スタンピード、助力準備 2/2

「はい。まだ軍の結論は出ていませんが、どうやら首都で防衛線をする方向で話が進んでいます」

「え、軍を展開出来ないから不利なのに、どうする気なんだろう?」

「貴族街に住民を収容し、市街地に軍を展開して戦うようです」

「ああ、市街地の建物を利用してのゲリラ戦かな。市街地で魔獣を減らして、貴族街の城壁で防御しながら仕留める気かも。市街地を戦場にするなんて、随分思い切った作戦ね」

「矢と紐を付けた投げ槍を量産するよう、命令を出していますね」

「住宅の屋根の上や城壁上から討伐する気かな。槍は紐で引き戻して再利用するんでしょうね」

「城壁内への籠城より、よほど有効に兵を展開出来ますね」

「やっぱりバンハイム軍の上層部は侮れないね。市街地を戦場にすれば、民の家々に被害が出る。普通は軍に対する住民感情が悪化するのを恐れるのに、家々を防御陣地代わりにしてでも人的被害を抑えようとしてる。物事の本質を、良く分かってるわね」

「本質とは?」

「民の人的被害を抑えるのが一番。そして民を守るための軍人の被害も抑える。家々が壊れても、民を納得させられる自信があるんでしょうね。例えば事後の家の修理に軍人を使うとか」

「軍人が、業務外だと嫌がりませんか?」

「住民が貸し出してくれた防御陣地なのよ。次のために軍人が直すのは当たり前と言えば?」

「…ああ、ランダン王国駐留軍の存在を思い出させるのですね。脅威が身近にあれば、防御陣地は真剣に直しますか」

「スタンピードが起きて首都や近隣の町まで魔獣が押し寄せたのは、旧王族が南部領の戦力を瓦解させて森の間引き討伐が出来なかったから。そう言えば、バンハイム共和国と西部同盟の融和が加速しない?」

「バンハイム共和国と西部同盟共同で、南部に魔獣間引き用の戦力を再構築ですか」

「ついでにランダン王国の迂回しての西進に睨みを利かせられるし、南部穀倉地帯は回復する。西部同盟の戦力を分散させ、首都の過密状態も緩和出来る」

「…名案だとは思いますが、すべて今回のスタンピードを乗り越えられたらですね」

「そうね。そして妖精王国は、首都の入り口で戦力アピール」

「そのために森内で討伐しないわけですか。ドローンの移動分、運用が非効率と考えてました」

「バンハイム共和国にとっては、妖精王国は噂の域を出ていない存在。だけど助力する形で力を見せておけば、民は好感を持つだろうし上層部に対しては抑止力も生まれるわ」

「ダーナから弾道ミサイルを発射しますか?」

「それはやり過ぎ。いつでも他国の首都を壊滅させられる規模の力を目の当りにしたら、妖精王国が恐怖の対象になっちゃう。妖精王国は子どもの味方で、曲がったことや理不尽が大嫌いな存在になるの」

「了解です。クラウが言っていた『妖精の助力』でいいのですね」

「そう。問題を解決しちゃうんじゃなくて、解決のお手伝いをするの」

「スタンスは分かりました。ですが妖精王国の存在をアピールすると、クラウのところに仲介依頼が殺到しませんんか?」

「そうなんだよね。だから祠をあちこちに作ろうと思って」

「祠?」

「そ。キノコ型の妖精の家。自然の多い場所に建てて、気まぐれに人の願いを聞いて妖精が手助けするの」

「持ち去られませんか?」

「本体は地下深く。地下水を利用した充電スタンドで、ドローンを交代で常駐させておくの。持ち去ろうとしたら、×マークくらう」

「なるほど。祠は単なる充電端子ですか。充電後にすぐ飛び立つのではなく、次のドローンが充電に来るまではそこで待機するわけですね」

「この祠を各地に展開して行けば、ドローン展開効率も上がるでしょ。お願いが妖精に伝わる場所って言えば、わざわざシュタインベルクに来る必要無いし」

「どんなデザインにしますか?」

「そうだねぇ…。大きさは50cmくらいのマッシュルーム型。石製で、ドアと窓、煙突付き。こんなイメージで」

「…分かりました。量産します」

「うん、お願い」

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