スタンピード、助力準備 1/2

バンハイムとシュタインベルクの位置関係は、『巨』の字に近い。

右上がバンハイム首都、左の縦棒が西部同盟、右下が城塞都市シュタインベルク、中心部の横に長い四角は山脈と魔の森だ。

山脈は右に行くほど高くなり、大陸の終端近くまで続いている。


シュタインベルク領主邸を飛び立ったティナは、バンハイム首都とシュタインベルクの中間にある山脈に向かった。

ここの山脈内部には、工事中の充電拠点がある。


「アル、音声で伝えた理由は?」

「クラウも聞いておいた方が良いと判断して、問題無い部分を音声伝達にしました」

「分かった。予想被害、大きいのよね?」

「はい。異常濃度の魔素が噴出を初め、魔の森内各所で野生動物が魔獣化しつつあります。このままだと、首都壊滅の可能性もありますね」

「おう。…よく事前に察知出来たね」

「ティナ発案の偽装型太陽光水力発電岩の設置場所を探していて、魔素の異常を感知しました」

「そうだったのね。さて、今回の件、妖精王国としてどう対処しようか?」

「介入は確定ですか?」

「うん、そのつもり。さすがにバンハイム首都壊滅は子どもたちの犠牲が多すぎる」

「了解です。そうなると、情報提供、ドローンでの魔獣討伐、討伐軍への物資提供あたりでしょうか」

「そうだねぇ。まずは情報提供して、軍の動き次第で次を考えよう。情報提供先は、バンハイム首都の軍上層部と失地回復領、近場の町の領主。西部同盟盟主と、クラウにも。森から溢れる予想も付けといて」

「了解です。現在の魔獣の推移を見ると、明日には森から溢れそうですね。ティナ、今回は積極的に介入しようとしていますが、理由は子どもたちの犠牲抑止だけですか?」

「いや、またクラウに迷惑掛けちゃったから、ちょっと反省したの。シュタインベルク領の価値を上げるために妖精王国の窓口化しちゃったけど、妖精王国の考え方を発信してなかったから、クラウのとこに面倒ごとが舞い込んだじゃん。だから妖精王国としてのスタンスくらいは発信していこうと思って。とりあえずは、子どもが犠牲になりそうな災害の情報発信から」

「基準や範囲はどうします?」

「バンハイム共和国、西部同盟、シュタインベルク。おもねられたり依存されても困るから、被害想定が大規模なものに限ろう。あ、情報発信は可愛い妖精がいいな。毎回妖精王陛下がやってたら、安く見られそうだから」

「承知しました。では、映像を作成してすぐに配信します」

「うん、お願い」

「ティナはどうしますか? ここはまだ、工事ドローン用の仮設発電機しかありませんよ」

「う~ん…。工事は一時中断で、工事用ドローンは森の北側外縁部付近でソーラー充電しながら待機。クール君も山脈のどこか見えない場所でソーラー充電しながら、中で状況観察するよ」

「森全体の情報収集が出来なくなりますので、魔獣の総数や進路の予測が難しくなります。討伐に参加する気ですね?」

「そのつもり。首都での防衛戦なんて選択されたら、兵の展開力無いし防御壁もまともなのは貴族街しか無い。犠牲増えちゃうよ」

「戦闘に使用出来るドローンは、首都に展開中の物も併せて大型二機、中型四機、小型九機です。応援も向かわせていますが、移動での電力消費を回復出来そうにありません」

「また電力不足か。継戦能力も欲しいから、ここにある岩型発電機全部出して、川に並べて。設置場所の見た目が不自然でもいいから、発電効率優先で。ここに設置予定の水力発電機は?」

「了解。ここはまだ地下水脈の流水路工事中で、設置用の発電機は運んでありません。アオラキやホーエンツォレルン城からも発電機を持った大型ドローンを飛ばしていますが、途中からは発電機の蓄電を使っての移動になります」

「シュタインベルクだけ守ればいいと思ってたから、ドローンの展開力整備を後回しにしてた。失敗した~」

「それでも、ここが工事中で大型・中型ドローンや岩型発電機があっただけましです」

「…夜の内にダーナでドローンや発電機持ってこれない?」

「すみません。ダーナは今、工事物資を満載して孤島にあります」

「あちゃ~。これ以上の戦力増強は無理か」

「事前にご報告すべきでしたか?」

「いや、工事関係は完全にアル任せだから、別にいいよ」

「クール君の運用を開始したので、ティナの高速移動には問題が無くなり、ダーナは孤島基地化の中核に回してしまいました。孤島から今夜発進させれば、最短一時間で到着可能です」

「夜しか動かせなダーナより、クルー君の方が使いやすいから当然よね。月齢と天気の予想は?」

「この近辺では今夜は晴天、月は地球と周期は違いますので、月の視認範囲で言えば74%です」

「そりゃ地球とは周期違うよね。でも、斥候とか放たれてたら見つかりそうな月明りだね。…ダーナは動かさないでおこう」

「了解です。それより、昼食抜きはダメです。クール君の機内食を食べてください」

「あ、もうお昼すぎてるのか。分かった。食べてるうちに各所の反応教えて」

「はい。一番早く動いたのはバンハイム軍の上層部です。現在魔獣討伐作戦を立案中で、同時に非番の兵に招集命令。ランダン王国の駐留部隊も、作戦立案に入りました。失地回復領では、緊急避難を命じました。西部同盟は、避難民の保護に動く相談をしています」

「へー、動き速いな。軍の反応が早いのは予想出来てたけど、失地回復領の動きが早いのは意外だよ」

「領主代行が、魔の森の魔獣間引き討伐が出来なかったことを悔やんでいますね」

「ああ、元々南部の人だったのかも。南部は崩壊以前には、間引き討伐でスタンピードを押さえ込んでたみたいだね。首都から西部同盟までの各町は?」

「ダメですね。首都に近い二つの町では、領主が逃げる準備を始めています。西部同盟東部の町は、動きはありません」

「……領主だけ逃げようとする町があったら、映像で領主が逃げようとしてることを町中で暴露して」

「了解。各町に配備した小型ドローンは、今後どうしますか?」

「各町の情報収集続行。呼び寄せても、バッテリーが不安でしょ」

「そうですね。明日はどのような予定ですか?」

「首都の南で、出来るだけ魔獣を討伐するつもりよ」

「明らかに戦力不足ですので、取りこぼす数の方がはるかに多くなりますよ」

「それでも討伐しないよりはましでしょ」

「ホーエンツォレルン領周辺の魔の森での戦闘データを基に試算すると、スタンピード全体の27%討伐が限界と思われます」

「それは岩型発電機の蓄電も考慮して?」

「予想蓄電量を含めて計算しました」

「かなり厳しいわね。首都に残ってるドローンはどうしてるの?」

「情報収集の小型一機以外、屋根の死角などでソーラー充電に入っています。こちらに呼びますか?」

「いいえ。まだ軍の作戦が分からないから、電力回復に勤めて」

「はい。まだ軍の結論は出ていませんが、どうやら首都で防衛線をする方向で話が進んでいます」

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