動き出した魔獣

その後ティナは、なるべく電力を使わないようにひっそりと過ごし、やがて朝を迎えた。


「ティナ、どうやら魔獣が移動を開始したようです」

「残念。少しでも遅ければ、それだけ蓄電出来たのに」

「仕方ありませんよ。魔獣はこちらの都合などお構い無しですから」

「まあそうなんだけどね。魔獣の進行速度は?」

「ナンセ村のスタンピードでは、平地で30km/hほどでした」

「じゃあ、首都手前で追い付く計算で、ぎりぎりまでソーラー充電。その後仮設発電機や岩型発電機で満充電にして、インビジブルモードで首都に急行。クール君も同時刻に首都に着く計算で」

「了解。戦闘開始のタイミングは?」

「首都直前で迎撃開始。バッテリー残量がここに戻れる分だけになったら撤退。首都のドローンは、市街戦が開始されたら軍の戦闘を人命優先で支援。インビジブルが継続可能なバッテリーを残して支援終了」

「ティナはどうしますか?」

「警護ドローンと一緒に迎撃に混ざる。クール君は上空でインビジブル待機」

「…ティナの戦闘力は理解しているつもりですが、無理はダメですよ」

「分かってる。バンハイムは私の腕の外だから、あくまでお手伝いで済ませるよ」

「そうですね。では、朝食を済ませてください」

「はーい」


そして、スタンピードの首都迎撃作戦が始まった。


魔獣の先頭が首都にたどり着く前、平原の何か所かで狼煙が上がった。

おそらくスタンピードの進行を首都に知らせるものだろうが、狼煙を上げた者は決死の覚悟だろう。

ドローンは地中の穴に逃げ込む兵を認識したが、急造の地下壕で、果たしてどこまでの強度があるのかは分からない。


やがて地下壕の上を魔獣の群れが通り過ぎ、スタンピードの群れは首都直前に迫った。


「ティナ、森を出た魔獣が首都方向に集中しています。首都に向かう魔獣が、想定より32%ほど増えます」

「うわぁ。スタンピードの魔獣って、遠くの人を検知する能力でもあるのかな?」

「ナンセ村の時も、村に集まって来ていましたね。他にも町があるので分散されると予測したのですが、分散率が低すぎます」

「まあ、起きちゃった事実は変えられないよね。頑張るしか無いよ」

「はい。この星特有の事象データをもっと収集して、予測精度を上げていきます」

「ああ、ドローンも頑張ってくれてるけど、機数少ないからかなり抜けられちゃってるね。そろそろ私も出るから、抜けられるにしても、なるべく私の方に魔獣を誘導して」

「了解です。お気を付けて」

「うん」

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