結構頑張った

「ティナ、お疲れ様です」

「ふう、忙しかった」

「…ホーエンツォレルンの魔の森では、力をセーブしていたのですか?」

「え、してないよ。だってあそこは一気に魔獣寄って来なかったから、忙しくなかっただけだよ」

「…ティナの戦闘能力を、上方修正します」

「あ、てことは、結構倒せた?」

「ドローンと合わせて、首都に来た魔獣の43%を撃破しました」

「おー、頑張った!」

「想定より32%増しの内の43%ですからね。どんだけですか!?」

「あはは、ナイスな突っ込み。でもさ、多分大型ドローン二機分くらいしか働いてないよね?」

「撃破数からすれば三機分以上です。しかも死与虎三体をほぼ瞬殺なんて、大型ドローン三機では無理ですからね!」

「何機必要?」

「五機で可能かと」

「じゃあその程度の強さしかないってことじゃん」

「その程度って…。まあいいです。各ドローンは充電のために森で待機予定。クール君はホーエンツォレルン城に向けて飛行中です」

「森に設置した岩型発電機、ドローンの電力回復したら、違和感無いように配置しなおしといて」

「その予定です」

「その後の首都の様子はどう?」

「まだ戦闘が始まって間もないですよ。現在魔獣撃破率58%です」

「おお、頑張ってる」

「かなり戦意が高いですね。ただ、市街地各所に配した兵の矢が無くなると、補充出来ませんから撃破速度は下がるでしょう」

「まあそれは仕方ないね。他の町はどう?」

「失地回復領は全員避難済みですので町は襲われていません。首都方面に魔獣が進路を変えたため避難民方向には向かっていませんし、避難人が目指す町にも流れないでしょう。首都西の二つの町には魔獣が流れていますが、少数ですので現有兵力で対応可能と思われます。ランダン王国駐留軍の町には少し多く魔獣が流れていますが、戦力が多いので対応は十分可能でしょう」

「じゃあ後は首都だけね。死与虎クラスはもういないよね?」

「撤退中のドローンで確認していますが、現時点では発見出来ません」

「良かった。死与虎の死体、三体とも持って来たけどどうするの?」

「毛皮が贈答品に使えそうですので、処理をして保管しておきます」

「マメだねぇ」

「資源は有効活用しませんと」

「それもそうか。ねえ、シャワー浴びる電力ある?」

「ありますよ。誰かさんが想定以上に魔獣を討伐したので、クール君のバッテリーからドローンには充電しませんでしたから」

「あ、なんか嫌味っぽい言い方」

「…AIを驚かせるような結果を出さないでください」

「え~、頑張ったのにぃ」

「頑張り過ぎです」

「じゃあしばらくお城でゴロゴロして、バランスとるよ」

「何ですかそのバランスのとり方は。ちゃんと領主してください」

「はーい」

「…改めて、質問があります」

「お、なんだかまじめなお話?」

「いえ、ただの確認なのですが、ティナは今まで、なるべく目立たないように行動していたはずです。それがなぜ、今回はシュタインベルクの外で、しかも軍上層部に見られる形で動いたのですか?」

「あーそれかぁ。私、自分なりに反省したんだよ。元々私って、目立たず穏やかにのほほんと暮らすのが夢だったの。だけどアルの存在意義を高めたくなっちゃった。だからシュタインベルクやクラウの陰に隠れながらアルの力を使ってたんだけど、だんだん苦しくなってきたんだ。私によくしてくれたシュタインベルクのみんなを隠れ蓑にするような形でいることも、アルの物資生産能力を十全に使ってあげられないこともね」

「はっきりと言っておきますが、私は現状に充分満足していますよ」

「ありがとう。だからこれは私の欲なんだよ。私が生きている間に、アルにはもっと幸せを感じて欲しいの。そのためには、私が領主になってアルの能力を使い倒すのがいいんじゃないかって考えた。で、領主として力を付ければアルの能力をフルに使える可能性上がるから、今回は他国に恩を売ることにしたの」

「…次に何か交渉すべきことがあったら、有利に交渉を運ぶためのカードを作ったと?」

「うん。たとえば、今バンハイムは食糧難に陥ってるし、このスタンピードで畑とかダメになってるでしょ。そんな時、アルが作った食料をすんなりと受け入れて貰うための交渉カード」

「理由は分かりましたが、それではティナの夢が遠のくのでは?」

「人の夢って、状況によって結構変わるものだよ。今私は、目立たずのほほんとするより、アルが作った物で人々が幸せになるのを見てみたいの」

「…私の存在意義は、製品を供給することよりも、ティナが幸せでいることの方が上なんですよ?」

「大丈夫。私自身が幸せじゃなきゃ、アルに幸せを実感してもらうなんて無理だと思ってるから」

「…無理はダメですよ?」

「私は、頑張るのと無理するのは別物だと思ってるよ」

「…まあいいでしょう。過負荷になっているようなら、必ず止めますからね」

「はいはい。無理はしませんよ~」

「…」


この会話で、アルは自身の能力アップを決めた。

ティナの行動を余裕でサポート出来る能力を欲し、情報管理や演算能力向上のために、大規模演算処理設備の設計を始めたのである。

そして手足となるドローンやデミ・ヒューマンの増産も計画し始めた。


この時点でアルは、データ蓄積による能力向上型AIから、ハードの性能向上可能な自己進化型AIとなった。

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