見せちゃう?

「ティナ、西部同盟内での妖精の大規模な活動許可は得ましたが、どう計算しても電力不足です。早急に災害復旧しませんと感染症の発生が懸念されますので、思い切ってダーナを災害現場に派遣しませんか?」

「……ダーナ、見せちゃうの?」

「幸い西部同盟盟主の侯爵家は、領地を妖精王国に差し出すほどの覚悟を決めています。妖精王国が被災者の感染症予防や被害の早期回復を理由に、本腰を入れるためにダーナを派遣しても、受け入れるのではないですか? 潤沢な電力で大規模な浚渫工事や汚泥処理、畑の復旧を行えば、妖精王国の国力を示すことにもなります」

「技術力の高さは示せるよねぇ…。そうすると、その技術力を手に入れようとする馬鹿が出てこない?」

「出ますかね? 空を飛ぶ巨大な船に、大型機械妖精の群れですよ」

「…ドローンも見せちゃって、圧倒的な力の差を示すのね。その強大な力が、民を救うために振るわれるのか……。う~ん、見せた後の予測が付かないなぁ…」

「ダーナは普段は月にあって、妖精王陛下の命で地上に遣わされたことにすればどうですか?」

「…普段は手が届かない場所にあることにして、手出しなんて無理だと思わせるのね。そうなるとまたクラウのとこに仲介依頼の人が押し寄せない?」

「声明を発表してはどうですか? 気まぐれな妖精の力を求める者は、妖精たちが一番嫌う者だとか」

「う~ん……。不確定要素が多すぎて、事後の変化が予測不能だよね」

「最悪の場合、ハルシュタットか孤島に籠ればいいのでは? 籠っていても、シュタインベルクなら遊びに行けますし」

「………やっちゃうか?」

「クラウたちにはクール君も見せてハルシュタットに招待してもいいですし、シュタインベルクでドローンを見えるようにしておけば、不埒者に対しても十分な威圧効果もあって、誘拐や脅迫などによる搦め手も無理だと悟るでしょう」

「……いけそうな気がして来た」

「正直なところダーナの活躍の場が無さ過ぎなので、存在をオープンにして活躍させたいんですよ」

「うん、やっちゃおう。お馬鹿が出たら積極的に報復すれば抑止力も生まれるだろうし、クラウにダーナの存在を明かせるのはうれしい」

「では、まずはクラウに明かしてしまいましょう。ついでにハルシュタットでダーナやドローンのお披露目もすれば、今後のドローンの活動がかなり楽になります」

「…怖がられないかな?」

「ティナはクラウが宇宙戦艦とか持ってると知ったら、怖いですか?」

「いや、クラウじゃなくてハルシュタットの住民よ」

「怖がったら、西部同盟で畑を大拡張して移住させてあげればいいのでは?」

「…そうだね。ダーナもドローンも私にとっては大切な物なんだから、怖がらない人だけハルシュタットに住まわせればいいか」

「ええ、ホーエンツォレルン領は妖精王国直轄領ですからね」

「よし、クラウたちのスケジュールの空きを確認しよう」


この時の会話で、ダーナとドローンは秘匿事項ではなく、姿を現して力を見せる方向にシフトした。


今までティナは安穏とした生活を第一に考えてダーナやドローンを秘匿してきたが、アルの力を十全に発揮させるには存在をオープンにした方が良い。

懸念事項だった権力者からのちょっかいも、圧倒的な力を見せればほとんど無くなるだろう。

しかも万一の避難先としてハルシュタットや孤島があるので、ティナは心情的にもかなり楽になった。


ティナが求めていたのほほん生活は難しくなるが、アルという超技術の所有者としては、アルを十全に使ってあげるべきだと考えを改めたのだ。

ティナが隠遁生活を望んでもアルは文句を言わないだろうが、ティナは隠遁生活にアルを付き合わせて、アルの能力を無駄にすることが辛くなってしまっていた。


シュタインベルクの民のためにと、うれしそうに働くアル。

アオラキの地下を開発して、人々に物資を供給しようとするアル。

ハルシュタットを作って領民を迎えようとするアル。

そんなアルを見ていたティナは、アルが人々を幸せにするために存在しているのだと感じて、アルの家族としてアルを応援したくなった。

そして自身ののほほん生活よりも、アルと共に人々を幸せにすることを第一の目標にしたのだ。


また、そんなティナの行動の変化に気付いたアルも、ティナをのほほん生活させたくて自身の能力を最大限に発揮しようとした。

デミヒューマンを誕生させてティナをサポートし、自身の存在を公表して十全に力を揮う環境を得ることで、ティナの負担を軽減させる。

自身の能力をハード面でも向上させ、さらにティナの負担を軽減させる。


双方がお互いを第一に思って行動し始めたことで、この世界に惑星降下艦やドローンが、その姿を現すことになった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る