大量移民の打診
「クラウ、こんにちは。どうかしたの?」
「ティナ、ごきげんよう。実は先ほど西部同盟から使者が来まして、移民の受け入れを打診されました」
「そうなんだ。何かあったの?」
「それが、移民の数が一万人を超えているのです」
「は?」
「使者が言うには、西部同盟が受け入れたバンハイムの難民は寝返った兵も含めると二万人以上らしく、難民に与える仕事が無くて困っているようなのです。さらにバンハイム首都から東部の避難民も少しずつ流れて来ているらしく、難民を抱えきれずにいるから移民として受け入れられないかとの相談でしたの」
「南部を失地回復していくから、難民は戻るんじゃないの?」
「それが、その…。どうやら妖精王国が西部同盟を支援しすぎてしまったようで、難民が南部に戻るのを嫌がっているらしいのです」
「え? ……まさか、待遇良すぎた?」
「はい。遠回しにですが、使者がそのようなことを匂わせておりました。難民でありながら飢えることなく冬を越せて、星の影響病の特効薬まで配られたわけですから」
「…ごめん、また迷惑掛けちゃったみたいだね」
「ティナやアルさんは謝ってはいけません。あの支援のおかげで、シュタインベルクへの難民流入は最低限に抑えられ、領内は混乱しませんでした。しかも星の影響病の流入も阻止出来たのですから、感謝しかございませんのよ。シュタインベルク家一同の感謝を、全員でお伝えしましょうか?」
「なんて的確な抗議、私には効きすぎだよ。分かったから勘弁して」
「ならば結構です。今回ティナに連絡したのは、妖精王国に関連する事柄でしたし、ティナの領は領民が少なくて困っていないかと案じたからです。決してやり過ぎを責めるような心算はございませんわ」
「あ、はい。勘違いごめんなさい。それで、クラウはどうするの?」
「うちの領では、二千人ほど引き受けようかと相談中です。二千人でしたら、住居を建てずとも受け入れ可能ですから。砂糖と綿製品の引き合いが想定の五倍近く来ておりまして、増産しませんと領民の分まで無くなりそうですの」
「わおう、まさに想定外。なんでそんなに伸びるかな?」
「ランダン王国の商人が来ましたの」
「は? どうやってバンハイム抜けて来たの?」
「ランダン王国と取引のあった商人の付き人として来ました。ランダン王国一国分の砂糖と綿製品を用意出来ないかと、ランダン王国国王御璽入りの要望書を持って。とても無理でしたので、四分の一に減らしていただいて、それでも想定の五倍ですわ」
「おぉう…。シュタインベルクでは移民二千人で増産に対応する方針なんだね。移民の管理、大丈夫?」
「前回の使用人や兵の大量募集時には混乱しましたが、おかげでノウハウが蓄積出来ましたし、文官も増やしましたので何とかなると思います」
「そっかぁ…。うちも移民受け入れたいけど、うちは魔の森の中だからイメージ悪いだろうなぁ…」
「動く絵では拝見しましたけれど、実際の安全性はどうですの?」
「周りぐるっと山脈に囲まれてるし、町は湖に囲まれてるから魔獣の心配はほぼ無し。万一何かあっても、お城がすぐ上だからから妖精も即座に駆け付けられる」
「…それ、うちの領より安全ではないですか」
「そうかもだけど、うちは他の領に行く道無いからね」
「領間を移動するのはほとんど商人だけですわ。そちらの産物は妖精商会で売ればいいのですから、商人はそちらに行く必要がありませんし」
「そうなんだけどねぇ…。移民、来てくれるかな?」
「今回の移民は内戦での難民なのですから、隔絶された領なら戦争は無いと考えませんか? 実際に援助物資を提供して難民を助けたのは妖精王国なのですから、かなりの希望者が出ると思いますけれど、何名ほど受け入れ可能ですの?」
「ああ、戦争には巻き込まれないし、うちは妖精王国の直轄地だから支援も受けやすいね。アル、衣食住の面から見て、受け入れはどのくらい?」
「一万五千です」
「それ、最大居住人数じゃん」
「そうですよ?」
「…いつの間にそんなに備蓄してたのよ?」
「忘れてませんか? 西部同盟への支援では、食料備蓄の半分も消費していませんよ」
「あ、そうだった。妖精王国への依存度が高くならないように、途中で支援を止めたんだった…」
「秋の収穫で、また備蓄も増えましたしね」
「あの、移民の管理はどうされますの?」
「ホーエンツォレルン領は妖精王国の直轄領です。シュタインベルク以上に妖精がいますから、何とかなりますよ。十五名ほどなら家人も使えますし」
「いつの間に家人を…」
「あはは。一応領主することが決まった時から集めてたの」
「そうですわね。事前準備は当然ですね。ではティナ、わたくしが西部同盟にお返事を出す際に、ティナの移民募集も一緒に連絡しましょう」
「そうね。移民の件はクラウと歩調を合わせて行動するつもりだから、連絡よろしく」
「分かりましたわ。当家の結論が出次第、連絡いたします。相談して、受け入れ条件を詰めましょう」
「うん、そうしよう」
バンハイム首都に移民募集しようとしていたところでの、西部同盟からのシュタインベルクへの大量移民打診。
どの程度ホーエンツォレルン領に移民が来てくれるかは分からないが、ティナは西部同盟からの移民を受け入れることにした。
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