自領で初収穫

ホーエンツォレルン城に戻ったティナは、初栽培の米が収穫期を迎えたと聞き、住民による米の収穫作業を計画した。

住民だけでなくデミ・ヒューマンたちも総出で収穫する予定で、子どもたちへの収穫体験も兼ねている。

もっとも鎌による刈り入れなので、子どもたちは見学だが。


朝から全員で田に出向き、ティナが刈り方や乾燥方法を指導。

大人たちで稲を刈り、空いたスペースに稲架(はさ)掛けしていく。

作業に慣れてはいなくても、さすがに大人数だとペースも早い。

夕方までには、刈り取りと稲架掛けは終わった。

あちこちで腰を伸ばす者がいるのは、初心者なら仕方がない。


子どもたちは、最初は何が始まるのかと興味深く見ていたが、そこはやはり子ども。

すぐに飽きて、あたりを走り回っていた。

一応何人か子守を付けてはいたが、脱走者続出で、ドローンに釣り上げられて回収される子どもが多数出た。


脱走して連れ戻されるのが遊びのようになって収拾がつかなくなり、ティナは警告した上でしみしみ液(薄め)の使用許可を出した。


数人がしみしみ液をくらい、大泣きしたことで脱走騒ぎは収まった。

しみしみ液で大泣きした上に目の洗浄で顔をびしょ濡れにした脱走者を見て、さすがに他の子たちも悟ったようだ。


刈り取った稲は二週間ほど稲架掛けで乾燥させるので、脱穀や籾摺りはその後の作業になる。

ただ、半月後には春小麦の収穫も控えているので、住民にとってはなかなか忙しい収穫体験になるだろう。



「ティナ、今回のスタンピードにおけるバンハイム南部の農産物被害、ドローンによる確認が完了しました。南部でおよそ36%、バンハイム共和国全体では17%の損失です」

「そっかぁ…。またバンハイム首都の食料価格が上がっちゃうねぇ」

「前回の食料価格高騰が収まりかけたところでの被害です。また生活困窮者が出そうですね」

「う~ん…。バンハイム首都で、移住者でも募るかな」

「おや、食料援助ではないのですか?」

「これだけ食糧難が続くってことは、バンハイム首都は人口過多だってことだからね。少しでも減らさないと、慢性的な食糧難になるんじゃないかな。まあ、南部に人を送って農地を再生しなきゃいけないから移民募集を断られるかもだけど、その時は小麦を売ろう」

「では私が、ティナの執事アルフレートとして交渉に赴きます」

「お。アルフレート、本格始動だね」

「せっかく作ったリモート体ですから、活用しませんとね」

「そうだね」

「あ、クラウからティナに通信依頼です」

「ありゃ、何だろう? 繋いで」

「了解。どうぞ」

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