え、身売り?
「ティナ、クラウ、西部同盟盟主がクラウに通信を求めています」
「通信を求めるって…?」
「謁見の間で何度も叫んでますね」
「…クラウ、どうする?」
「繋いでください」
「了解」
「妖精殿、どうか、どうかお力添えを! シュタインベルクと話させて下され!」
「侯爵様、クラリッサ・シュタインベルクです」
「おお! 妖精殿、感謝いたしますぞ!! クラリッサ様、現在西部同盟中部は大雨で川が溢れ、被害が拡大しております。おそらく三十年前の大洪水と同じことになりそうだ。前回に続いて大変虫の良い話なれど、支援をお願い出来ぬであろうか?」
「今その件で、妖精王国の窓口となる方と話し合っておりました。システィーナ様、よろしいですか?」
「ええ、直接お話しします。初めまして侯爵閣下、システィーナ=ホーエンツォレルンと申します。システィーナとお呼びください。わたくしが妖精王陛下との直接交渉を担当していますので、今後ともよろしく願います」
「左様でござったか。我は西部同盟盟主、ユルゲン・アダルベルトと申す。システィーナ様、まずは前回の妖精王国からの多大なるご支援、感謝を申し上げる。その上で恥を忍んでお頼み申す。ご協力をお願い出来ぬであろうか?」
「出来る限りの協力は致しますが、前回とは状況が違います。どのような支援をお望みですか?」
「お支払い出来る対価が、この領自体しかございませぬ。どうかこの領と領民の未来を対価に、水と食料のご支援をお願いしたい」
「それはまた…。随分と思い切ったご決断ですね。ただ、妖精王国はあまり国土を必要としていないのです」
「承知してござる。なれど我々は、前回の妖精王陛下とシュタインベルク領からの、多大なるご厚情に対するお礼すら失しておる状態。今回おすがりするのに、対価無しでは恥ずかしゅうて、領民に顔向け出来ませぬ」
「分かりました。その件は妖精王陛下と相談しますが、今は何より早急な対応が必要です。領地のかなりの部分が浸水被害に遭うと思われますが、民の住居は大丈夫なのですか?」
「我が領の民は三十年前の大洪水の記憶を持つ者が大半。普段住む畑横の家は簡素な作りで、大雨が降ると高台に共同で建てた長屋に避難します。なので住居は何とかなり申すが、畑が全滅すれば、圧倒的に水と食料が足りなくなりまする」
「分かりました。陛下やシュタインベルクと相談し、追ってご連絡いたします」
「お願いいたす。システィーナ様、シュタインベルク様、ご仲介に感謝を申し上げる」
「わたくしもクラリッサとお呼びください。では、支援内容の協議に入ります」
「よろしくお願い申す」
「「承知しました」」
「…アル、もう侯爵領は切れた?」
「はい。内緒話可能です」
「内緒話って…。食料備蓄って、どの程度回復したの?」
「すでに全回復以上です。アオラキとハルシュタットで、四万人を一年分となります」
「…そうよね、アルだもんね」
「何ですかその呆れた顔は?」
「ふふっ。…失礼。爺、シュタインベルクはどうかしら?」
「アル殿には遠く及びませんが、備蓄の半分を放出するとして、小麦40tほどでしょうか」
「十分すごいでしょ。二百人分のパンを、一年は賄えるわよ」
「食料は何とかなるにしても、水は困りますね。重い上に、輸送や保管中に傷みそうです」
「そうだよねぇ。妖精が運んだにしても、数日で痛んじゃうし。水害なのに水不足って、嫌がらせみたいだよね」
「大抵の井戸が水没してしまいますからな」
「現地で川の水を浄化しますか?」
「それが一番だけど、とんでも技術の施設を他領に置くのはなぁ…」
「原始的な砂や砂利によるろ過と、煮沸消毒では?」
「それだと燃料が問題だよね」
「コークス、大量にありますが?」
「何で? だいぶ放出したよね?」
「石炭のまま置いておくより利用価値があるので、支援終了後もコークス化しています」
「…まあ、アルだからね」
「またですか? 何か私に不満でも?」
「いや、資源を無駄にせず、効率よく使ってるなぁって思っただけ」
「ふっふっふ。当然です」
「あはははは。ティナとアルさんの会話を聞いていると、緊急時なのを忘れそうです」
「あ、不謹慎だったね。えっと、食料輸送はどうしよう?」
「各地で道が寸断されて、荷馬車は通れないでしょう。妖精による、各領主家へのスポット輸送ですね」
「そだね。じゃあ雨が落ち着いたら、被害に合わせて輸送物資の配分決めようか」
「そうですわね。うちの領も被害確認に入りますわ」
「了解。じゃあまた連絡入れるね」
「その前に、侯爵家に支援方法と内容だけでも伝えましょう。かなり追い詰められていたご様子でしたから」
「そだね。そうしよう」
その後二人は再び侯爵家に通信を繋いで、支援内容や方法を伝えた。
水浄化施設も当然建設許可が下り、アルとシュタインベルクは、支援準備に入った。
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