も無くただただ驚いて目を丸くしていた。
「これ、私の飛空艇。クール君っていうの」
「……ひくうていって、何ですの?」
「空を飛ぶ船。今からこれで、四人を私の領まで乗せて行くから」
「…空を、飛ぶんですの?」
「うん。これ以外にも空飛べる乗り物あるんだけど、今私が一番使ってるのがこれだから、兵団長さんやみんなには覚えておいてもらおうと思って。ちょくちょくここに乗って来るだろうから」
「……ティナ様、本当にこの、船? が空を飛ぶのですか? 落ちたりはしませんかな?」
「ああ、クラウが乗るから心配だよね。でも大丈夫だよ。アルの技術で飛ばしてるから、絶対に落ちないよ。万が一壊れても、四人くらいなら私が魔法で浮かせられるから、怪我とかさせないよ。ほら、こんな風に」
「なっ!?」「えっ!?」「う、浮いてる!?」「すごっ!」
「ね。だから安心して乗って。兵団長さん、私たちはこの船が見える状態で飛び立つから、住民から問い合わせとかあったら説明をお願いします」
「せ、説明って…」
「妖精王国の空飛ぶ船。妖精が飛ばしてるから、心配しなくていいよって」
「わ、分かりました」
「じゃあ、行こうか。ドアの位置高いから、みんなを浮かせたまま乗せるね」
「すごっ! 浮くだけじゃなくて移動してる!」
「カーヤさんはもう少しレベルが上がったら、浮くくらいは出来るようになるよ」
「まじでっ!?」
「うん。これ、魔法で浮かせてるだけだから」
「魔獣討伐、頑張ります!」
「みんな、艇内にどうぞ。じゃあ、二日間四人をお預かりします」
「あ、ああ。ご領主様をお願いします」
「うん。私にとっても大事な人たちだから、安全第一でお世話するよ。じゃあ、行ってきます」
「ティナ様、魔法で飛べるんだったら、もっと早く教えてくださいよ」
「今のカーヤさんでもまだ無理なのに、言っても仕方ないでしょ」
「先に知ってたら、魔獣討伐もっと頑張りましたよ!」
「ああ、そういうことか。じゃあ、私の領に着いたら、魔核いっぱいあげるから」
「ありがとうございます!」
「あの、ティナ、何ですのこのお部屋。高位貴族の客間より豪華ではないですか」
「あはは。アルが勝手に作ってたの。豪華でびっくりだよね。みんなそのソファーに座って。紅茶出すから」
「ティナ様、お茶なら私がお淹れします」
「ユーリアさんもお客さんなんだから座ってて。それにね、魔法で色々な物動かして練習しないと、レベルアップで増えた魔力を制御するのが大変なんだよ。だから私にやらせてね」
「ティナ様にお茶などお淹れいただいて、よろしいのでしょうか?」
「こうやって常に練習しないと、魔法の制御が疎かになっちゃうんだよ。だからこれは、私の訓練なの」
「…承知いたしました」
「ありがと。じゃあお茶どうぞ」
「ク、クラリッサ様。外、外!」
「え? ……もう飛んでいたのですね。紅茶の液面すら揺れないのにこんなにも早い速度で飛んでいましたのね」
「すごい! 早い!」
「カーヤ、興奮するのは分かるけど、落ち着きなさい。クラリッサ様のメイドとして、恥ずかしくないようにしなさい」
「あ、すみません」
「アルノルトさん、大丈夫?」
「……ティナ様。年寄が空を飛ぶなど、心臓に悪いですぞ」
「あ、ごめんなさい。だけど私の領まで割と距離あるから、飛ばないと時間かかり過ぎるんだよ」
「…外を見なければ大丈夫です」
「ごめんなさい。もうすぐ着くからちょっとだけ我慢して」
「もうすぐですと?」
「うん。この艇早いから、あと一分くらいで着いちゃうの」
「それほどの速さですのね。あ、お城が見えてきましたわ」
「ぐるっと山に囲まれたあの場所が、私のホーエンツォレルン領。町の名はハルシュタットね」
「映像では見ましたが、きれいな街並みですわね。お城なんて、どこかの王城のようですわ」
「いやー、アルと二人ではっちゃけちゃって、ちょっとやりすぎたかも。移住してくれた人たちに、貴族街みただって怯えられちゃった」
「バンハイム首都の方々でしたよね。王城は見慣れているのではないのかしら?」
「なんかね、平民が住む場所はすごく狭いらしいの。一戸建てに入ってもらおうとしたら、大きすぎるって怯えられて、みんなで宿住まいしてる」
「ちょっと分かる気がしますわ。最初に領主館を見た時の気持ちを、思い出してしまいました」
「もう慣れたでしょ? ここのみんなにも早く慣れて欲しいんだけど、誰も一人住まいしたいって言ってくれないんだよね」
「わたくしたちのように、そのうち慣れるのではないかしら」
「だといいな。さあ、到着したから降りよう」
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