大洪水
「ティナ、残念なお知らせですが、西部同盟が崩壊の危機です」
「は? ……原因は?」
「大雨による洪水です」
「あ~っ、そう来たかぁ。シュタインベルクで大きな自然災害無かったから、すっかり頭から抜けてたよ。被害状況は?」
「すでに河川が溢れ、各地で浸水が始まっています。まだ惑星監視システムは構築出来ていませんので、衛星軌道上のドローンからの映像解析による予測しか出来ませんが、これからさらに雨量が増えそうです」
「わちゃ~。シュタインベルクはどう?」
「途中にある山脈のおかげで雨雲が遮られ、雨が降ってはいますが、災害が発生するほどではありません。それに浚渫工事も密かに実行してあるので、おそらく問題は無いかと」
「そっちは安心か。西部同盟の被害予想は?」
「気象予測はデータ不足で算出結果の誤差が大きいですが、現在の予測では、西部同盟領地の40%以上が水没しそうです」
「うげ。どの地域が一番被害受けそう?」
「中部はほぼすべての地域が被害を受けそうです」
「盟主の侯爵領もあるじゃん!」
「侯爵領の小麦はほぼ全滅でしょう。それ以外にも、多くの家屋に被害が出そうです」
「……流出土砂で交通まで遮断されそうだし、おまけに盟主の侯爵領も被害でまともに機能出来ないよなぁ。支援物資も送れないし、たとえ届いても煮炊きの水も無い。それに、住む場所すら泥だらけ。これじゃ支援のしようが無いじゃん」
「はい。被災後の復旧も時間がかかりますし、疫病も発生しそうですね」
「シュタインベルクに近い側は大丈夫なの?」
「大丈夫そうです。シュタインベルクに近付くにつれて海抜が上がってますから、西部同盟南部は比較的被害が少ないでしょう」
「バンハイム共和国側は食料不足だから、そっちに逃げても飢えるだけ。じゃあ南部に被災者が殺到するよね。予想被災者数は?」
「十万前後かと」
「おうっふ…。クラウに通信繋いで」
「了解。……どうぞ」
「クラウ、緊急事態なんだけど、今話せる?」
「大丈夫ですわ。アルノルトもいます」
「西部同盟で大規模な水害が発生してるの。このまま雨が降り続くと、被災者が西部同盟南部に押し寄せそう。予想被災者数は、十万前後」
「十万!? 前回の内戦時の、五倍ではないですか!?」
「前回は西部同盟全体で二万人ほど受け入れてるけど、今回は西部同盟の南側だけに十万人が流れ込みそうなの。しかも住居や畑は浸水被害に遭ってるから、復旧には何年もの時間がかかるわ」
「クラリッサ様、これは三十年ほど前の大洪水の再来ですぞ」
「え、うちや隣領が昇爵するきっかけになったという、あの?」
「はい。シュタインベルク家は一万人を受け入れて男爵から子爵に。隣は二万を受け入れ、子爵から伯爵に。被害の多かった地域では、小領が再編されて侯爵領になりました。その時はバンハイム東部と南部の穀倉地域が無事でしたので、被災者の半数以上がバンハイム首都側に流れました。ですが今回はバンハイム東部はランダンに占領され、南部も復旧途中。食料が圧倒的に足りませんぞ」
「ティナ、クラウ、西部同盟盟主がクラウに通信を求めています」
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