ちょこっとお手伝い

「閣下、妖精王からの通達、やはり本当でしたね」

「旧王族の領土割譲時の欺瞞や、中央教会上層部の腐敗を動く絵で見せられているからな。信じた方が得が多い。うん? 市街地の外、魔獣が閃光で倒されていないか?」

「観測兵、何が起きている!?」

「わ、分かりません! 一瞬何かが光ったかと思ったら、魔獣が倒れていきます!」

「…まさか!? 誰か! 避難民の中にシュタインベルクへ行商に行っている者がいたら、至急連れてこい!!」

「はっ!」

「シュタインベルク? どういうことでしょうか?」

「分からん。だが、シュタインベルクで善行を成すと、妖精に閃光で守られるという噂があった」

「まさか? あれは荒唐無稽な迷信では?」

「分からんが、妖精王からのメッセージは、厳然たる事実だからな」

「…」

「む。大通りの入り口で戦っている者、子どもではないか?」

「観測兵、大通り入口で戦っている者を確認せよ!」

「はっ。……なっ!? こ、子どもが魔獣と戦っています! 淡い金髪で、身長はおそらく1mと少し。五、六歳の少女に見えます!!」

「馬鹿な!? そんな幼い少女が魔獣の死体の山を作っているだと!?」

「はい! 魔法で何か、光る矢のような物を飛ばしているように見えます!」

「なんだそれは…本当に現実なのか?」

「閣下、シュタインベルクに行商に行っている、商人殿をお連れしました!」

「あ、うむ、ご苦労。観測兵、望遠鏡を使い、商人殿に閃光で魔獣が倒される様子と、あの少女を見てもらえ!」

「はっ、了解です! 商人殿、こちらへ!」

「え? は、はい。……おお! あれはまさしく、妖精様のご加護!」

「少女の方もお見せせよ!」

「は! こちらの望遠鏡もご覧ください!」

「はい。…え、ティナ様!? なんでバンハイムに!?」

「商人殿、あの少女をご存じか?」

「あ、はい。彼女は妖精の巫女様であるティナ様です。妖精都市で何度かお見掛けし、お話したこともございます。ですが、なぜティナ様がここに…」

「妖精の巫女様とは、どういう方なのだ?」

「えっと、妖精都市シュタインベルクの妖精教会で、時々神事を司っておられた方です。ポーションづくりもなされていて、ティナ様のポーションは、商人の間ではすごい効き目と大評判です。妖精商会の商会長でもあり、妖精商会の商品はどれも一級品。特に魔獣の毛皮は、あそこでしか手に入らない貴重品が多くございます。シュタインベルク家の方のお話では、最近妖精王国直轄領のご領主になられたとお聞きしました」

「…まだ幼い子どものように見えるが?」

「妖精都市では、住民ばかりか領主家の方々もティナ様を敬っておいでです。これはシュタインベルクの商人たちの噂ですが、何年も前からあのお姿なので、妖精と契約なされて寿命が大幅に伸びているのではないかと言われております」

「…外の閃光は、妖精の加護ですか?」

「はい。商人仲間と商隊を組んでシュタインベルクから帰る折、実際にあの閃光で、魔獣を撃退していただきました」

「…ご協力感謝します。おい、送って差し上げろ」

「はっ」

「…ポーションが作れるなら錬金術師でしょうか。ですが商会長? 妖精の巫女様? 直轄領のご領主様? 妖精との契約者?」

「話を聞いて余計に分からなくなったな。だが、魔獣討伐に妖精と彼女が助力してくれているのは確かなようだ。…妖精か彼女が守りたいものがここにあるということだろうか?」

「閣下、発言よろしいでしょうか?」

「む、何かな?」

「二年ほど前ですが、私の家の近所にあるスラム街近くの教会で、孤児の冬支度用の資金を盗んで逃げた修道士が、額と頬に×マークを刻まれてぐるぐる巻きで教会前に転がされていたことがありました。額には『子どもたちの敵』と書かれた紙が貼られ、祭壇前には盗まれた以上のお金が積まれ、子どもたちのために使えと伝言が添えられていました。シュタインベルクでは悪さをすると額に×マークが刻まれるとの噂がありますが、何か関係があるでしょうか?」

「…中央教会の腐敗を暴いたのも、孤児院の閉鎖がらみだったな。ひょっとして、子どもたちを守ろうとしているのか?」

「孤児院を追い出された子どもたちに付き添った助祭から、孤児院の関係者に手紙が来たそうです。優しい領主様に保護され、孤児や付き添った者は全員が衣食住を保証されて、新たな生活を始めたと。子持ちの部下が、よろこんで報告して来ました。報告を上げず、申し訳ございません」

「すべてを報告されては仕事にならんからそれはいいが…。孤児と共に首都を出た者は百人以上いたはずだ。それを一度に保護して衣食住を保証した? まさか、保護した領の領主とは…」

「分かりませんが、妙に繋がりを感じますな」

「……」

「観測より報告! 虎型魔獣、三体確認!」

「なっ!? まさか、死与虎か!?」

「不明ですが、閃光エリアを抜けて市街地に入ります。あ、少女が迎撃に向かう模様!」

「どこだ!? 見せろ!」

「こちらの望遠鏡で捉えています!」

「代われ!」

「はい!」

「……あのスピードは死与虎だ。若いころ討伐隊で遭遇して、一体で大部隊が半壊した。それが三た、んなっ!? 先頭の一体を瞬殺だと!? なんだあの身のこなしは!? 死与虎より早いぞ!」

「…閣下、あれ、三体とも倒れていませんか?」

「……ああ、倒れているな。少女は、なっ、消えただとっ!?」

「閣下、大通りから魔獣が来ます! 指揮を!」

「くそっ、少女に負けていられるか! 俺たち軍人が住民を守るんだ! 軍の存在意義を示せ!!」

「「「「おう!!」」」」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る